Attack On Titan


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ラブソングをキミに


絶望への前奏曲 6


「じゃ、理由も聞いたし、私も感染りたくないから帰るわ。」
「おい、ナナバ。」
「何?」
「ついでだ。水持って来い。」
「………………私、あんたの嫁でもなければ直属の部下でもなんでもないんだけど。」
「そうか。ならばエルドを呼んで来い。」
「……あんたもう少し、エルドを労わってやりなよ…。」
「あ゛?病人相手に説教か?うぜぇんだよ、さっさと出て行け。」




ベッドに横になりながらも相変わらずな口調のリヴァイさんに、ナナバさんが大きなため息を吐いた。
それを聞いてか聞かずかはわからないけど、リヴァイさんがナナバさんに背を向けるように横になった。
それを見計らって、部屋に入っていったらナナバさんが驚いた顔をした。
ジェスチャーだけで、私が変わる、と伝えるとナナバさんは一瞬躊躇ったものの、両手でわかった、と言うような仕草を見せた後で、部屋を出ていった。
背を向けて寝ているリヴァイさんを、少しだけ身を乗り出して見るけど、その表情まで見えなかった。
………水、を、ほしがっていた、よ、ね、と思い、いそいそと水差しとカップを用意してベッドの隣のサイドボードに置いた。
その間、ピクリとも動かなかったリヴァイさんの額に、そっと手を伸ばした。
……ほんとだ、まだかなり熱い、と思った時、


「テメェ、ここで何やってる?」


リヴァイさんが少しだけ体をこちらに向けながら口を開いた。


「…お水、持って、きました。」
「あ?」


私の言葉に、体を起こして睨むようにこちらを見てきた。


「…しばらく戻ってくるなと言ったのが聞こえなかったのか?」


そういうリヴァイさんは、やっぱりいつもよりも赤い顔をしていた。


「でも、今街で流行っている熱病なら、誰かが看病した方が、」
「エルドを呼んで来い。お前はここに来るな。」
「……私、」
「あ゛?」
「………感染っても、もう記憶障害になんて、なりません、よ?」
「……………」


私の言葉に一瞬目を見開いた後、リヴァイさんはものすっっっっごい眉間にシワを寄せて睨んできた。


「普通に考えて、」
「…」
「何度も記憶失くしたり、しませんよ。」


それに私の「あれ」は…。
今となっては「それ」自体が夢だったような気もする不確かな記憶だけど、「記憶喪失」なんかじゃ、ないと思う。…たぶん。


「1度綺麗に忘れちまった人間が言う台詞か?」
「…そう、かも、しれません、が、」
「話は終わったな?ならば出て行け。」


言うだけ言って、また背を向け横になったリヴァイさん。
…………リヴァイさんて、こういう、頑固と言うか、頑なと言うか…、そういうところ、あるけど、こんな時までそういうの見せなくてもいいんじゃないかって、どこか寂しさを感じた。


「もし、私が、その熱病が感染って記憶障害を起こしたとして、」
「………」
「別に困ること、ない、し、」
「…………あ゛?」


今日のリヴァイさんは、やたらとドスの効いた声で言ってくるなぁ、なんて、ちょっとピントがずれたことを思っていた。


「そ、りゃあ、皆さんには、迷惑かけるかも、しれない、です、けど、」


リヴァイさんは、再び起き上がって私を睨んできた。


「でも、私が忘れる『だけ』で、皆さん、も、リヴァイさん、も、私のこと、覚えてるんですよ、ね?なら、困ること、ない、し。」
「……………は?」


それまでくっきりとシワを刻んでいたリヴァイさんの眉間から、シワが消え、目を見開いていた。


「その逆、は、嫌ですけ、ど、」
「…」
「もし、私が記憶を失くしたとしても、リヴァイさんがいてくれるなら、大丈夫な気がする、し。」
「……」
「『私』が困ることは、あんまりないかなぁ、って…。」
「……………」


私の言葉に、リヴァイさんは右手で額を抑えた。


「…お前、」
「はい?」
「本当にあのバカガキと同じ血を継いでるな。」
「え?」


そういう問題じゃねぇだろ、と言いながらリヴァイさんは大きくため息を吐いた。


「…でも、」
「あ?」
「私にとっては、『そういう問題』です、し。」
「…」
「例え今ここで記憶が全部失くなっても、リヴァイさんがいてくれるから、心配ない、し、」
「……」
「逆に今ここで看病しないで、リヴァイさんが私を忘れる、なんてことになる方が嫌だなぁ、って…。」
「………」


リヴァイさんは、チラッと私を見遣った後、目を閉じ、眉間に1本、深く深いシワを刻み大きくため息を吐いた。


「勝手にしろ。」
「…はい、勝手にします。」


リヴァイさんはそう言うと、ベッドに身を沈めた。
今度は横ではなく、仰向けになった。


「子守唄、」
「…」
「歌いましょうか?」


こんなこと言ったら、いつもならリヴァイさんは絶対ムッとすると思う。
でも…。


「………そうだな。」


そう言ったリヴァイさんは、やっぱり具合が悪いんだろうな、って思った。


「何が良いですか?」
「なんでもいいぞ。」


そういうのが1番困るって知ってます?って、言いたかったけど、どこか赤い顔をしているリヴァイさんに言えるわけもなかった。


「…そういや、」
「はい?」
「あの歌、ラブソングなのは聞いたが意味は?」


仰向けになりながら、チラリと目だけ私を見てくるリヴァイさん。


「あれは…、」
「あれは?」
「…どんなに辛く苦しい時が来ても、私が必ず、救い出してあげる。だから前に進んでくださいっていう歌ですよ。」
「…そうか…。」


そう言ってリヴァイさんは天井を見上げた。


「好きですか?あの歌。」
「良い歌だからな。」
「……〜♪〜」


リヴァイさんの言葉を聞いて、小さく口ずさむ。
私の歌声を聞きながら、リヴァイさんはゆっくり目を閉じた。

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