■絶望への前奏曲 4
「あ!いたいた!おーい、フィーナー!」
緩やかに、穏やかに、季節は流れていく。
また次の遠征計画が発表されたある日のこと、ハンジさんが私を呼ぶ声が聞こえた。
「はい。どう、し、」
「フィーナ。」
「マ、ママ!?」
その声に振り返ると、ハンジさんの後ろを、ママが、歩いていた。
「え、な、ど、どうしたの!?」
「村の人達とストへスに野菜を出しに行くついでにね、」
「うちに寄って新鮮な野菜を届けてくれたんだよ!」
ねー、とママと頷き合ってるハンジさん。
……………いやいや、「ねー」じゃなくて。
「な、なんでいきなり、」
「だからうちに野菜届けてくれたんだって!ありがたいことじゃないか!」
良いお母さんだね!なんて言うハンジさん。
……調査兵団に入団して早4年。
今の今まで1度もママが兵舎に野菜を届けに来るなんてことなかった(荷物として送ってくれることはあったけど)
それがいきなりこんな行動、思い当たることなんて、1つしかない。
「…少しでいいんだけど、時間取れないかい?」
…………………まず間違いなく、前回出してしまった「あの」手紙のことだ、と、思う…。
「で、でも、今から、訓れ」
「あー、良い良い!お母さんもこの後ストへスに行かなきゃなんだ。どうせ2時間も3時間も、ってわけじゃないだろう?ちょっとくらい話して来たらいいよ。」
ミケには私から言っておいてあげるから、なんて言って足早にいなくなってしまったハンジさん。
……だからですね、そのちょっとが気まずい、って言うかです、ね……。
「フィーナ。」
「…う、うん?」
たった一言返事をするだけでも、声が上ずったのが、自分でもわかった。
その声を聞いたママが、苦笑いしていた。
「…手紙、読んだよ。」
「………」
「父さんちょっと、落ち込んでた。」
「…ご、めん、なさ、い。」
「あぁ、別に責めてるわけじゃないよ。」
ママは目の前で大げさなほど、手を振った。
「…手紙を読んで、昔を思い出してしまってね。」
「え?」
ママが少し、目を細めながら言った。
「お前がいきなり高熱で倒れて…。治ったもののいつもどこか俯いてて、家族以外とは話さなくなって、本当にどうしようかと思ったけど…。」
「…」
「兵士になるって言って家を出てった後は、仲の良い友達が出来たり、信頼出来る人が出来たり…。あぁ、兵士として送り出して良かった、って、そう思った。」
ママは、私の団服の自由の翼に優しく手を触れた。
「覚えてるかい?あんたがこれを着て、初めて村に帰ってきた日のことを。」
「え…?」
「『あんたはあんたが好きな道を生きたらいい。』私は確かに、そう言った。」
ママが真っ直ぐと、私を見つめて言った。
「何も、あの日と変わらないよ。」
「…ママ…。」
「…ただ、ね。あの日も言ったと思うけど、『何度壁外へ行ったとしても、必ずちゃんと、帰ってくるんだよ』?」
ママは、そう言って優しく笑った。
「…めん、ごめんね、ママ…。」
「あぁ、ほら!あんたこの後訓練あるんだろう?泣いたらまた怪我するよ!」
ママの言葉に優しさに、視界がみるみる滲んでいった。
「スプリンガーさん!そろそろ行きますよ!」
「あ、はい!…じゃあフィーナ、またいつでも帰っておいで。」
「…うん!」
一緒に来た村の人たちがいる方へと行くママの背に手を振った。
「フィーナか?」
「え?…あ、リヴァイさん。」
ママを見送っている途中、声をかけられ振り返るとリヴァイさんが近づいてきていた。
「お前ここで何してる?訓練はどうした?」
「今、少し、だけ、抜けて、」
「抜けて、なんだ?」
「あ!そうだ、ママが美味しい野菜持って来てくれたんです。野菜スティックにしたらお酒のおつまみになりますね。」
「は?『ママ』?…なんだ、お前まだ何か揉めてんのか?」
「ち、違いますよ。…むしろ、和解できた、って、言う、か、」
「はぁ…?」
「行きますよ?」
「あの人、確か…(うちにフィーナを迎えにきたことある…)」
「スプリンガーさん?」
「そう、か…(あの子のあの顔はきっと…)」
「どうかしたんですか?」
「…すみません、行ってください(…あぁ、なら何も、心配すること、ないじゃないか)」
「えっ!?スプリンガーさん泣いてません!?ほんとにどうしたんですか!?」
「あぁやだ、年取ると涙腺脆くなって困るねぇ…。」
「まぁ、なんでもいいが、話まとまったんなら訓練に戻れ。お前の班、今日立体機動の演習だろ。」
「…………」
「なんだ?」
「もしかしてリヴァイさん、全班の訓練内容把握してるんですか?」
「………………さっさと訓練に戻れ。わかったな?」
大きくため息を吐いた後、去って行くリヴァイさんの後について私も歩き出した。
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bkm