Attack On Titan


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ラブソングをキミに


平穏の終わり 8


数日間のウォール・シーナでの会議の結果、


「シガンシナ以外の突出区から、使用できる物資を運んで来いとの命令だ。」


団長から私たちの任務が言い渡された。


「お前たちもわかっているだろうが、事は急を要する。ウォール・ローゼ、ウォール・シーナだけでは、ウォール・マリアからの難民を賄えるだけの食料が圧倒的に足りない。今後十数回にわけて各突出区より持ち運べる物資を全て持ち運ぶ。」


人類はその活動領域に比べ、圧倒的に人口過多に陥ってた。
食料不足は時間の問題…。
仮に「今」突出区から物資を持ち運んだとしても、それが尽きた時、どうするつもりなのか…。
誰もが考え、そして誰もが口に出来ないまま、時だけが流れた。
そして数度目の物資調達のための遠征。
今回はシガンシナとは間逆の、突出区の中で北に位置する場所からの物資調達なため、ウォール・ローゼの北区から、遠征に出ることとなった。


「…やっぱり北側は巨人が少ないね…。」


そう言ったのは、ハンジさん。
その言葉通り、巨人遭遇率は、トロスト区から出発したそれよりも格段に減少していた。
門の破られていない北区は実に穏やかに時が流れ、私たちはここで数日間滞在し、集められる物資を集めてからウォール・ローゼに帰還することとなる。
この分なら、多くの物資を持ち帰れるんじゃないか。
誰もがそう思っていた。


「エルヴィン、いいか?」
「どうした、ミケ。」
「…風に乗って、血の臭いがする。それも大量に。」


最初に異変に気がついたのは、ミケさんだった。
その言葉に、急遽ウォール・マリアの壁の上から周囲を確認してくる、と言うことになり、ミケさん、エルヴィンさん、リヴァイさん、そして何か聞こえるかもしれないからと、私の4人で見てくることになった。
壁の上に馬をあげ、それに乗って駆け出すと…、


「…おい、フィーナ?どうした?」
「ひ、人、の、」
「あ?」
「…人の、叫び声のようなものが、聞こえます…!」


間もなくして、人の叫び声のようなものが、聞こえてきた。
それは聞いたことのある…、壁外で、先輩兵士が捕食される直前にあげた、断末魔に似たものだった。


「どこからだ?」
「あ、あっちですっ…!巨人もたぶん…3体はいます!」
「俺が行く。」


そう言って立体機動を用いて壁を駆け下りたリヴァイさん。
数分の後、リヴァイさんは1人の男の人を抱えて、私たちのいる場所へと戻ってきた。


「生存者は、あなただけですか?」


エルヴィンさんの問いに、


「わかりません。もしかしたらまだ、向こうで運良く生き残っている者たちもいるかもしれませんが、生き残ったとしても私たちに帰る場所はもうっ…!」
「どういうことです?」
「…『私たち』は、政府から捨てられたんです…!」


その男の人が、信じられないことを口にした。


「に、25万人っ!?」
「ろくに訓練も受けていない25万もの人々を巨人の群れの中に送り込んだと言うのかっ!!?」


私たちが物資調達にと北区に向けウォール・ローゼを出発した日の午後、政府から全国民に「ウォール・マリア奪還作戦」が言い渡された。
それはつまり、限りある土地の中で「元々そこに住まう者たち」を守るための口減らし。
ウォール・マリアからの難民たちを、「ウォール・マリア奪還」と言う名の下にろくな装備を与えず、巨人が闊歩する中へ放り出す作戦…。
それは恐らくかなり前から、私たち調査兵団には極秘で進められていた計画で…。
調査兵団がいない、つまり、より多くの口減らしを出来るタイミングで公表され、その翌日の昼、それは迅速に実行に移された…。


「『生存者』はどうしている?」
「…今はベッドで寝ているよ。」


私たちがたまたま発見した男の人をつれ、他の兵士が待つ北区に一旦戻り、エルヴィンさんが団長はじめ全員に現状を伝えた。


「あんなっ、鍬や鎌なんかで巨人に立ち向かわせるなんてっ…!!」


「死んでくれと言っているようなものだ」とは、誰しもが思って、誰しもが言わなかった。


「団長、こうなった以上は、」
「あぁ…。明朝ここを出てマリア内を1周し、1人でも多くの生存者を壁内に連れて帰るぞ。」


物資を持ち帰らないことは、政府にたてつくこととなる。
でも誰1人、団長に対して反論する人はいなかった。


「…正直なところ、キミにはもっと穏やかに討伐経験を積ませたかったんだが…。」


作戦決行直前、エルヴィンさんに言われた。


「とても聞こえにくいかもしれないが、巨人とは違う『生存者の可能性』のある音が聞こえたら都度言ってくれ。」
「はい。」
「では…行くぞ!」


そして生存者を探すべく、マリア内に散った私たち。
私たちが滞在していた北区以外の3つの突出区からそれぞれにウォール・マリア内に放出された人々は、


「エルヴィンさんっ!」
「どうした?」
「巨人の音の中に混じって、人の叫び声がします…!!」


今現在、まだ多くが、生き残っていたように感じた。


「…いたぞ!あそこだっ!!」
「う、あ、あぁ、たっ、助、け、」
「今行くっ!」
「ぎゃあああああああっ!!!!!!」


けど、それも刻一刻と、捕食されていった。


「フィーナ!そっちの怪我人を頼むっ!!」
「はいっ!」


エルヴィンさんの指示に従い、駆け寄った先に倒れていた人は、腹部に大きな歯型をつけられ、大量に出血していた。
…誰が見てももう、手遅れだった…。


「しっかり、しっかりしてくださいっ…!今手当てしますからっ!!」
「…か…」
「え?何?」
「どう、か…、息子だけは、アルミンだけは、守ってやって、くださ、」


そこまで言うとガポッ、と大量に吐血し、その人は息絶えた。


「フィーナ!その人は!?」
「…っ、」


人の叫び声。
血が逆流する音。
肉が、食いちぎられる音。
そして、叶えられる見込みなど、無いに等しい、託された思い…。
人は、悲しすぎると涙を流すことすら、出来ない。
ううん、もうこの異常事態に心が麻痺してしまって、涙を流すことすら、忘れてしまったのかもしれない。
この日から丸3日かけて、様々な音を耳に、心に、刻み、私たちのマリア奪還作戦が終わりを告げた。

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bkm

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