キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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New York Case


絡み始める運命


「あおい!ここにいたの?」
「蘭…。足大丈夫?」
「うん。この程度なら部活でよくやっちゃうからね。楽屋でテーピング固定させてもらったし、走ったりしないなら大丈夫だよ!」
「…そっか、良かった」


そして舞台の幕は上がり、原作通り、事件が起こる。
それは全て予定通り、滞りなく、進んでいた。
だからあぁ、やっぱり、って。
やっぱり原作通りにお話は進むんだ、ってどこか他人事のように事件を見ていた。


「神様はちゃんと私のことを見守ってくれてたみたいだわ。鎧が落ちてきたとき偶然釘が引っかかって逃げられなかった私を助けてくれたんだもん」


そして犯人は、蘭に微笑む。


「thank you sweet angle.you helped me do it.」


全て、原作通りに進んでいる。
蘭が、思いつめて自分を追い詰め、それを新一くんの一言が、救うんだ。
…知っていながら、何もしない、何もしなかった私が1番、酷い人間なのかもしれない。


「んでな、その時ホームズはこう言ったんだよ。仮に地球が月の周りを回っていたとしても、僕の仕事には全く影響しないのだよ、ってな」


ファントムシアターの帰りのタクシーで。
助手席に乗るって言ったらいいからここに座れって、また私をセンターに3人で後部シートに座った。
サイズ的にオメーが真ん中って言われたから真ん中に座っているけど、隣の蘭が明らかに沈んでいるのがわかって、


「…」


ギュッ、て蘭の手を握った。
それは私の役目じゃないかもしれないけど。
でもやっぱり蘭は友達だから、そんな顔、しててほしくない。
蘭は一瞬、驚いた顔をしたけど、何も言わずにギュッ、て握り返してくれた。
それからしばらくして、


「スミマセン止めてください!!」


飛ばされたシャロンから貰ったハンカチを取りに蘭が車から降りて、それに続いて新一くんも車から降りた。
そのまま運転手と2人車内に取り残されるのも嫌だったから、少し間を置いてから車から降りると、新一くんが廃ビルに入って行くところだった。
その姿を見送ってから、


「ねぇあおい」
「うん?」
「…なんでもない」


何かを言いかけて止めた蘭。
…何を聞きたかったか、わかるよ。


「蘭」
「うん?」
「私が蘭でも、同じことしたと思う」


それどころか、知っていて止めなかった私は…。


「あおい…、私っ」


パシャっと雨の中こちらに近づいてくる人がいた。
長髪の日系人…赤井、秀一。


「君たちとその連れにもう一度だけ言う。消えろ!このエリアから今すぐに!」


そう言って私たちを一瞥すると雨の中去って行った。


「ねぇあおい、やっぱりここいるんだよ、例の通り魔がこの近くに!」
「…うん、そうみたいだね。新一くんに知らせて早くホテルに行こう?」
「そうだね。新一ー!」


そう言って蘭が廃ビルに入っていく。
どくん、どくん、て、心臓が脈打つ音がいやに耳についた。


「…この床、…血っ!?し、新一ー!!」


何かあったのかもしれない、って。
見てこよう、って。
私の手を取り、少し足を引きずりながら歩く蘭と、ベルモットがいる、あの場所へ向かう。


「私のせい、だ…」
「蘭?」
「新一にもしものことがあったら、私っ!」
「蘭!!」


泣きそうな顔で、歯を食いしばる蘭。
こうなるって、知ってたのに…。


「…蘭は間違ったことなんてしてないよ。人が人を助けることに良いも悪いもないもん。助けを求めてる人がいたら、それがどんな人でも勝手に体が動くものだって思う。もし蘭を悪く言う人がいても私は、…ううん、きっと新一くんも、蘭の味方で傍にいるよ」


ありがとう。
聞き取れないくらいの小さな声で蘭は言った。


「…行こう?新一くんが待ってる」
「うん」


涙を拭った蘭と、もう1度手を繋ぎ直す。
私は今、余計なことを言ったのかもしれない。
でも、こんな顔してる蘭を放っておくことなんて、出来るわけなくて。


「誰か降りてくる!」


少し足を引きずりながら、蘭が叫ぶ。


「新一?…っ!?」
「逃げろあおい!蘭!!そいつは例の通り魔だ!!」
「恨むんならこういう結末を用意していた神様ってやつを恨むんだな」


ベルモット!
ギラギラとした目と銃口を向けてくるベルモット。
その瞬間、古くなった柵に寄りかかっていたベルモットの肢体が大きく揺れた。


「…危ないっ!!」


どうしてなんてわからない。
ベルモットの体が揺れた。
瞬間、体が動いていたんだから。
足を捻挫していた蘭は、私から一拍間を置いて、ベルモットを支え体の半分以上が柵の外に出ていた私の体を支えた。


「早く私の腕に掴まってっ!!雨で手がっ!!」
「くそ、世話のやけるヤローだぜ!」


私の隣に来た新一くんがベルモットに手を伸ばす。
その直後、ベルモットは私たちの腕を掴むことなく、驚異的な腕力で這い上がってきた。


「なぜだ?どうして俺を助けた!?」


息を上げながら言う通り魔に、新一くんが私たちを後ろに庇いながら言った。


「わけなんているのかよ?人が人を殺す動機なんて知ったこっちゃねぇが、人が人を助ける理由に論理的な思考は存在しねぇだろ?」


その言葉を聞いた直後、蘭が倒れこむ音が聞こえた。


「蘭!!」


倒れた蘭を、躊躇うことなく新一くんが抱き上げる。
…やっぱり。
やっぱり物語は決まった方へと進んでいくんだ…。


「止めときな。手負いってことは追っ手が近くにうろついてるってこと。サイレンサーもなしに銃をぶっ放せばすっ飛んでくるぜ?かといって俺もあんたを捕まえられる状況じゃない」


新一くんは私にアイコンタクトを送り先に階段を降りるように促した。


「この場は見逃してやるけどよ、また会うことがあったら容赦はしねぇ」


何か信じられないものでも見ているような、そんな顔をしていたベルモットに背を向け歩き出す。


「あんたが積み重ねた罪状や証拠を閻魔のように並び立てて必ず監獄にぶち込んでやっからそう思え」


その後廃ビルから出てタクシーを拾うべく隣のブロックに向かう。


「オメーは大丈夫か?」
「…うん。大丈夫」


タクシーに乗り込み、現地警察に通り魔の情報を通報したあとで新一くんが聞いてきた。


「怪我もしてねーだろうな?」
「え?うん。怪我なんてしてないよ?」
「ならいーけど」


ホッとした顔をする新一くん。


「なに?」
「…オメーに怪我させたなんて知られたら、あのクソ野郎が乗り込んで来そうじゃねーか」
「快斗くんのこと?」
「そんな名前だったかもな」


フン、と言った新一くん。
…新一くんと快斗くんは、予期せず出逢ってしまったけど。
でもあれ以来接触してる感じもない、し。
全ては原作通りに進んでいるんだ、って。
新一くんが蘭を抱きかかえホテルの部屋のベットに寝かせるまで、その姿をただ黙って見ていた。

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