キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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New York Case


Angel


蘭にこってりと叱られた後、私たちの前に警官が現れた。


「あっ!」


その警官は変装を解いて、女優の顔を見せる。
シャロン・ヴィンヤード、…ベルモット。
この人が、これからの新一くんにとって鍵になる人。


「こんな有名人に、しかもこのニューヨークであえるなんて神様に感謝しなきゃ!」
「この世に神様なんているのかしら?もし本当にそんな存在があるのなら一生懸命生きている人間は誰も不幸にならないんじゃない?そう、少なくとも私にAngelは微笑みかけてくれなかったもの。一度もね」


この世に神様はいない。
だってそうでしょう?
もし本当に神様がいたら、私が消滅する、なんてことには、ならないと思うもん。
…この世にいるのは最期の願いを叶えてくれる天使。


「ナイトバロニス?」
「ははっ。母さんがこっちでそう呼ばれてんだよ。ナイトバロンの作者工藤優作の妻だからってな」
「え、なんか有希子さんバロニスっぽい!似合う!」
「なんだよ、バロニスっぽいって!」
「あはは」


有希子さんは「有名小説家の妻」としてではなく、やっぱり「有希子さん」としても有名なんだと思う。


「じゃあその子たちはあなたの子供?」
「彼はそうだけど、彼女たちは違うわ。ま、もしかしたら未来に、って期待してたけど、それも今日で虚しい夢になりそうよ」



有希子さんが舞台女優さんたちに何か言い終わると、ギロッと新一くんを睨んできた。
新一くんは新一くんで「へっ」て顔をしていた。


「蘭、今の聞き取れた?」
「うーん…ところどころ?」
「だよね、良かった」


自分の語学力と蘭の語学力の差がそれほど大きくないことが確認できて安心した。


「天井のあれってなんですか?」
「ああ、舞台の衣装よ。場所をとるから上につってあるの」


パッと、脳裏に以前アニメで見たシーンが浮かんだ。


「危ない!!!」
「鎧!?あおいっ!!!」
「Nooooooooooooooo!!!」


脳裏にそのシーンが浮かんだと思った瞬間、蘭の叫び声が辺りに響いた。
と同時に新一くんが私の腕を引っ張り私の体に覆い被さってきた。
新一くんの腕の隙間から、蘭が逃げ遅れた人の方に走っていくのが見えた。


「な、」
「おい、大丈夫か!?」
「なんで私を庇うの!?」
「オメーが逃げ遅れたからだろっ!」
「蘭はっ!?」


意図せず逃げ遅れてしまった私。
その私を身を挺して庇った新一くん。
じゃあ蘭は?って新一くんを押し退けて蘭が走っていった方を見た。
床に倒れてる蘭に、体中の血の気が引く音がした。


「蘭…!!大丈夫か!?蘭!!」
「う、ん…」


ゆっくり起き上がる蘭は、痛い、と言って顔を歪めた。


「怪我したの!?」
「…つー…、この感じ、捻挫、かな?」
「すみません、足を捻ったようなんでテーピングか何かありませんか?」
「え、ええ。それなら楽屋に、」



…捻挫?
あ、れ?このお話で、蘭て捻挫、した、っけ?
私が、自分の記憶を手繰り寄せていると、シャロンが蘭に近づきハンカチを差し出してくれた。


「そこ、擦りむいてるわよ?」
「え?あ、ほんとだ!」
「はい、使って」
「あ、ありがとう、ございます…」
「…やっぱり神様なんていないわね。いるのならこんなむごい仕打ちしないもの」
「え?」


そう言った後、用があるからと去っていくシャロン。
あ、れ?
今シャロンから何か落ちた?


「待ってください!」
「え?」
「これ、落ちました」


拾ったそれは随分と使い込んでいる万年筆。
シアターの非常口から出ていこうとするシャロンに、それを差し出した。


「あら、ありがとう」
「いえ」
「…あなたもなかなかのイケナイ子ね」
「え?」
「彼の心に気づいてないわけでもなさそうだけど?」


そう言われて眉を顰めた。


「なん、の、ことですか…?」
「清純そうな女ほど、怖いものはないって話しよ」


シャロンは口の端を持ち上げて言う。


「本当に、神様なんていないわね。いたらあの坊やに、もう少し、祝福があると思わない?」


シャロンがフッと笑ったのがわかった。


「この世に神様なんていません」
「あら奇遇ね。あなたもそう思うの?」
「でも」
「でも?」
「Angel…天使なら、います」


私の言葉にシャロンは驚いた顔をした。


「あなたの前にも、きっと、現れます」
「…それは是非お目にかかりたいものね」


私の言葉にシャロンは鼻で笑いながら去って行った。
シャロンと、ううん、ベルモットと次に会う時は、蘭が、新一くんを好きって、自覚する時。
そして「ベルモット」にとっても、新一くんにとっても、大切な、必然の邂逅になる、はず。
それをどうしても、この目で見届けたかった。

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bkm

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