キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

卒業までの過し方


王子様


クリスマスから年末にかけて日本列島を襲う大寒波で、あおいちゃんとはつきあいだして初のクリスマスを一緒に過ごすことができなくなった。
…のは、百歩譲っていいとしよう。
自然災害なんだ、仕方ない。
けどな?


「は?なんて?」
「だからね、停電とか、断水になったりしたら大変だから寒波が過ぎるまで新一くんと2人で博士の家でお世話になることになったの」


そう言ってきたあおいちゃん。
いやいやいやいやいやいや、


「博士って、前に言ってた人だろ?工藤新一の家の隣って言ってなかった?」
「あ、うん。そうそう。その人だよ」


ふざけんな、隣なら帰れよオメー。
とは思っても、新一くんも1人だから、って心配そうに言うあおいちゃんに文句を言うなんてできるわけもなく。


「まぁ…博士がいるなら…」


って言うしかなかった。
まさかこの大寒波、あのクソ野郎のせいじゃねーよな?
あんニャロー、次会った時覚えてろよっ…!
そして腹立たしいクリスマスも寒波と共に過ぎ去った大晦日。


「いらっしゃーい!」
「ちづこ!!」
「ざんねーん!『ちづこ』ではないかなー」


去年言ってたように、今年もうちにあおいちゃんがきた。
…名前当て、まだ続いてたのか…(しかも外れてる)
そして…。


「今年は約束通り手巻き寿司だからね」
「美味しそう!」
「でしょー?あおいちゃんもいっぱい食べてね!」
「はい!」
「快斗もね!」
「いってぇな!」


自分で言ってたこととは言え、年末最後の最後でなんの苦行だとは思った。


「大丈夫?」
「……………最善は尽くす」


あおいちゃんの手前、せめて5…いや…3切れは…。
そんなことを思い口の中に放るけど、


もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ


の、飲み込むタイミングがわからねぇ…。
これもうあれだ。
水で流し込もう、そうしよう。
それを2〜3回繰り返した後で、


「ごめん、俺先に風呂入ってくる」


限界を迎えた。
…もう2度と食わねー…!
来年からはまたすき焼きにしてもらうから…!!
風呂入るついでに何度もうがいをして、歯も磨いて、口の中をすっきりさせてリビングに戻ったら、


「何これ、どういう状況?」


あおいちゃんとお袋が抱き合ってるシーンに遭遇した…。


「快斗!良かったわ、やっと来た」
「何、どーしたの」
「あおいちゃん、私のグラスと間違えて飲んじゃって酔いつぶれちゃったのよ!」
「はぁ!?」
「だからベッドに連れてってくれない?」


そういうお袋に抱きついてるあおいちゃんを見ると、顔を赤くして気持ち良さそうな寝息を立てていた。
…マジかよ、来年から絶対ぇすき焼き決定だ。
そんなこと思いながら客間のベッドに連れてった。
あー、あー、もっと話してたかった!とか、そんなこと思うけど、寝ちまったのは仕方ねーし。


「おやすみ」


額に口づけてリビングに戻った。


「あら、送り狼にならずに帰ってきたのね、王子様」


恐らくあおいちゃんが間違えて飲んだであろう酒を片手にお袋が絡んできた。
…「王子様」?


「あのなー、まだ未成年なんだから飲ますなよな。しかもそれ度数高ぇ奴だろ」
「飲ませたんじゃなくて、あおいちゃんが自分のグラスと間違えて気がついた時にはもう飲んでたのよ」
「ならもっと気をつけること出来ただろ?」
「悪かったわよ。そう怒らないでくれる?王子様」


俺の言葉にお袋がまた言ってきた。


「さっきから何なんだよ、その王子様っての」


そう聞いた俺に、お袋がニヤッと笑った。


「さっきあおいちゃんが酔っ払っていろいろお話してくれたのよー」
「…どんな?」
「あら、聞きたいの?」


ニヤニヤと笑うお袋。
…嫌な予感しかしねぇ…。


「あの子ねー、私にすっごい感謝してたの」
「え?」


お袋は持っていたグラスをグイッと飲み干した。


「優しくてカッコいい王子様を生んでくれた私にいっぱいありがとうなんです、って」
「…それ、って、」
「曰く?『快斗くんはもしかして王子様なんじゃないかって』思ったそうよ?」
「…」
「『あんなに優しくてカッコいいんだから、きっと王子様です』だって」


本人の口から聞いたわけじゃない。
酔っ払ったお袋が適当なことを言っている可能性もある。
でも1度上がった体温は、すぐには下がることはなくて。


「あなたを王子にしてくれるあの子の期待を裏切るんじゃないわよ」
「わかってるよ!」


お袋はくすくす笑ってる。
顔と言わず全身が熱を持ってる気がする。


「あら?食べるの?」
「…あと少しくらいは?」


残ってる刺し身に手を伸ばし始めた俺を、お袋は爆笑して見ている。
あぁちくしょー、せっかく歯も磨いたのに、って思いながらも箸を進めた。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -