■2人のルール
「あ、あのね、新一くん」
「あー?」
「わ、私、か、かかか彼氏?できたん、だ、」
「……………へー…」
いつかは言わなきゃ、と思ってたこと。
後回しにしてたばっかりに散々な思いをした経験から、今回は新一くんと2人の時にすぐ言うことにした。
ん、だけ、ど。
「そ、それだけ?」
「何が?」
「え!?い、いや、おめでとう、とかほら、」
「別にめでたくねーし」
「え、ええー…」
「まぁ強いて言うなら」
「う、うん?」
「オメー、男見る目ねーんじゃねーか?」
ムスッとした新一くんが、横目でこちらを見て言ってくる。
「…そ、んなことないし…!」
「あ、でも、俺はお前と『家族』なんだから、彼氏がいようがいまいが、今まで通りメシ一緒に食うだろ?」
「…えっ?」
「まさか『家族』に対してごちゃごちゃ言うような男なのか?オメーの男」
「えっ!?い、いや、そんなことは、」
「んじゃー、なんも変わんねーから問題ねーな」
ニヤッと笑う新一くん。
「オメーの男によく言っとけ」
「うん?」
「『家族』の時間邪魔するんじゃねーぞ、ってな!最も、あおいの話じゃそんなケツの穴の小せぇ男じゃねーだろうけど」
そう言って新一くんは去って行った…。
快斗くんは快斗くんで、新一くんにつきあってること言ったかどうか気にしてるから、伝えたよ、って言ったんだけど、
「ハッ!『家族』?」
鼻で笑って終わった…。
その後で快斗くんから初めて、つきあうにあたっての約束事項が出された。
「家に俺以外の男入れちゃダメ」
「…え、あの、すっごいたまにだけど、博士が心配して見に来てくれるのは、」
「ダメなものはダメ」
快斗くんは案外、頑固だと思った。
「メシ、は、まぁ…、事情が事情だから仕方ねーけど、7時前には帰宅すること」
「7時!?え、早くない?ご飯作って食べたら片づける時間もなく」
「じゃあ一緒に食べないで」
「え、ええー…」
「2択だぜ?メシ食って7時前に帰るか、メシ食わずに家に直帰するか」
「う…ん…、わかっ、た」
ちょっと腑に落ちなかった私は、定例園子会議でこの話をするものの、
「え、でも新一くんとご飯食べること自体は許してるんでしょ?心広いじゃん」
軍配は快斗くんにあがった。
「あんたねー、考えてもみなよ!ただでさえ遠くて何かあっても直ぐに来れないのに、彼女が自分以外の男とご飯一緒に食べてるの許してくれんのよ?それも家で2人きりなのを!どー考えても家に帰って1人になるあんたが寂しくないように、って考えてのことでしょうが!ちょっとは理解してあげなって!」
園子にそこまで言われると、そんな気してきたから不思議だ。
「それに腑に落ちないなら、あんたも何かルール作ったら?」
「ルール…」
「そ!例えばー、毎日連絡ちょうだい!とか?」
「いや、それはもう今すでにしてるし…」
「じゃあ、週末は絶対私の時間だよ!とか?」
「いや、それももうすでにそんなようなものだし…」
「じ、じゃあ、私が呼んだら直ぐに来て!とか?」
「それはしたことないけど、快斗くんの行動力ならたぶん来ると思うの」
「…あんた自分がいかに大事にされてるかもっと感謝しなさいよ」
やれやれ、と大きなため息を吐いて園子が出ていったから、本日の園子会議はお開きになった。
快斗くんにルール…。
でもなー、あんまりそういうの作りたくないんだよなー(何せ自分が覚えられないし)
快斗くんはそういうのじゃなくて、なんかもっとこう…すごく「自由」という言葉が似合う人だから。
「それでさー、その時友達が、」
でもなんか、快斗くんだけ約束事項を作ったのはやっぱりちょっと腑に落ちない。
だから園子が言うみたいに、私も何か作るって言うのは、確かにいいのかもしれない。
ううーん、て、思ってる時、快斗くんが今日あったおもしろいことの話をしてくれた。
快斗くんは「友達」って言い方したけど、それもしかして青子のことなんじゃない?とか。
今はわからないけど、原作では四六時中一緒にいたんだから、今もいてもおかしくないし。
そう思うとなんとも言い難いモヤァとした物が胸を覆う。
「快斗くん」
「なにー?」
でも今は私が彼女なんだし…!って自分に言い聞かせるしかない。
「私、家に快斗くん以外の男の人、入れないよ?」
「うん?」
「新一くんとご飯食べても7時前には帰る」
「…うん」
「だから、」
スーッと大きく1つ息を吸い込んだ。
「快斗くんが寂しくなったら、会いにきてくれなきゃイヤだよ」
だってルールとか、快斗くんには似合わないもん。
面倒なこと言って嫌われたくないし。
だからってこのままだと腑に落ちないし。
じゃあどうするの?って考えて考えてようやく出た答えがこれ。
それが正解かどうかなんてわからないけど。
これで少しは自分の中で腑に落ちるかな、って思う。
「俺今から行こうか?」
「…えっ!?」
「今からだと8時にはそっち着けるし」
「い、いやいやいやいやいやいや、明日学校あるでしょ!?」
「だいじょーぶ!何度も言うけど俺優秀だって言っ」
「受験生だよ!?ダメだって!!」
この後しばらくの押し問答の末、ようやく引き下げった快斗くんにホッとしてその日を終えた。
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bkm