キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

変わる今


恋心


「じっ、実はですね、2人に話すことがありましてっ!」


人生初彼氏が出来た翌日の鈴木家本宅、次女園子の部屋。
今日は元々「姉貴がスペイン行ってたんだけど、お土産いっぱい買ってきたから食べにきてー!」と言われていて、園子のお姉さんのお土産を頂きに蘭と2人鈴木家にお邪魔する、ってことになってたんだけど。
昨日の今日でそりゃあ話題はもちろん


「かっ、彼氏、がっ、できまし、た」


快斗くんのことだ。


「マジで!?ちょっ、詳しく!!」
「園子、落ち着きなって…。相手は黒羽くん、だよね?」


大興奮の園子と反対に、蘭が落ち着いて聞いてきた。


「そ、そう…!快斗くん、だよ」
「そっか…。おめでとう、あおい」
「そ、そうね!まずはおめでとう!で!?どういう経緯でそうなったの!?!?」


蘭は一瞬、目を伏せた後、すごく綺麗に微笑んだ。
そして園子は拍手したと思ったら身を乗り出して聞いてきた。


「どっち!?どっちから言ったの!?」
「あ、うん、快斗くんからで、」
「やっぱり!場所は!?」
「場所、は、………………玄関?」
「なんで!?」


あれ?これ一問一答形式なの?っていうペースで園子が質問してきて。
なんで玄関か、なんてそんなの


「あ!園子あのグロスすごいよ!!」
「え?…ま、まさか」
「ち、ちゅう、しちゃっ、た…!」
「マジでェェエエ工!!??」


それまでより小声で言った私に対して、その日1番大きな声で園子は叫んだ。


「何、あのグロスそんな効果すごいの!?」
「グロスって?」
「一昨日園子から発売前のグロスの試供品貰ったんだ」
「ただのグロスじゃないのよ!恋するクチビルって名前で売ろうとしてる奴なんだけど、キスしたくなる効果あるなんてヤバいわね!!」
「匂いが良かったよ」
「どんな匂いだったの?」
「バニラの匂いで」
「待って!サンプルアンケートついでに書くから!!」


そこから昨日のリップグロスについて根掘り葉掘り園子の聴取が始まって。
…このアンケートがきっかけで来年の夏に発売される恋するクチビルのリップグロスのキャッチコピーが「思わずキスしたくなるクチビル」に決まったんだって私が知る由もないのだけど、園子の詳細なアンケートは企業に役にたったようだ。
その後はノンストップで経緯を言わされた。
園子はグロスが発売されたら絶対買う!!って鼻息荒く言ってたけど、その前に相手を見つけた方がいいと思うってことは黙っていた。
そして満足した園子から解放されたのは、すっかり日が落ちた頃だった。


「なんだか疲れちゃったねー」
「ははっ。園子好きだからね、そういう話題」


私の言葉に蘭が困ったように笑い、少しして沈黙が流れた。
蘭は園子が暴走してる時、ただ黙って聞いていた。
だから…。


「何か、言いたいこと、ある、の?」
「え?」


聞かない方がいいのかもしれない。
でも、これを聞かないと、蘭との間の見えない壁はきっとずっと続くと思ってそう聞いていた。


「なん、か…、蘭らしくない、っていう、か、」
「…」
「快斗くんのこと、反対なのかな、とか」
「そんなことないよ!」


私がそこまで言うと、蘭は慌てて手を横に振り答えた。


「そんなことじゃなくて、」
「うん?」
「…」
「蘭?」
「あおいに彼氏が出来たこと、おめでとうって思うし、その相手が黒羽くんで、本当に良かったって、それは間違いなく思ってるよ」
「うん」


そこまで言うと、蘭は大きく1つ、ため息を吐いた。


「良かった、って、思ってる。…けど、」
「けど?」
「…きっと、悔しいって思ったり、寂しがるだろうなぁ、って思っちゃって…」


蘭は、誰が、とは言わない。
だから私も、誰が、とは聞かない。


「そんなこと、ないと思うよ」
「そんなこと、あるんだよ」


どこか悲しそうに蘭は笑う。
それはたぶんきっと、新一くんを思っての表情で。
蘭はもう、新一くんを好きになったのかな?
蘭は新一くんを思ってるってこと、隠してるのかな?
でもそれは、蘭が言ってくるまで知らんぷりするっていう園子との約束もあるし、私が今ここでどうこう聞いちゃ、ダメな気がする。
ただいつか、蘭も私にその胸の内を話してくれたらいいな、って。
いつかいつか、蘭の恋心も実ればいいな、って、心から思った。
そしてその夜、快斗くんから電話をしてる時、改めて進路のことを聞かれたから、内部進学で決定したことを伝えた。



「快斗くんは江古田高だよね?」
「んー、まぁそうなんだけどさー」


快斗くんの言葉の歯切れが悪い。
何かあるのかな、って思っていたら、


「だってどーせなら同じ学校に行きてぇなーとか思うじゃん?」


快斗くんがそう言ってきた。
それはどうせなら「私と」同じ学校に行きたいってことで。
それってだってなんかなんか


「今のすっごい、か、彼氏っぽい、よね」
「…………」
「ち、ちょっ、と、照れちゃう、ね」


快斗くんはいつも優しい言葉をくれる。
でも「彼氏と彼女」ってなってのこういう言葉はまたちょっと違うわけで。
すごく擽ったい。


「俺、帝丹にしようか?」
「えっ!?」
「まぁ受験もなんとかなるだろ」
「い、いやいやいやいや」
「毎朝電車で通うのがちょっとネックだけど」
「だ、ダメだって!!」


私が擽ったさを感じていたら、快斗くんが進路変更を言ってきた。
そりゃあ同じ学校に通えるとかすごい嬉しいけど、でもそれってつまりものすごく原作を変えちゃうわけで、本当にこの快斗くんが怪盗キッドになった時に江古田高に通っていないことのリスクとか出てきちゃうんじゃないの!?ってことを一瞬で思えるほど頭が回らないけど、この時はただ「そんなに原作変えちゃだめ!」って言うのに必死だった。


「ほ、ほら、お母さんが言ってたよ?快斗くん朝弱いって。そりゃあ同じ学校もいいなー、って思うけど、絶対通うの大変で嫌になっちゃうよ。それに快斗くん頭がいいって言ってもやっぱり今から志望校変えて勉強するのは大変だと思うし、それにそれに」
「…まぁ、俺あんま朝強くねーから電車通学無理なんだけどな」
「で、でしょー?だから近くの方がいいよ」


私の言葉が功を奏したのか、快斗くんは予定通り江古田高校にすることに決めた。
これで大丈夫なはずだ、って、快斗くんにバレないように大きく1つ、息を吐いた。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -