キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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変わる今


距離0センチ


「あれっ?ここ3じゃない」
「んー?どれどれー」


園子からリップグロスのサンプルをもらった日の週末。
今日も快斗くんが勉強しに我が家に来てくれたんだけど。


「あー、ここ足し算間違えてる」
「えっ!?嘘!…5足す3は8じゃん!なんで7って書いてあるの!?」
「あおいちゃん、こういうちょいミスあるよな」
「…くぅ!」
「ははっ!そのページ終わったら休憩しよっか」
「うん」


私が問題を解いている間に、快斗くんがココアを用意してくれた。
甘党・江古田代表の快斗くんはうちによく来るようになって冬はやっぱりココアでしょって快斗くん用に用意したんだけどそのココアが美味しくて、たまにこうやって一緒に飲んでいる。


「あ、ありがと」
「どーいたしまして!あと1問?頑張れ頑張れ」


コトン、とココアの入ったカップをテーブルに置きながら快斗くんは言った。
ココアの甘い匂いと、リップグロスのバニラの匂いが鼻を擽った。


「…んー?あれ?X=5あまり、」
「いや、それ余りでないでしょー」
「えっ?」
「大丈夫?ちょいミスしてない?」
「えっ!?」


私の使ってる問題集と快斗くん(というか江古田中)が使ってる問題集は違っていて。
…快斗くん今、チラッとしか問題見なかったのに余り出ないとか瞬時でわかるってやっぱりこの人、勉強する必要ないんじゃ…。


「うー…ん…、こ、れ、で、どうだ!」


そんなこと思っていても、それを口にして今のこの時間がなくなるのもやっぱり嫌だから結局黙ったままでいる。


「あ!X=4!当たってる!快斗くん、出来たよ!じゃあこれで休け」


チュッ

ほっぺに何か感じた直後、カラン、て、私が持ってたシャーペンが落ちる音がした。
テーブルの上で問題集を解いていた状態のまま、身体が固まってしまった。
………………えっ?
今チュッ、って音と同時に、ほっぺにふわっと何か感じたんですが??
えっ!?チュッ、て音と何かって、えっ!?!?!?


「…」


そこでようやく快斗くんの方を見たら、快斗くんはどこか罰の悪そうに目を伏せていて。
何度か口を開けたり閉めたりした後で、


「俺今日はもうこれで、っ!?」


快斗くんの言葉を理解したわけじゃなかった。
でも快斗くんが口にした声のトーンが、このままじゃいなくなっちゃう!って感じさせるもので。
そう思ったのが早いのか、思うよりも先に身体が動いたのかわからないけど。


「…」


身を乗り出して、さっき快斗くんがしたことと同じことをした。
快斗くんは驚いた顔で私を見てくる。


「…」


きっと私の顔は真っ赤だと思う。


「…」


でもこれだときっともう、赤い顔も見えない。
どちらも一言も話すわけでもなく。
だからって逃げるわけでもなかった私たちは、どちらからともなく顔を近づけていた。
テーブルの上に置かれていた手は、いつの間にか快斗くんの手と繋がれていて。
チュッ、チュッ、って。
しばらくの間、小鳥が啄むようなキスをした。


ピリリリリ


その時、電話が鳴って。
ビクッて身体が反応して快斗くんから離れた。
3コールで切れた着信音の後、沈黙が部屋を覆った。
直後、


「あーーもう!」


快斗くんが叫んだ。


「俺今日もう帰るよ」
「えっ!?な、なん、」
「これ以上はさすがに、さ」


どこか照れたように頬を掻きながら言う快斗くんからは、嫌だから、とか、さっきの「いなくなっちゃう」っていうそういうのは感じられなくて。
なら、大丈夫、かな、って、玄関までお見送りすることにした。
気をつけてね、って靴を履いた快斗くんに声をかけると、私に背中を向けたまま快斗くんは微動だにしなかった。


「か、快斗くん?どうし」
「やっぱり今言う」
「えっ?」


快斗くんは振り返って私の方を真っ直ぐ見てきた。


「ほんとはもっと、景色良い場所とか、ムードある場所とか?いろいろ考えたりもしたけど、そんなこと言ってらんねーし」
「う、うん?」
「俺、あおいちゃんのこと好きだよ」


快斗くんは真っ直ぐ私を見つめる。
夜空に浮かぶ、星のような青い瞳で真っ直ぐと。


「ちょっ、と、順番逆になっちまったけど、好きな子以外にしねーし」


私の顔はまた、熱を帯び初めて。


「あおいちゃんのこと、好きだよ。だから俺の彼女になってください」


この世界に来る前から、好きだった人。
この世界に来て、実際に知り合ってもっともっと好きになった人。
その人が今、私を好きって言ってくれていて。
園子がくれたリップグロスのバニラの香りも、快斗くんが入れてくれたココアの香りも今はしない。
私の家の玄関の芳香剤の独特なあの匂いの中、


「よっ、よろしくお願いしますっ…!」


私の人生で、初めての彼氏が出来た。

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bkm

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