キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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変わる今


恋するクチビル


暑かった夏も終わって、季節は冬に向かう。
私は内部進学を決めているから表立って受験勉強とかはないけど、快斗くんは受験生なわけで。
全中終わったけど、やっぱりあんまり会えないよなー、とか思ってたわけだけど。


「内部進学って言ってもテストあるって聞いたし、一緒に勉強しようぜ」


全然そんな心配する必要がなかった…。


「で、でもさ、私と勉強しても、」
「あおいちゃんがわかんないとこあったら教えられるよ?」
「えっ!?いや、それはありがたいけどさ、」
「でしょ?じゃあ週末そっち行く」


私と勉強したところで、快斗くんに実りあることないよ、って言葉は発する前に揉み消されて。
受験生とは?ってなっていた。


「じゃあ今までのように会うようになった、ってわけね?」


帝丹中学A棟渡り廊下前トイレで恒例の園子会議が開かれている。
園子は快斗くんが部活が大変で、私と快斗くんがあんまり会わなくなっていた時期は夏休みってこともあったけど、それ以外にも何かを感じ取ったかのように何も聞いてこなかった。
快斗くんに時間ができて、また前みたいに頻繁に電話して会うようになって来た頃合いを見て、園子会議が再び開催された。
…きっとこういうところが、蘭が園子とずっと一緒にいるところの1つだと思った。


「会う、っていうか、うん。勉強する、ってなって、」
「なるほどー」


ふむふむ、と納得する園子。


「でもさ、勉強する、って言っても、私の方が頭悪いし、受験勉強の邪魔になってる気がして、」
「ばっかねー!彼が一緒に勉強しよう、って言ったんでしょ?あんたといたいんでしょうが!」
「う、うーん…」


園子の言葉にちょっと…というか、かなり納得がいかない。
快斗くんが寂しかったー、なんて言ってくれたから、うっかり私も寂しかったなんて言っちゃうどころか泣きそうになっちゃったから、あ、俺そんなつもりなくて軽い気持ちで言っただけなのに、とか、え、そんな重く考えてたの、とか、思われちゃって快斗くん優しいからその後始末的に面倒見てくれるつもりでいるような気もしなくもないしっていうかそれが濃厚だしだってそんなだって


「じゃあやっぱり、コレあんたにあげるわ」
「え?何コレ?」
「それ今度発売予定のリップグロスのサンプルよ!」


園子から持ったリップグロスには非売品、て書かれていた。


「どーしたのこれ?」
「今度そのメーカーとパパの会社が提携するんだけどさ。そこのメーカーの人からそれもらってね」
「うん」
「『恋するクチビル』って名前で売り出すんだって」
「…うん?」
「ターゲットは女子中高生で、発売前に身内にサンプル配ってアンケート取りたいんだってさ」


ぴったりじゃない?って園子は言う。


「え、ちょっと理解がついていかないんだけど、」
「だからー!そのグロス、艶が出るだけじゃなく匂いでも誘うって奴なの!」
「匂いで…誰を?いったーい!!」
「彼を誘えって言ってんのよっ!!」


パチン!と一際大きい音を私のおでこが立てた。


「さ、さそえっ!?」


思わず声を裏返して言った私に園子は大きく頷いた。


「だってあんた考えてみなさいよ。あんたの家で勉強するってことはよ?クリスマスまであと2ヶ月!そんな時に!密室に!2人きり!!ここで何もなかったら一生なにもないわよ!?」


この手のことが大好物な園子は、グッ!と拳を握りしめて言う。


「で、でもそんな私誘うとかそんな」
「だからとりあえずこのグロス使ってみなって言ってんの!」


理解した?と言う園子。


「言いたいことはわかったけど、」
「まーほら。あんたがそれでどーにかなるとか思ってないけど、使うだけ使ってみなって!」


サンプルアンケート出さなきゃなんだしね、と園子は言う。
…それは私の使用感がアンケートに書かれるってことなのか。


「まぁ…、うん、もらっとくよ、ありがと」
「感想聞かせてね」
「わかった」


そして本日の園子会議はお開き


「あんた最近新一くんとどーなの?」


にはならなかった…。


「どーなのって?」
「新一くんに、『家族みたい』って言ったんでしょ?」
「うん」
「その後よ!どーなってんの?」
「どう…?別にいつも通りじゃないかな?」


園子は何かを考えるような仕草をした。
そして1度、周りに誰もいないか確認して小声で、


「私の気のせいかもいれないけど、」


小声で切り出してきた。


「蘭がなんか…変なのよ」
「変?変、て?」
「うーん…上手く言えないんだけど…、新一くんに対して今までとちょっと態度が違う、っていうか…」


そこまで聞いて、園子が言わんとすることがわかった。


「園子は、どう思ってるの?」
「え?…蘭から聞いたわけじゃないし、」


私の聞き方で、園子には伝わったようだった。


「うん。けど…、私もたぶん、そう思うよ」
「…だよね?」
「うん」


蘭は新一くんを好きになる。
それはもう、決められていることで。
…あ、じゃあもしかして。


「まぁ蘭が言ってくるまで知らんぷりするけど、」
「そう、だね」
「…いいのよね?あんたはそれで」
「え?」
「あんたはそれで、本当に後悔しないの?」


園子は真っ直ぐ私を見て言ってきた。


「後悔?だっ、て、それが本当なら嬉しいし、頑張ってって応援したいことでしょ?」


そう言った私に、園子は1度目を閉じて、


「そーね。あーあ!私も誰かいないかなぁ!」


いつもの軽口を言って、トイレから出ていった。
…蘭が新一くんを好きになることは決まっていること。
じゃあ、もしかして、今こうして、快斗くんと仲良くしていても、快斗くんが青子を好きになることも、決まっていることなのかも、とか。
まだ会ったこともない存在に対して、怖い、なんて思ってしまった。



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bkm

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