キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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変わる今


夏の思い出


中学3年の夏。


「優勝、東京都江古田中学3年黒羽快斗!」


2日間に渡って行われる全中弓道大会、2日目の午後。
表彰台の1番上に立って、この時を迎えることが出来た。
自分で言うのもなんだけど、今までで1番「何か」と向き合った夏だと思う。


「黒羽くん、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「去年の大会から1つ順位をあげることが出来ましたね」


表彰式後、いつもの弓道誌インタビューも終わらせそのまま駅に直行。


「ん?お前江古田まで行かないのか?」
「ちょーっと用があるんで米花駅で降ります。あ!親も知ってますよ」
「そうか。なら、まぁ気をつけて帰れよ」
「はい!先生もお疲れ様です!」


きっと本来なら、江古田駅解散なんだろうけど結果を残した俺に顧問も無理強いすることもなく、すんなり車内解散になった。
そして米花駅に着いた18時過ぎ、久しぶりにあおいちゃんに電話した。
…帝丹中サッカー部は都大会敗退したらしい。
しかも決勝のPK戦、最後の最後工藤新一のシュートミスでの敗退。
でもそもそもPK戦にもっていけたのは土壇場での工藤の同点ゴールとアシストの賜物。
名誉ある敗北だと試合後アイツを称える声に溢れていた。
…あの男は負け方もいちいち出来過ぎている。
本当に少年マンガのヒーローのようなヤローだ。
そんな結果を先に目の当たりにしたら、俺はやっぱり優勝くらいしないといけなかった。


「あおいちゃん、見てくれた?」
「うん、見たよ。優勝おめでとう」
「ありがとな!」


こうやって話すの久しぶりな気がする。
そりゃそうか。
最近疲れて電話してる余裕も、まして会いに行く余裕もなかったんだから。


「カッコ良かっただろー?」


なんて軽口を叩いた俺に、


「また人気出ちゃうね」


あおいちゃんはいつもよりもやや低いトーンでそう言ってきた。


「関東大会の時も、何か貰ってたじゃん。見てたよ、関東大会の時『可愛い女の子』から何か貰ってたの」


そーいえば、こうやってゆっくり話すの、なんだかんだで関東大会以来な気がする。
だから今さらあの時のことを話題にしているんだろうけど。
あぁ、あの時やっぱり見られてたのか、とか。
そんなことよりも、もしかしてこの子あの時からずっといじけてんの?って方がデカくて


「あおいちゃんさー、もしかしてスネてる?」


なんだそれ可愛いかよ!ってなった俺はそんなこと口走った。
あおいちゃんの性格上、こんなことがない限りそういうのを直接言ってこないのはわかる。
でもそれはつまりあの日以降、1人でずっと俺に対してモヤモヤとした気持ちを抱えていたわけで。
それイコール、あおいちゃんの心にずっと俺が引っかかっていたわけで。
あの負け方すら出来過ぎてる男の試合の日ですらも、俺が心に引っかかっていたのかもとか考えたら、それはもう、はい今日も可愛いー、ってなって当然だと思う。


「べっ!別にスネてなんかいないしっ、」
「あれ?俺の勘違い?」
「そ、そーだよ、勘違いだよっ!別に私は、」
「そっかー、勘違いなら仕方ねーや。でも勘違いついでにドア開けてくれると嬉しかったりするんだけど?」


ピンポーン


ちょうどあおいちの前に着いた俺は、チャイムを鳴らした。


「え?今チャイム…?」
「うん、俺が鳴らしたの」
「…えっ!?」


バタバタと音がした後、ゆっくり開いたドアから、


「たっだいまー!」


恐る恐るというようにあおいちゃんが顔を覗かせた。


「な、何してるの!?」
「直でこっち寄って岐阜土産渡してから帰ろうと思ってな。最近いっそがしいし、疲れて電話もろくに出来なかったから、帰り顔出すって決めてたんだよなー。で、たまたま中入る人いたから便乗してマンションの中入ってここまで来たんだよ。はい、岐阜のお土産!」


土産が入ってるビニール袋を差し出すとあおいちゃんは受け取る物の、今起こっていることに頭がついていっていないような顔をしていた。


「俺が忙しかった時間で、あおいちゃんスネちゃったみたいだし?」
「だ、だから別に私はっ、」
「スネてない?」
「スネてなんかいないですっ!」


口を尖らせて目を合わせないくせに。


「じゃあ寂しかった?」
「な、に言って、」
「俺は寂しかったけどなー、あおいちゃんに会えなくて!あおいちゃんは違うのかー」


俺の言葉に明らかにあおいちゃんに動揺が走った。


「わ、たし、は、」


工藤新一はあおいちゃんにとって保護者のような存在だと言う。
だからアイツにはもしかしたら言うのかもしれないし、言ってるのかもしれない。
そう思うことも気に食わない。
結局今現在、ただの友達の1人にすぎない俺が言うのはおかしいだろう。
でもこのまま「ただの友達」としてい続ける気はさらさらにない。


「寂しかったよ、俺は。あおいちゃんは?」
「…………さ、みし、かっ…た…」


あおいちゃんは泣きそうな顔をした。
でも俺は他の誰でもない「俺に対して」そう思ってくれたこと、そう言ってくれたことが嬉しかった。


「これは待っててくれたあおいちゃんにあげる」


驚きながらもらえないだなんだ言ってたあおいちゃんに、だって俺メダル腐るほどあるし、と言ったら黙って俯いた。


「…金メダル、案外重いんだね」
「そりゃそうだろー。この夏の思い出がつまってんだし!」

そう言った俺に、あぁそっか、とあおいちゃんは小さく笑った。

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bkm

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