■ディスプレイに浮かぶ文字
「最後、集中力切れたのか?」
「え!?あ、はい、うん…」
「そっか…。残念だったな。1本目から見てたけど、関東大会はクリアすんじゃねーかって思ってたから」
「え!?い、1本目から見てたんです…の?」
しまった、敬語を使うなって今言われたばっかりだ。
って、途中で気がついてなんとか取り繕った。
「ぶはっ!!見てたんですの?ってどこのお嬢様!?芳賀ちゃんおもしれー!」
す、すごいっ…!
黒羽くんが爆笑してるっ!!
自分のマヌケさが初めて役に立った気がする!!
「あー、おっかし…」
目じりに涙を滲ませた黒羽くん。
…うん、しらけられるよりは笑ってくれた方がっ!
「そ、そういえば」
「うん?」
「黒羽くん、試合は?」
「ああ、俺?俺は今回出ねーんだ」
「…えっ!?な、なんで!?怪我でもしたとか!!?」
「ああ、違う違う!去年の全中上位5人は地方大会なしで出場決定してんの!」
そ、そんなVIPルールがっ!
「だから今日は雑用で来てんの!で、いろいろ雑用でうろうろしてたら芳賀ちゃんが射るところ見つけたから見てたってわけ!」
「そ、そうなんだ…」
黒羽くんを雑用に使うなんて!!
江古田の人間ズルイッ!!
「芳賀さーん?帰るよー?」
「あ、はいっ!今行きます!…じ、じゃあ黒羽くん全中頑張ってくだ…ね?」
「ぶっ!わかった、無理に敬語やめろとは言わねぇから話やすい言葉で話して!」
「あ、ありがと…」
一緒に全中行けないのは残念だけど、さ。
でもちょっとだけでも黒羽くんとお話できたし!
何より「練習試合の対戦校」から「友達」になったような気がするしっ!
今日はもうそれだけでっ!!
「で?」
「うん?」
「ケータイ!芳賀ちゃん持ってねー?」
「…え?」
「番号交換しよーぜ?」
にこにこにこにこ。
絶対この人からマイナスイオン出てるって!
っていう笑顔で言って来た。
……えっ!!?
「ない?ケータイ?」
「あ、あります!!」
「マジで?じゃあ交換しよーぜ!」
「は、はははははいぃぃっ!!!ど、どどどどうぞっ!!!」
もうどうしていいのかわからない私は、とりあえず自分のケータイを両手の平の上に乗せ、黒羽くんに差し出した。
ら、
「え、まさかのそういう交換!?」
「え?」
「やべぇ!芳賀ちゃんほんっとにツボった!!」
黒羽くんが今度はお腹を抱えて大爆笑した。
よくわからないけど、貴重だ。
この黒羽くんは貴重だ。
でも写メ撮らせてもらっていいですか?って聞く勇気はまだない…。
「赤外線!」
「え?」
「俺の流すから、芳賀ちゃん受信して」
「あ、は、はい!」
ぴ、ぴ、ぴ、っと音がした後ケータイをくっつけて。
しばらくして私のケータイ画面に黒羽快斗を登録しますか?って文字が出た。
「芳賀さーーん!バス来たよー!?」
「す、すみません!今行きます!!」
「あ、じゃあ、芳賀ちゃん俺にメールして」
「…えっ!?」
「待ってるから!じゃあ、またな!」
「…え、ち、ちょ、」
「芳賀さん!!」
「……い、今行きますっ!!!」
主将たちのいる方に走っていく途中で振り返ったら、黒羽くんの姿はもうなくて。
い、今のあの一瞬の出来事は夢?
いや、でも
黒羽快斗クロバカイト
080XXXXXXXX
sky-XXXXX@XXX.ne.jp
と、登録されてるっ!
夢じゃないっ!!
黒羽くんのケータイが登録されてるっ!!
「…芳賀は僅差で予選落ちしたわりには嬉しそうだな」
「嬉しそうっていうか…あの顔はヤバイですよね、先生…」
そんな会話がバスの中で繰り広げられてたなんて知る由もなく、自分のケータイのディスプレイに踊る「黒羽快斗」の文字にただただにやけていた。
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bkm