■提案
「「いただきます」」
快斗くんはあっさり和風パスタを作ってくれた。
ちゅるん、とそれを口に入れて思わず、
「お゛い゛し゛い゛ぃ…ぐすっ…」
そう言葉が出た(未だ鼻を啜ってるのはもう仕方ないと思う)
「それは良かった!あおいちゃん、もっと食べて食べて」
あおいちゃんは小さいんだからもっといっぱい食べねーと!って目の前の快斗くんは、ニコニコと笑いながら言う。
…あぁ、私もう今日が命日でもいいと思うの。
「快斗くん、ほんとに料理上手なんだね」
食べ終わって、お皿は私が洗うよ、って言ったら、急に押しかけたの俺だし俺が洗うって快斗くんが言って。
いやいや、私なにもしてないじゃん、それはさすがに、って言ったらじゃあ2人で片づけよう、って現在並んでシンク台の前に立っている。
「やっぱり信じてなかったんだろ?」
「そ、そそそそそんなこと、」
だって「男の子の料理」の代表格がほら、いるじゃん。
あの人きっと今頃夢の中でホームズと推理してると思うけど!
そんな人しか見てこなかったから、快斗君の料理がまさかこんなに美味しいなんて思いもしないじゃん!
「あおいちゃんは?料理、できる?」
「えっ!?!?……た、たぶん、食べられるものを…ギリギリ…」
「ぶはっ!何それギリギリなの!?」
私が洗ったお皿を快斗くんが受け取って拭いていく。
…何これ、もしかしてこれアレじゃない?
新婚さんいらっしゃいじゃないっ!?
待って待って待って、私いつの間にそんな快斗くんと待って今そんな考え出したら快斗くんに不振がられて、
「て、聞いてる?あおいちゃん?」
「ひぃっ!?」
うわぁ!と妄想が暴走しかけた時、快斗くんが少し屈んで、私を覗き込むように見てきた。
「ひぃって俺、傷つくなー」
「ごっ、ごごごめっ!でででもち、ちかっ、」
「ははっ!俺こそビビらせてごめんな」
片づけも終わったからお茶でも出すね、って言って快斗くんにソファに座ってもらった。
…まぁ、お茶出すねって言いつつも快斗くんが買ってきてくれた物を出すんだけどさ。
「でさー、さっきの話なんだけど」
「うん?」
「次メシ行くーってなった時、どっかの店もいいけど、家で食うのもありじゃね?って言ったの!」
どう思う?って快斗くんが聞いてくる。
…そりゃあうっかり米花町徘徊して快斗くんと工藤くんが出くわす危険を考えたらそれが1番かもしれないけど、
「あおいちゃんちだけじゃなく、うちでもいいし!」
「…………えっ!?」
なんて思ってたら快斗くんからのとんでも提案。
「うちでもいい」?
えっ?それって快斗くんちでいいってこと?
はっ!?私もしかして快斗くんちにご招待されてるのっ!?!?
「まー、別に今すぐ結論出さなくてもいいけど、」
「賛成っ!!」
バッ!と、右手を高らかに上げた。
「そか。じゃあ次からそーするか!」
快斗くんは私の姿を見て、おかしそうに笑った。
…だってよく考えてみてよ!
快斗くんのお家だよ!?
快斗くんのお家に堂々と行けるんだよっ!?!?
そんなの行きたいに決まってるじゃん!!!
「あ、でも私料理が、」
「苦手?」
「に、苦手、って言うかー…う、うーん…」
せっかく快斗くんちに行けるチャンスを潰したくないものの、でも快斗くんの腕前を見てしまった以上潔く自己申告の必要があると思った私は、快斗くんに正直に伝えた。
「り料理は、さ、好きなんだよ…?」
「うん」
「た、たださ、なん、て、いうかなー…」
「うん?」
「前にね、前の話しだよ?前のことなんだけどね、…ゴーヤーチャンプル作ろうとしたの」
「うんうん」
「ほ、ほら、ゴーヤーって塩揉みするじゃん?」
「するねー、苦味取るために」
「でしょ?私も塩揉みしたのね、」
「うん」
「…したんだけど、」
「うん?」
「その塩洗い流すの忘れてすっごいしょっぱいゴーヤーチャンプル作っちゃったりさ、」
「……………」
「親子丼、作ったんだけど、」
「う、うん」
「…お肉入れ忘れた玉子丼にするところだったり、さ、」
「……………………………」
期待値高過ぎて幻滅されるくらいなら、最初から期待値下げておいた方がいいと思う。
快斗くんなら「幻滅」はしないだろうと思うし!
…でも幻滅はしないだろうけど、呆れられるかも、って、それまでは快斗くんの方見ないように話してたんだけど、チラリと快斗くんに視線を向けたら、
「……………………」
さっきまで普通に座ってたのに、ソファに前のめりになって俯いて座っていた。
「か、快斗くん…?」
「…よし、じゃあ俺と一緒に作ろっか!」
顔を上げた快斗くんは、やっぱり爽やか!眩しい笑顔!!って感じの良い笑顔で私に提案してくれた。
「い、いい、の?」
「おー、いいよー!俺も料理作るの好きだし」
だから一緒に作ろうぜ!って笑顔で言う快斗くんに、またちょっと泣きそうになった。
.
bkm