■綺麗で優しい
園子のアドバイスを受け、準備も着実に済ませつつある私は、
「…ほっ!……ふんっ!!」
蘭から聞いたお家で(私でも)できるエクササイズをこなして過ごしていた。
「ち、ちょっとウエスト細くなった気がする…!」
鏡に映る自分に自画自賛。
私の裸を見て、すっげースタイルいい!!なんて思われるわけがないからそこはいいんだけど、それでもせめて、うわぁ、ねぇわー…ってならないような身体でいたいっていう乙女心(快斗くんはそんなこと絶対言わないだろうけど!思われるのも嫌!)
だから残り1ヶ月、なけなしの体力で日々少しでも艶めかしくなるように頑張っていた。
そして学校も終業式が終わり、クリスマス・イブ当日。
「い、いらっしゃい!」
「おっじゃまっしまーす!」
快斗くんがうちにやって来た。
米花駅からうちに向かう途中に美味しそうな匂いがしたからって、チキンを買ってきてくれた。
ちなみに本日はピザです。
朝からすっごい頑張りました、ピザです。
頑張りました、気持ちだけはすごく…とても…。
「焼く時間、間違えちゃった?」
「…ぐすっ」
オーブンからの臭いに、おやっ?て思ったんだよ。
でもさ、私その間シャワー浴びたり髪セットしたりしたいじゃん!
だからオーブンそっちのけで他のことしてたら、さ…。
「大丈夫大丈夫!俺が全部食うよ」
だから泣かないの、って、きらきらきらー(クリスマスver.)って笑う快斗くん。
…もう!もうっ!!カッコいいんだからっ!!!
「で、でも焦げすぎて食べれないから、」
「んー…、俺は大丈夫だけど、あおいちゃんにパスタでも買いに行こうか?」
俺行ってくるよ、なんて言いながらすでに出ていこうと準備する快斗くん。
「まっ、待ってっ!!」
「え?うぉっ!?」
の、服を思いっきり引っ張ったら快斗くんが床に倒れ込んだ。
「い、行かないで…!」
「…うん、行かない」
よくよく考えればパスタを買いに行くだけなんだから、快斗くんすぐ帰ってくるつもりだったんだろうけど。
でもこの時の私は、ばっちり立てた計画の最初の1歩から大きく狂ってしまって、パニックになってたんだと思う。
どこをどうしてそうなったのか、気がついたら快斗くんのお腹の上に乗っかる形でいわゆる床ドンしていた私。
その気迫に驚いたのか、私の下にいる快斗くんはすんなり言うことを聞いてくれた。
「…」
「…」
のは、いいんだけど、この床ドン状態、どうしたらいいの…!?
今私の頭の中では、ここ1ヶ月で熟読した彼氏の誘惑の仕方について走馬灯のごとく流れてるわけだけど、そのどこにもアクシデントの床ドンの時は?について書かれているものはないわけで。
どうしようどうしよう、どうしたらいいのだってそんな快斗くんに床ドンするなんて予定外にもほどがあるし、そもそも私の予定じゃ今はまずクリスマス料理を食べてる時間のわけで待ってこれどうしたら
「あ、の、さー」
「えっ」
「…俺、動いていい?」
床ドンしたあげくの私の沈黙に耐えられなかったのか、快斗くんがそう言ってきた。
「あ、う、ん…」
「よっ!と、」
「わっ!?」
私の返事を聞いて快斗くんは左手で私の背中を抑えながら、軽々と身体を起こした。
私を退かして、とかじゃなかったため、身体を起こした快斗くんと向き合って足の上に乗っかって座る形になっていた。
「あおいちゃん、今日良い匂いすんね」
左手で私の背中を抑えて、右手で顔に触れてくる快斗くんが言う。
…それはあなたが到着する30分前にシャワーを浴びたばかりだからです!!
なんて言えるわけもない私は、
「そ、そう、かな?」
目を泳がせ答えるしか出来なかった。
そう答えた私を快斗くんは両手でぎゅって抱きしめて、
「うん。すっげー美味そーな匂いする」
耳元でそう言った。
その言葉を聞いた私は、快斗くんの首に腕を回して、
「た、食べる…?」
そう聞いていた。
私の言葉に、背中に来ていた快斗くんの手がピクッて動いたのがわかった。
「お、美味しくないかもしれない、けどっ、」
「ふはっ!」
そう言った私に快斗くんは笑った。
「あおいちゃんが美味しくないわけねーじゃん」
「い、いやっ、でも、」
「俺食べ過ぎちまうかもなー」
腕の力を緩めてそう言う快斗くんの顔を見ると、すごく柔らかく笑っていた。
その顔があまりにも優しくて、どきりと胸が鳴った。
「でもいいの?」
快斗くんは伏し目がちにそう聞いてきた。
快斗くんはカッコいい。
でもなんだろう…。
さっきの優しい顔といい、今日はカッコいいよりも、なんだか綺麗って言葉が似合う。
「快斗くん、に、なら、いいよ」
そう言った私に、すごく綺麗で優しい顔をした。
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bkm