キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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3度目の年末年始


キミの覚悟


俺が残した暗号を調査する延長で、時計台のオーナーがダイヤモンドをすり替えていたことが発覚し、市が安く買い取ることになり無事あの場所にあの時計台は在り続けることとなった。
どこか嬉しそうな顔をしていた青子と、あおいちゃんに興味津々だったわりにその後何も言ってこない紅子を横目に、今日も今日とて仕事の下調べに来ていた。
あおいちゃんの友達だし、俺もなんだかんだで関わっちまってるから、あんま盗みに入りたくはねーけど、そこはもう泣く子も黙る大財閥、鈴木家のお宝とあっちゃー、確認しねーわけにはいかねーし。
ならどーする?って、園子ちゃんになってシレッと鈴木家所有の博物館に来るのが1番手っ取り早かった。
現在展示されてる中では目ぼしい物が2つ。
さぁどーするかって考えている時、


「あれっ?園子?」
「え?えっ!?…あおい!」


まさかのあおいちゃんと遭遇しちまった…。
…考えながら米花町を歩いてたら、うっかりあおいちゃんちの方に歩いてたとか笑えない。
自然に切り上げようと思った時、


「園子!」
「えっ!?な、なに?」
「ちょっ、と、相談乗ってほしいんだけ、ど、」


すっげー気になること言われた。
でも待ってくれ、それ「俺」が聞いていい悩みか?
「俺」が聞いたら駄目なんじゃないか?
なんて思っても、


「今ダメ、かな?」


ちょっと涙目(に、俺には見える)で困った顔してる彼女を前に切り捨てるなんて選択肢あるわけがなく、


「わかった。少しだけよ?」


頷くしかなかった。
話し聞いてくれるし奢ると言って聞かないあおいちゃん。
…園子ちゃん指名で奢ってまで聞いてもらいたい悩みとか、それほんと俺聞いて大丈夫?
なんて思いつつ、あおいちゃんの後に着いて行き店内に入った。
店内の1番奥、周囲に人がいない席に着いたあたり、マジで何の相談なのかと思った。
あおいちゃんは園子ちゃんを信頼してるし、園子ちゃんもよく目にかけてくれてる。
だから「俺」に言わないようなことも相談してるとは思うけど、それを今のこの状態で聞いていいものかどうか…。
「俺」が聞いちゃマズい奴だと思ったら、家から呼び出されたとかテキトー言って抜けるしかない。
そんなこと思って、聞いてみたらクリスマスのことだそうで、あー大したことねぇなってこのまま話しを聞くことにした。


「ほ、ほら、園子この前この服可愛いからこれにしたら?って言ってたじゃん?」
「んー?どれどれ?」


あおいちゃんが見せてくれた写真は、あー、園子ちゃん好きそー、って感じの服で。
確かに可愛いっちゃー可愛いけど、あおいちゃんが着ると思うとそれは違うんじゃね?って俺的意見が出ちまいそうになる一着だった。
なんて思ってたら、あおいちゃんが耳貸せとばかりにジェスチャーして来るからその通りにしたら、


「この服、脱がせにくくないかな?」


とんでもない言葉を聞いた気がした。
…脱がせにくくないか?
脱がせにくい?
え?何が脱がせにくい?
この服が脱がせにくいって?
脱がせにくいってことは脱がせるってこと?
…はっ!?脱がせるの!?誰がっ!?


「園子?聞いてる?」
「あ!う、うん、聞いてる聞いてる」


ぽん、と肩を叩かれて我に返った。
そうだ「俺」は今、鈴木園子なんだ。
俺は鈴木園子、俺は鈴木園子、俺は鈴木園子、俺は


「そ、その前に1つ聞いてい?」


駄目だ、気になってポーカーフェイスになってるか怪しい…!!


「黒羽くんとそーいうことするつもりあるってこと?」


ならもう、こっちから聞いちまえ、と話しを振ってみたら、


「快斗くん、は、どう思ってるかわかんないけどさ、ほっ、ほんと、は、もういつでもいいのにとか思ってたなんて言えない、じゃん…!」


マジかー!!!ってことを言われた。
待って、あおいちゃんだってそんな素振りぜんっぜん見せてなかったよな!?
いつでも良かったの!?
なら言ってくれよっ!!
俺かなり我慢してたぜっ!?


「だっ、だからクリスマスはいい機会かな、って」
「大賛成」


思わず食い気味に答えてしまった俺は今、鈴木園子だ。
忘れるな、俺は鈴木園子、俺は鈴木園子。


「あおいは他にいいな、って服あるの?」
「あ、う、うん。えぇーっと…、あ、これ!さっき見に行って可愛いと思って撮ってきたんだけど、」


そう言って見せてくれた写真は、フワッとしてるあおいちゃんのイメージにぴったりな服だった。
俺は断然、こっちの方が好き。


「…ぬ、脱がせやすい、かな?」
「例え脱がせにくくても、彼器用だから大丈夫よ」


やっぱりそこを気にするあおいちゃんに、任せろよくらいな勢いで答えたら、


「す、好きになっちゃ、ダメだからね」


口を尖らせちょっと顔を赤くしながら「俺」を見て言ってきたあおいちゃん。
…………無理、今押し倒したい。


「快斗くん、ちょっとカッコいいんじゃなくて、すごくカッコいいから」
「大丈夫、彼のことタイプじゃないから」


落ち着け俺。
俺は今、鈴木園子だ。
俺は鈴木園子、俺は鈴木園子、俺は鈴木園子。
まるで呪文のようにそう心に刻みながら、あおいちゃんの話しを聞いていた。
…これある意味「俺」が聞けて良かったのかもしれない。
園子ちゃんに任せてたら、さっきの服のようにとんでもねー状態になってそうだもんな。
危ねぇ、危ねぇ。
一通り聞きたいことを聞けたのか満足したようなあおいちゃん。
じゃあ今日はお開きにするかと、せっかく奢ってもらったしもったいねーから全部飲み干そうとカップを傾けた時だった。


「…こっ、コンドーム、って用意してた方がいいと思う?」
「ゴフッ!!?」
「園子っ!?」


思いっきり、スタバのクリスマス限定ドリンクで咽てしまった。
待って、今聞き間違いじゃなかったらゴム用意するかどーかって言ったよな?
なんだそれ、めちゃくちゃ本気で準備しようとしてんじゃねーかっ!
なんとなくそういう雰囲気になってもいいように、くらいな感じで言ってたんじゃなくて、この子マジでもうその覚悟してんじゃねーかっ!!


「あおい。そーいうのは黒羽くんに任せましょう」


あおいちゃんの手を取って、そう言った。
だって俺今の今まで「まだだめ」って言葉を忠実に守ってたわけ。
でも本人がこう思ってるなら、もうそこ守る必要ねーじゃん!
ならそういうのは男の俺が用意するもんだろ!?


「いい?あおいはそういうこと気にしなくていいから。そこは黒羽くんに任せなさい」
「え、で、でも別にそういうつもりじゃないから快斗くんだって、」
「そこはほら、黒羽くんを信じて」
「え、えぇー…」
「大丈夫だから。彼そういうとこしっかりしてるから」
「…なんで知ってるの?」
「あれは信用できる男の顔してる」
「信用できる顔」
「そう。だからあおいは買わなくていいから。わかった?」


うーん、と少し悩んだものの、あおいちゃんは、ならそこは快斗くんにお任せする方向でいようかな、と納得したようだ。
そして解散時、あおいちゃんに口止めをされた。
それは今「俺」にとっても都合がいいことなわけで。
じゃあ約束だと、指切りをしてその場を後にした。
そして帰宅後。


「あ、ジイちゃん?俺、俺」
「どうなさいました?」
「次は月末に鈴木博物館て話だっただろ?」
「えぇ、そう伺っておりますが」
「あれやっぱキャンセルで!」
「どうかされました?」
「いやー、ちょっと最優先事項が出来ちまったから、早くてもクリスマス後に変更するけどいいよな?」
「坊ちゃまがそれでいいのなら、私は構いませんよ」
「サンキュー!じゃあまた連絡する」


次の盗みの予定を延期する旨をジイちゃんに伝えた。
…だって今盗み入ってうっかり怪我なんかしようものなら、脱いだ時見られてそこどーしたのって話になるだろ!?
俺が脱がなきゃいいってだけの話なのかもしれねーが、そこはほら、あの子は「え、快斗くんは脱がないの?」ってなるだろきっと(そして最初くらいはそれに答えたい)
そーなったらもう状況的にも咄嗟に言い訳なんて出てくるわけがねーから、ならもう怪我しないようにすることが大事なわけで。
まさかこういう理由でキッドの犯行が止まるなんて誰も思いもしねーだろうが、何より俺が1番思いもしてなかったんだ。


「さぁて、と…」


そして自室に篭ってすること、って言ったら、目下の目標「いかに上手くヤるか」なわけで、この日からしばらく俺のパソコンの検索履歴がセックスの仕方についてだったことは、きっと一生誰にも言えないことだろう。

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bkm

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