キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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怪盗vs高校生探偵


ワタセナイ


時計台がテーマパークに移築されることが本決まりになったと知った時、真っ先に思い浮かんだのは青子のこと。
ではなく。
あの日俺に「マジシャン・黒羽快斗のはじまりの場所」だと言ってくれたあおいちゃんのことだった。
あの後のゴタゴタも含めて、その言葉は俺にとってとても重く大きなものになっていた。
青子との出会いの思い出が上書きされるわけじゃないが、あおいちゃんとの思い出は間違いなく俺の中に残り、あおいちゃんがくれた言葉はきっと、これからの俺を支える言葉になるだろうと思った。
時計台のあるあの場所が、俺の、マジシャン・黒羽快斗としてのはじまりの場所、そしてこれから先の俺が無条件で初心に戻ることのできる唯一の場所になり得るかけがえのない場所になるだろう。
だからこそ、あの場所にあるあの時計台を守ろうと決めた。
…の、だけど。


「どういうつもりか知らないけど、今回の仕事、手を引いた方がよくてよ?」


紅子が耳打ちしてきた。


「時告る古き塔 2万回目の鐘を唄う時 流るる魂に誘われ 光の魔人東の空より飛来し 白き罪人を滅ぼさん」
「はぁ?またなんかのくだらねー占いか?」
「占いじゃないわ。邪神ルシュファーが私に告げた預言よ」


耳打ちの内容が、紅子お得意の意味不明な言葉だった。


「る、るし…?」
「あの時計台が2万回目の鐘を鳴らす日がちょうどあなたが予告した夜。…光の魔人はわからないけど、流るる魂には心当たりあるのよね」
「はぁ?」
「前も言ったけど、あの子猫ちゃん。やっぱりあなたの手に負えないわよ。…まぁ、信じる信じないはあなたの勝手だけどね」


そう言うだけ言って紅子は去って行った。
…紅子の言う「子猫ちゃん」てのはあおいちゃんのことだよな?
今の会話のどこにあおいちゃんが絡んでた?
邪神だか鬼神だかのお告げに出てた「流るる魂」って奴があおいちゃんのことって意味か?(あの子がキッドを滅ぼすようなことしないっていうのと、紅子の言葉からあの子が光の魔人ではない)
流るる魂って、何が?
今までいろんなとこ転々としてたってことか?
でもそれだけでなんで紅子のよくわかんねー占いに名前が出てくんの?
え?紅子は意味わかんねーけど、拍車をかけて意味わかんなくねーか?


「まぁ、アイツがわかんねーのはいつものことか」


流るる魂があおいちゃんのことだってーなら、それに誘われた光の魔人とやらは十中八九、工藤新一のことだろう。
…ん?あおいちゃんに誘われたってどーいうことだ?あおいちゃんが何か言ったのか?いやそんなまさか。


「明日テレビでやるキッドの中継、見るの?」
「中継?見ないよ」
「あおいちゃんそういうの興味あるかと思ったけど」
「あ、あー…」
「何?」
「じ、実はね、その日、乗ることになったんだ…」
「乗る、って何に?」
「…け、」
「け?」
「けっ、警視庁、の、ヘリ…?」
「………はぁ!?なんで!?」


なんでも工藤新一が元々乗る予定だったところに、話の流れでいつの間にか同乗させてもらうことになったんだとか。
…ちょっと待て、紅子の預言この段階で当たってねーか?
いや、別に「誘われ」てるわけじゃねーから、的中!ってわけでもねーのか…。
だけど全く的外れって感じでもねーし、そもそも乗るのが工藤新一ってことなら紅子の言う「光の魔人」て言うのはやっぱり…。


「よし!その時の状況を最上階にいる警部に報告しろ!」
「はっ!」


今回警戒すべきはヘリから見ているという工藤新一の存在のみ。
日本警察の救世主、ホームズくんのお手並み拝見といこうじゃねーか。
…なんて思っていたら、


「そうだ。念のため免許証番号を」
「はい、第628605524810号であります」
「…かっ、かっ、怪盗キッドだぁぁ!!」


警部のところに行く前に見破られてしまった。
…嘘だろ、みんな免許証番号覚えてねーのかよ!!
たった12桁の数字くらい覚えろよっ!!


「いたぞ!奴だ!」


おいおいおい!
通風口の中まで追わせんのかよっ!?
あの男、ほんっとに諦め悪ぃ奴だな!!


「こちらD班中村。通風口出口で目標見失いました!…え、ここは…」
「4階の、東側の廊下です!現在目標は警官の変装を解き、階段を降って逃走中!至急、応援を!」


ただ俺も黙ってヤラレっぱなしってガラじゃねーからな。
目的は遂げさせてもらうぜ?
そして午前0時の鐘が鳴り響き、仕掛けが作動する。
…この暗号が解けなきゃ移築話も進まねーだろうし、その間にここのオーナーの不正が白日のもと晒されるだろう。
だから今日の犯行はこれでお終い。
に、なるはずだったんだが、


「おい!誰だ撃ってるのは!?」


恐らく仕掛けを見抜いたであろう工藤新一がスクリーンを固定しているロープを撃って来やがった。
こんな近くにヘリがいたんじゃハンググライダーで飛ぶのは無理だ!
…あんまり良い方法じゃねーが、アイツの射撃の腕なら恐らく次も正確に下のロープを狙ってくるだろう。
ならアイツが撃ったタイミングで上のロープを撃ってスクリーンを利用して下に降りるしかねぇ…!


「う、うわぁぁ!!」
「きゃあああ!?」


スクリーンを使って降りた地上はちょっとした混乱の最中で、これならもうアイツも追っては来れないだろう。
群衆に紛れて帰る直前、青子の姿を見かけたような気がした。
見つからないようにそのままその場を離れようとした時、


「ご苦労様」
「げっ、紅子…」


紅子に見つかってしまった…。


「あなたもしかして、光の魔人に心当たりあるの?」
「は?知らねーよ、オメーの預言のことなんざ」
「こんな時間にあなたの『彼女』は誰といるのかしら?」
「だからあおいちゃんは別に『アイツ』とはそんなんじゃねぇって」
「やっぱりあるのね、心当たり」


…この女、嫌いだ。


「本当におもしろいわ、あの子猫ちゃん。消え入りそうなほど不安定で、とても留まっていられるとは思えない。なのに、誰よりも色濃くその存在を刻みつける。彼女、何者なの?」
「オメーが言ってる意味わかんねーけど、とりあえず俺の彼女がちょー可愛くてみんなの目引いちまう、ってのには同意する」


俺の言葉に紅子は大きなため息を吐いた。


「『あれ』は可愛いとかそういうものじゃないわ」
「は?あおいちゃんは可愛いだろ」
「あなた苦労するわよ」


紅子は飽きれたように俺を見てきた。


「わざわざ忠告ありがとよ。でもそれもうとっくに言われてんだ」
「自覚あるのね」
「モテる彼女持つといろいろと大変なんだわー」
「…そういうことじゃないんだけど」


話も終わったし、紅子に背を向け帰ろうとした時、


「…1度聞いてみることね」
「あ?」


紅子に呼び止められた。


「どこから来た、何者なのかを」
「…親亡くして居場所を失った子供なだけだ。オメーが気にするような女じゃねーよ」


そう言って紅子から…時計台のある公園から立ち去った。

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bkm

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