キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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怪盗vs高校生探偵


コノカネノネハ


「工藤くん、そろそろ時間だ」


怪盗キッドの過去の犯罪記録(と言っても快斗くんになってからのものだからそこまで数が多くない)を新一くんに提供していたら、あっという間に時間がきたらしい。
…ちょっと私探偵助手感ない!?って少し、ほんとに少しだけ興奮してしまったことは内緒だ。
ヘリポートに向かう途中、携帯を見ると快斗くんから明日天気悪いっぽいよー、ってメールが着ていた(ちなみに明日会う約束をしている)
ここ数日は電話ちょっと、メール大半で、きっと下準備大変なんだな、って思っていたから、まさか今日メールが来るとは思わなかった。
…快斗くん、時間的にもうスタンバイしてるはずなのになんで今明日の天気のメールなんだろ?
でも返事しないのも悪いから、雨降らないといいよね、とだけ返信して私、新一くん、目暮警部の順でヘリに乗り込んだ。


「資料を見て何か対抗策でも浮かんだかね」
「そうですね。紙の上でしか見てないので何とも言えませんが、ソイツがやりそうな手口はわかりました」
「それは頼もしいな!」


さすが工藤くんだ、と目暮警部は絶賛する。
…快斗くんが、キッドが今日捕まることはない。
でも、必要なら新一くんを邪魔する心積もりでいるのは確かだ(そんなこと口が裂けても言えないけど)


「目暮警部は現場の方と連絡取れますよね?」
「うん?あぁ、もちろん」
「なら時計台内部の見取り図をこのパソコンに送ってもらえるようお願いしてもらえませんか?」
「見取り図?」
「はい。それを見ながらなら、どこに逃げる可能性があるかより的確に推理できるので」


ヘリに乗ったら、新一くんが予め目暮警部に頼んでいたらしいノートパソコンを足の上に置いて起動させた。
そこに時計台の見取り図を読み込むらしい。
…快斗くん、ほんとに大丈夫かな…。


「目暮警部、あと現場の人間に直接指示を出せるインカムありません?」
「あぁ、それならこれを使うといい」
「ありがとうございます。…でもこれいきなり僕が指示出してもいいものですか?」
「おぉ、それもそうだな。どれ、少し貸したまえ。…あー、こちら捜査1課の目暮」


新一くんの言葉に、目暮警部がとても従順に動いているのを、なんとも言えない気持ちで見ていた。


「どーした?あおい」
「あ、いや…、新一くんて、ほんとに日本警察の救世主なんだな、って…」


だってこんな大人を顎で使ってるみたいな感じになってるけど??
しかも目暮警部って「警部」って言われてるくらい偉い人なのに???


「見直しただろ?」


私の言葉にニヤリと笑う新一くん。
もっと褒めていいんだぞ、くらいな顔がちょっと腹立つ。
にゃんこのくせに腹立つ。


「たかがコソ泥の1人や2人、あっという間に捕まえてやるよ」
「それはムリかなー」
「なんだと?」
「あのねー、『たかがコソ泥』じゃないの。月下の奇術師なの。わかる?そこら辺の泥棒じゃないの。確保不能な神出鬼没の大怪盗って言われにゅ」


私がいかにキッドが素晴らしい怪盗なのかということを熱弁していたら、隣に座っていた新一くんがギュッと私の頬を片手で掴んだため、口がタコのようになり語尾がおかしなことになった。


「数時間もしない内にその言葉、後悔させてやるから覚えてろ」
「いたっ!」


そう言って新一くんはバッと手を離し、ノートパソコンをカタカタと動かし始めた。
…掴まれてたほっぺが地味に痛い…。
新一くんはその後目暮警部から受け取ったインカムで、全警官の住所氏名年齢と免許証番号を確認するように指示を出した。
…この指示を出した、ってことはそろそろキッドが時計台内に侵入する頃だと思う。
大丈夫、な、はず。
だけどなぜか無駄にヤル気出してる感じがする隣の人のせいでほんとに大丈夫か気になる…。
上から見た江古田の時計台は、下から見上げた時よりも小さく感じる。
…時計台、だけじゃなくて、人や建物がすごく小さく感じる。
この世界で、私がいるところは本当にごくごく狭く小さい場所でしかなく、この空はどこまでも広大で自由だ。
キッドは、快斗くんはいつも、こういう景色を見ているんだって思った。


「これで彼は穴の中で両手をもがれたモグラ同然だ」

「トイレの奥に設置されてる通風口。ネジが外れていませんか?」

「彼は今、犯行前に正体を暴かれ動揺を来たし、彼の計画の犯行は崩れ始めている。確保するには絶好のチャンス…!…僕ですか?工藤新一。探偵ですよ」


インカムに語りかける新一くんの声は、ヘリの音と混ざり合い耳を掠める程度だった。
私はその間もずっと、あの時計台を見ていた。
快斗くんが、中森さんと出逢った時計台を…。


「もうすぐ零時になるよ」


呟くように言った私の声が新一くんに聞こえたのかどうか…。
ずっと窓の外を眺めていた私の方に身体を寄せ、新一くんも時計台に目をやった。
直後、


リンゴーン リンゴーン リンゴーン…


大きな鐘の音が、熱気に満ち溢れた深夜の公園内に響いた。
と同時に、ヘリから音は聞こえないものの、下から真上に向かい煙が立ち上り、時計の針を覆い隠した。
…あの煙幕の向こうに、キッドがいる。


「あおい」
「え?」
「オメーが言うコソ泥の正体、今暴いてやるよ!」


そう言ったかと思ったら新一くんはいつの間にか目暮警部から奪った銃を片手に、ヘリのドアを思い切り開け放った。


「さぁ、マジックショーのフィナーレだ。座長の姿を拝見するとしましょうか?」


新一くんが撃った、と思ったら、時計の針を隠していた幕が大きく揺れ、地面に落下して行った。


「ありゃ見つけらんねーな…」


キッドの犯行を見に来ていた群衆に紛れ逃げるだろうと予測した新一くんは、キッドを追うのを止めた。
キッドが残した暗号を必死に解こうとする目暮警部。
新一くんがキッドを追うことを止めた1番の理由。


「コノカネノネハ ワタセナイ」


キッドが盗むことを目的としていないとわかったから。
だから新一くんは手を引いたんだと、思う。


「へぇ?」


私の呟きを聞いていた新一くんが口の端を持ち上げて笑った。


「オメー、まじであの泥棒のこと気にいってんだな」
「え?…なんで?」
「アイツが言いたいこと、わかったじゃねーか」


でも新一くんは目暮警部には答えを言わない。
それがきっと、自分の利益にならないことをしてまで時計台を守ったキッドに対する新一くんの優しさなんだと思った。


「あと数日で移築するんだってテレビで言ってた」
「あー、なるほど。… あおいが言いてぇことは少しだけどわかったような気がするぜ」
「言いたいことって?」
「ただの泥棒じゃなくて、義賊の真似事がしたい泥棒かもな」


そう言う新一くんは、逮捕できなかったわりにどこか満足そうではあり。
ヘリが完全にその場所から離れる前に、もう1度時計台に目をやった。
…もしかしたら、あの場所に今、快斗くんと中森さんがいるのかも、とか思いながら…。

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