キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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怪盗vs高校生探偵


黒曜石の子猫


「ねぇ、黒羽くん。あの黒猫といつ会うのかしら?」


文化祭が終わってしばらくしたある日のこと。
紅子が突然そう声をかけてきた。


「黒猫って?」
「あの日、あなたが連れてきた子猫ちゃんのことよ」


教室で椅子に座ってネットニュースを見ていた俺を、紅子は見下ろして言ってきた。


「…それもしかして俺の可愛い彼女のこと言ってんのか?」
「そうね、あなたの手に負えない『彼女』の話ね」


見上げた紅子は顔色を変えることなくそう言った。


「俺がいつあおいちゃんと会おうが、オメーには関係ねぇだろ」
「興味あるのよ、あなたの『彼女』に。紹介してくれない?」
「断る」


どこをどーしてそうなったのか知らねーが、紅子にあおいちゃんを紹介する?
冗談じゃねぇ。


「あら、そんなこと言っていいの?」
「あ?」
「一応、あなたの顔を立ててあげようかと思ったんだけど、必要ないのね」


なら勝手にするわ、と紅子は去っていった。
…なんだぁ?
この前の文化祭の一瞬で、紅子に目つけられたってことか?
いっくらあの子が人の目を引く子だからって、目引きすぎじゃね?
しかもあの紅子の目を引くとかおかしくねーか?
あの一瞬で何があった?
特に深い話ししてる感じもしなかったけど…。


「え?文化祭?」
「そー。そーいや、ちゃんと感想聞いてなかったなーって思って」
「楽しかったよ?快斗くんのクラスのグラデーションドリンクも美味しかったし!」


本人に聞いても、紅子が話題に出るほどの印象はないように思う。
…なら紅子お得意の魔法がどーのって関係か?
俺をキッドと見抜いたみたいにあおいちゃんの何かを見抜いた、とか?
でもじゃあ何を?
紅子が改めて紹介してくれと言うほどの何を見抜いた?
親がいない、天涯孤独なこととか?
いやそんな馬鹿な。


「あー!もうわっかんねぇな!!」


頭をガシガシと掻いても結論なんて出るわけもなく。
…まぁ、普通に暮らしてたらあおいちゃんと紅子が会うことなんざねーし、そこまで気にすることねーか、と開き直るしかなかった。


〜♪


俺が何を悩み、何を思おうと、時間は平等に流れていく。
たまたまこっち方面に下見を兼ねて飛んでいた時。
そーいや前もここらへん飛んでた時にトランペットの音聞こえたよなーなんて思っていたら、まさにそのタイミングでまたトランペットの音が聞こえてきた。
…まーた夜中に1人で屋上出てんのかよ、ったく。


「これはこれは、またお会いしましたね、あおい嬢」
「こ、こんばんは、怪盗さん…!」
「えぇ、こんばんは、麗しのお嬢さん」


2回目だからか、俺の登場にも驚かないあおいちゃん。


「あなたはまた、こんな夜更けに1人でこんな場所にいらっしゃるんですね」
「ま、まだ夜更けじゃないですよ!だってまだ9時前だし…!」


夜更けじゃないです!と言い張るあおいちゃん。
確かにな?夜更けじゃないかもしれない。
でも「夜」であることには違いねーだろうが…!


「あなたには本当に危機感が足りない」
「べ、別に足りなくなんかないですよ」
「どの口が言うんですか?」


思わず溢れた愚痴にあおいちゃんは口を尖らせながら目を逸らした。
最近気づいたこと。
あおいちゃんは不貞腐れると目を逸らし、口を尖らせゴニョゴニョと言い訳をする。
無理、可愛い。
そういう姿も可愛いとかズルさしか感じない。


「そ、そういえば!犯行予告出したってテレビで見ました!」


あからさまに話題を変えたあおいちゃんにため息が漏れた。


「どの予告状のことです?」
「どの!?えっ、いくつも出したんです??」


喫緊で言えば時計台のことだが、もういくつも犯行を重ねてる身としては、いつ出したどの予告状のことが取り上げられているのかわからない。


「と、時計台のこと、です。江古田の」
「あぁ…。あおい嬢はあの時計台はご存知ですか?」
「1度だけ、近くで見ることがあって」
「どうでした?あの時計台は」


結局あの後、時計台の話題が俺たちの間で出ることはなかったけど、あおいちゃんに取ってはあの時計台は嫌な思い出の場所になってしまったのか、気になっていた。


「あれは私がどうとかじゃないです」
「というと?」
「あれは快斗くんの…江古田に住む人たちの大切な思い出の場所だから、そこにあって当たり前な、守らないといけないものなんです」


この子はやっぱり、自分のことではなく「俺」の心配をする。


「ならばそれを盗んでしまう私は恨まれてしまいますね」
「怪盗さんは、不必要なものは盗まないじゃないですか」
「え?」
「怪盗さんの『目的』と違ったら、盗んでもきちんと返却する。だから怪盗さんを恨む人なんて、きっといません」


あおいちゃんは俺の目を見据えてそう言う。


「あなたはまるで、私が正義であるかのように言いますね」


…もし、全ての真実が明るみに出た時、俺は怪盗で、つまりは犯罪者だ。
でもそれでも。
俺を赦すと言ってくれるのか?


「怪盗さんは『怪盗』だからみんなの正義じゃないです。でも、」
「でも?」
「怪盗さんは、自分の思う正義のために動いてると思うんです」


この子のこれはもう、ある種の才能だと思う。


「そういう人は、目標達成のためには何でもするけど、それ以外のことではすごく優しい。…と、思います」


人をよく見ていて、ソイツの心に1番響く言葉を的確に言い当てることが出来る。


「そ、りゃあ、怪盗さんは泥棒だから、警察の人とかには恨まれちゃうかもしれないけど、でもそれ以外の人にはきっと、怪盗さんのしていることが伝わると思うんです」


俺のしていることは決して褒められることでもなければ、善なわけでもない。
でもだからこそ俺は、たった1人でいい。
怪盗キッドという存在を赦してくれる誰かに、出逢いたかったのかも、しれない。


「あなたは不思議な人だ」
「え?」
「…私は確かに、誰に後ろ指を指されることになったとしても、己が正義のためにこの姿になっている。そのことに迷いも後悔もない。…でもたまに、他の道もあったのかもしれないと思う時はあります」


そう言う俺を真っ直ぐ見つめる瞳は、漆黒の闇より深く、それでも決して光を失わない。
まるで黒曜石のように光を放っている。


「あおい嬢。あなたは人をよく見ていますね」


紅子はあおいちゃんを黒猫と例えていたが、あながち間違っちゃいない。
例えるなら黒曜石の子猫のようだと思った。
あの紅子ですらも興味を持った子。
それはまるで誰もが欲しがるビッグジュエル、パンドラのような存在。
もしかしたらそういう存在とめぐり逢えたことこそが、俺の運命を決定づけたのかもしれない。
キッドは俺の一部であり否定することの出来ない半身だ。
世間にそれを理解してもらおうとも説得しようとも思わない。
それでもどうしても、と言う思いが出てきてしまう時「黒羽快斗」としてだけじゃなく「キッド」としての俺もまた、ここに来ちまうんだろうと思う。
…この子が本当に誰もが探し求め欲するビックジュエルのような、手に入れるために命を賭す輩も出るパンドラのような存在なのだしたら、笑えねーけどな…。


「前回は私の奇跡をお見せして、今回はあなたの奇跡を見ることが出来た。さて、次は誰の起こす奇跡を目にすることやら」


そう言って立ち去ろうとした時、


「時計台の犯行日。警視庁のヘリに、気をつけてください」


不意にあおいちゃんが口にした。


「たぶん、怪盗さんが思ってる以上に大変なことになると思う」
「理由をお聞きしても?」
「…きっと、怪盗さんの生涯のライバルが現れます」
「ほぅ。それはそれは、ぜひお会いしたいものですね。そのライバル殿に!」
「冗談なんかじゃなくて、」
「えぇ、もちろん。あなたが冗談を言ってるなど思っていませんよ」


あおいちゃんが、一女子高生が警視庁の情報を知っているわけがない。


「ただ私は、相手が誰であれ狙った獲物は絶対に逃しません。いつも通り、己が正義を貫くだけです」


なのにわざわざ俺にそれを伝えるほどの確証ある情報を手にしているのは、恐らく俺の生涯のライバルになり得る存在から入手したからだろう。


「けどまぁ、あなたが私のライバルになり得ると言うほどの存在には興味あります」


じゃあそれが誰か?って、そんなの1人しかいない。
日本警察の救世主、現代のホームズとまで言われる男、工藤新一だ。
あの男がここでも俺の前に立ちはだかるらしい。


「きっと誰よりも信用できて、誰よりも厄介な人です」
「ははっ!まるでその人物を恋人か何かのように表現するんですね」
「…そう、ですね。怪盗さんにとってきっと誰より出逢いたくない恋人に、なると思います」


上等だ。
俺は元より負けるつもりも捕まるつもりも、さらっさらにねーけど、オメーと俺の本気の対決と行こうじゃねぇか工藤新一くん?


「とにかく、逃走経路や逃走方法の再確認した方が絶対にいいです」
「ご忠告、確かに頂戴しました」


あおいちゃんの忠告は殊更に的確だったのだと身を持って知るのは10日後のこと。

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bkm

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