キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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思い出の時計台


思い違い


あおいちゃんを初めて時計台に連れて行く日。
やっぱりどうせなら近くで鐘の音を聞いてほしいと思った俺は鐘の音が鳴り響く時間に合わせて時計台に連れて行った。


リンゴーン リンゴーン…


「…すっごーい!こんな綺麗な鐘の音、初めて聞いた!」


目をキラキラさせて時計台を見上げるあおいちゃんを見て、連れてきて良かったと本当に思った。
ここは、青子との出逢いの場所。
そして俺が初めて、家族以外にマジックを見せた思い出の、忘れられない場所だ。


「快斗くんはここが大切な場所なんだね」
「うん?」
「ここ、中森さんとの思い出の場所?」


あの日以来、あおいちゃんの口から初めて青子の名前が出たこと。
そしてあおいちゃんが青子との思い出の場所だと言い当てたことに、俺の脳内読んだんじゃねーかってくらい驚いた。


「なんでそう思うの?」


そう言った俺に少し申し訳なさそうな顔をしながら、


「快斗くん、懐かしそうな、でもちょっと寂しそうな顔して時計台見てたから」


そう言ってきた。


「そういう時って快斗くんはだいたい、こうだったんだー、とか、こういうことあったんだよー、とか?そういう風に言ってくれるけど、言わないってことは中森さんとのことかな、って思って」


あおいちゃんは人のことをよく見ている。
それは見た目だけのものではなく、その心の機微までも、よく見ている。
それがこの子の本来の性格からなのか、今までの環境のせいなのかはわからないけど…。


「別に寂しいとか、そんなんじゃねーけど、確かに懐かしい場所ではあるからさ。…初めて会った場所なんだよ。俺も『アイツ』も親待っててさ。でもなっかなか来ねーから泣きそうになってて。…俺が家族以外で初めてマジック見せたのが、あの日のこの場所だったなって思ってさ」


青子の話は聞きたくないと言っていたあおいちゃんに、こんな風に話すのはどうかと思った。
よりにもよって、出逢いの場所で、忘れられない場所だなんて話、どう考えても聞きたくない部類に入る話だろう。


「ならここはマジシャン・黒羽快斗のはじまりの場所なんだね。じゃあやっぱり快斗くんにとっての大切な場所だ」


でもそんなこと、この子にとっては些細なことなのかも。
俺が選んだ子はやっぱり、この子で間違いない。
そういう確信を突いた言葉をくれたあおいちゃんに、


「そういう場所が無くならないように、守らなきゃ」


勘違いを起こしてしまったのかもしれない。
あの日以来初めて青子の名前を出して、青子の話をしたけど、特に変わった様子も見せないあおいちゃんに完全に気が緩んだのかもしれないと、後になって思う。
そんな時、


「あ、快斗くんだ」
「え?どこどこー?ほんとだ快斗も来てるんじゃん!」


なんつータイミングだと愚痴りたくなるようなタイミングで青子たちに遭遇した。


「あー!あおいちゃんも!久しぶり!」
「こ、こんにちは、」


チラッと見たあおいちゃんは、いつもよりも少し顔を強張らせているものの、笑顔で青子と向き合っていて。
もしかして俺が気にしすぎていたのか?とかそんなこと思った。
だから、と言ったら言い訳にしかならないけど、青子の言葉にいつもの調子で返していた。
目的地が同じって言うこともあり、特に抵抗することなく青子たちと行動する流れになっていた。


「だいたい来るなら最初からあおいちゃん入れてみんなで来れば良かったんでしょ!?」
「だからなんでわざわざオメーらと来なきゃなんねーんだよ!」
「みんなで回ったら楽しいでしょ!?」
「2人で回らせろよ!」
「快斗とこのイベントで2人で回っても楽しいわけないじゃない!あおいちゃんが可哀想!」
「何が可哀想なんだよ!?」
「だって快斗のセンスで回るってことよね!?どー考えてもあおいちゃん可哀想でしょ!」
「人をセンスねぇみたいに言うんじゃねーよ!」
「はぁ?快斗、自分にセンスあるとでも思ってんの?」
「ね、ねぇ青子、」


青子と言い争っている時、躊躇いがちに桃井さんが声をかけてきた。


「快斗くんの彼女、どこに行ったの?」
「え?」
「私たちちょっと違うとこ見てたら、快斗くんの彼女いなくなってて、」


その言葉にバッと見える範囲を見渡すけど、それらしい姿は見えず。
血の気が引くと言う言葉は、こういうことを言うのだろうと思う。


「えっ!?うそ!快斗、あおいちゃんどこ行ったの、って、ちょっと快斗!」


…ヤバい、完全にヤラかした。
あおいちゃんが青子に対して思っていたことを、知っていたのに気を抜き過ぎた。
あの日、あおいちゃんは青子とはもう会わなくていいとまで言っていたのに、今日の態度でそういう感情も上手く消化したのだと勝手に思い込んでいた。


「…くそっ、出ねー!」


ケータイを鳴らしても出ない。
メールも返事は返ってこないだろう。
あまり地理を覚えるタイプじゃねーし、ここから出たら迷うのが目に見えている。
なんとしてもこの公園内で見つけないといけない。
抑えきれない焦りを抱え、公園内を駆け回った。

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bkm

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