キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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思い出の時計台


邪魔者


イベントブースに向かう人の流れの切れ目を縫って、時計台のある公園の端っこのベンチにたどり着いた。
私すごく感じ悪い。
中森さんは何も悪くないのに、中森さんの前から逃げ出した。
快斗くん、私がいなくなったことに気づいたらきっと嫌な思いするだろうな…。
でもこればっかりはどうしようもなかった。
そうなることが決まっていることだとしても、あんなに仲良さそうな2人、やっぱり見ていたくなくて。
あと1年とちょっと。
1年とちょっとでいいから、もう少しだけ待ってほしい、のに…。


「そもそも気づいてくれないかもなー…」


誰に言うわけでもない言葉は江古田の空に消えた。
それからどのくらい経ったのか…。
ちょっとだった気もするし、すごく長い時間だった気もする。
目の前を通り過ぎる楽しそうな親子連れや、仲の良さそうなカップルを見てどんどん虚しくなって行った。


「はぁ…」


こういう結果にしたのは自分自身。
それはわかっている、けど…。
もう一度大きいため息を吐いて、帰ろうと立ち上がった。
道、は、イマイチわからないけど、ケータイで調べればきっと駅までならたどり着ける。
そう思ってケータイを取り出したら、


「…快斗くん…」


着信履歴もメール履歴も快斗くんで埋まっていた。
あー、気づいてくれたんだ、って。
それを見た瞬間、嬉しいとかそういう感情よりも、悪いことしちゃったな、って思った。
返した方がいいんだと思うけど…。
こうやって逃げ出した私が、今快斗くんと何を話すのかってなるわけで。
やっぱり今はちょっと、返信しづらい。
だからせめて、江古田駅に行ってから連絡しよう。
そう思った直後、


「っ!?」


腕をガッ!と掴まれた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


掴まれた先を見ると息が上がっている快斗くんがいて。
見上げた快斗くんは、ちょっと待ってと言うかのように私を掴んでる手とは逆の手の平を見せて息を整えていた。


「ハァァ…。良かった、まだ帰ってなくて」


まだ少し息が上がっているけど、そう言う快斗くん。
よく見るとちょっと汗を掻いていた。
何か言おうと口を開いた時、


「!」
「…ごめんな、1人にさせて」


ちょっと体温の上がっている身体で私を抱き寄せそう言ってきた。


「もうこういうこと、ないようにするから」


ぎゅっ、て腕に力を入れる快斗くん。


「ほんとにごめん」


快斗くんは呟くように繰り返しごめんて言ってきた。
…何がごめん?
むしろ謝らなければいけないのは私の方だ。
元々結ばれるはずだったのに、2人の間に入ってしまって、ごめんね。
未来がわかっているのに、やっぱりまだ私といてほしいって思っちゃって、ごめんね。
あと1年ちょっとでいいからって言って、…そんな長い期間つきあわせることになって、本当にごめんね。
…でもきっと、それら全て「その時」がきたら、快斗くんの記憶から失くなると思うから。
だからあと1年と少しでいいから、ワガママにつきあって。


「…」


抱き締めてくれる快斗くんの背中に腕を回したら、それまでより強く、ぎゅっと快斗くんが腕に力を入れた。
しばらくそのままでいた私は、1度大きく深呼吸してゆっくり快斗くんから離れた。


「き、今日、は、このまま帰ろうかなって」


仲直りと言えるのかわからない状態だと、ちょっとこの場所に居づらいなぁって思った私は早めに帰ろうと思ってそう口にしたけど、


「今日はあおいちゃんをバイクで送るから、このまま俺んち行こう」


快斗くんが私の言葉に被せるように言ってきた。


「え、でも私、」
「こっち」


快斗くんは私の言葉を最後まで聞かずにずんずん歩いて公園から出て、黒羽家へと向かって行った。
どうしよう、あんまりお話する感じの雰囲気じゃないんだけど、なんて思っていてもぐいぐい進む快斗くんに着いて行くしかなくて。
快斗くんちに着いて、お茶出すよって言う快斗くんの言葉に、いつものようにリビングのソファに座ることにした。


「どーぞ」
「あ、ありがとう」


お茶を持ってきた快斗くんにお礼を言うと、快斗くんは私の隣に座る。
…と、思ったのに徐に快斗くんはこの前のように私が自分の足の間に来るように座って、後ろから抱き締めてきた。


「か、快斗くん?」
「何?」
「おっ、お茶、飲めな」
「離れたくねーんだもん」
「えっ!?」


快斗くんはまた被せるように私の言葉を遮った。


「だってあおいちゃん、俺が手離したらいなくなるだろ?」


快斗くんは私の頭に自分の頬をくっつけて言う。


「わ、たしは、」
「あおいちゃんは諦めが早すぎるから」
「そんなこと」
「あるよ。自分の中で変に納得して結論づける。…言い訳することも、喧嘩して言い合うことも許してくれねーじゃん」


快斗くんが少し顔を動かして、私の頭にちゅっとしてきたのがわかった。


「それで黙ってあおいちゃんが離れていくくらいなら、言い合いになったとしてもちゃんと思ってること言ってほしいし、知りたいと思う」


快斗くんは片手で私を抱き締めて、もう片方の手で私の頭を撫でた。


「だからあおいちゃんがいなくならないように、俺は手を離さねーよ」


この位置からだと快斗くんがどんな表情で言っているのかわからない。


「怒った…?」
「まさか!…怒ったってより、焦ってパニクった。あおいちゃんは?」
「え?」
「…怒った?」


でも、今きっと、困ったような、…どこか悲しそうな顔してるんだと思った。


「…怒ったわけじゃないよ」
「悲しかった?」


快斗くんの言葉にさっきの自分を思い出す。
悲しいは、悲しい。
でもそんなことじゃなくて、それよりももっと強く、


「私、邪魔だなって思った」


私がここにいてはいけないんじゃないかって、そう思った。
私の言葉に快斗くんの手がピタッと止まった。


「邪魔なわけねーじゃん。あおいちゃんがいてくれなきゃ俺が嫌」


そう言って快斗くんはまた私の頭を撫でる。
…怪盗キッドは弱い人に優しい。
あの哀ちゃんに「ハートフル」だなんて言われたくらいだ。
だから私にも、優しいのかも、とか。
ちょっとだけそんなことを思ってしまっていた。

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