キミのおこした奇跡ーAnother Blue


≫Clap ≫Top

思い出の時計台


不器用な男の本音


「スミマセン!このくらいの身長の、黒髪の可愛い女の子、見ませんでした!?」


どこに行ったのか見当もつかない俺は、手当たり次第人に聞いて回った。
今日はイベントってことで人手が多い。
それが吉と出るか凶と出るか。


「あのっ!このくらいの身長の、」


何人目かの家族連れに尋ねた時だった。


「白い服のおねえちゃん?」


5歳くらいの女の子が俺を見上げて聞き返してきた。


「そう!白い服の!見た?」
「おねえちゃん、ボール拾ってくれたよ!」
「あー、もしかしてあっちのベンチで座ってた子かしら?」


子どもの言葉に、その子の母親が思い出したようだ。


「どこのベンチです!?」
「ほら、時計台の裏手の、」


その人にお礼を言って、急いでそこに向かった。
普通に歩いたらここから2分もかからないけど、あの親子の移動速度だと恐らく10分弱はかかる。
ボールを拾ってからなら15分以上の時間経過があってもおかしくない。
俺は運動神経は悪い方じゃねーが、足に格段に自信があるわけでもない。
だけどそんなこと言ってる場合じゃない。
自分の中の全速力であおいちゃんがいるらしい場所を目指した。


「っ!?」


姿を見つけた、と思った直後、あおいちゃんがベンチから立ち上がったものだから、さらに限界を越えて駆けよった。


「ハァ、ハァ、ハァ」


そんなことしたから、自分でも珍しいと思うほどに、息が上がっていて、カッコ悪ぃことにしばらく言葉を発することができなかった。


「良かった、まだ帰ってなくて」


弾む息の中そう言う俺に目を合わせることなく、あおいちゃんは口を真一文字にしていた。
その口が何か言おうと開きかけた時、


「ごめんな、1人にさせて」


抱き寄せて、あおいちゃんが紡ぐであろう言葉を摘み取った。


「もうこういうこと、ないようにするから。ほんとにごめん」


あおいちゃんは、寂しがりの甘え下手な甘えたがりだと思う。
俺がこういうことしたら、いつも喜んで手を回し返してきた。
でも今は、その手が俺を掴むことはなく。
ヤバい、マズい、と思っても、これ以上は言い訳にしかならずに、きっとあおいちゃんは今そんなこと聞きたくないはずだ。
ならどうするか、脳内フル回転で考えを巡らせていた時、あおいちゃんがゆっくり、俺の背中に手を回した。
そこでようやく、安堵の息が漏れた。
…のも、束の間。
数回深呼吸したあおいちゃんが俺から身体を離して、


「き、今日、は、このまま帰ろうかなって」


そう言ってきた。
いや、そう言おうとした。
そんなこと今させたら、きっとこの子はもうここには来なくなる。
…下手したら俺と会うことを躊躇うようになる。
そんなことさせるか。


「今日はあおいちゃんをバイクで送るから、このまま俺んち行こう」
「え、でも私、」
「こっち」


そう思った俺は返事を待たずに家に連れ込んだ。
一応、飲み物も出したけど、ソファに軽く座るあおいちゃんは、どこからどー見てもすぐ帰ろうとしている姿勢なわけで。
そんなことさせるかと、後ろから抱き締めた。


「だってあおいちゃん、俺が手離したらいなくなるだろ?」
「わ、たしは、」
「あおいちゃんは諦めが早すぎるから」
「そんなこと」
「あるよ。自分の中で変に納得して結論づける。…言い訳することも、喧嘩して言い合うことも許してくれねーじゃん」


いつもはもう少し、俺に身体を預けるようにしてくれるのに、今日は身体を硬直させているように感じた。


「それで黙ってあおいちゃんが離れていくくらいなら言い合いになったとしてもちゃんと思ってること言ってほしいし、知りたいと思う。だからあおいちゃんがいなくならないように、俺は手を離さねーよ」


その言葉を聞いて、ようやくあおいちゃんは俺の腕に手を添えてきた。


「怒った…?」
「まさか!…怒ったってより、焦ってパニクった。あおいちゃんは?」
「え?」
「…怒った?」
「…怒ったわけじゃないよ」
「悲しかった?」


そう言った俺に小さく横に首を振った。


「悲しいとかじゃなくて…ただ、私、邪魔だなって思った」
「邪魔なわけねーじゃん。あおいちゃんがいてくれなきゃ俺が嫌」


あおいちゃんは何も答えない。
ただ俺の腕に手を添えているだけで泣いてもいない。
なんでそう思ったのかは自分でも説明できないけど、もし次にまた同じことが起こったとしたら、その時はもうこの子はここにいてくれないだろう、と。
そんなことを根拠なく直感的に思ってしまった。


「あおいちゃん」
「うん?」
「俺、あおいちゃんが好きだよ」
「え?」
「すげー大切で、大事」
「…」
「邪魔どころか、いてくれなきゃ困る」
「…快斗くん…」
「もっとなんでも思ってること言ってくれていいから。むしろ俺があんまり気効かなくて気づいてねーだけだと思うからどんどん言って」
「…快斗くんが気効かないわけないじゃん」


俺の言葉にここにきて初めてあおいちゃんが少し笑った。


「いやマジで俺、案外不器用に生きてるってわりと最近気づいたんだよな」
「快斗くんで不器用って言うなら私なんて生きてけないよ」
「あおいちゃんは存在するだけで可愛いから全て許される」
「なにそれ!そんなこと言うの快斗くんだけだよ」
「俺だけで十分。あおいちゃんは可愛い。俺の癒やし」
「な、なに言ってるの…!」
「ちょっと照れた?」
「…もうっ!」


どこか赤い顔でペチン、と俺の腕を叩いて笑うあおいちゃん。
あおいちゃんが笑ってくれるだけで、この場の空気が柔らかくなって俺の心も晴れてくるんだから嘘なんかじゃなく、俺の癒やしの存在なんだ、って。
上手く伝わってくれればと心から思う。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -