キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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思い出の時計台


後ろめたさ


キッドとして行動することにも慣れてきて、オンオフの切り替えがはっきりと出来るようになった。
怪盗キッド捕獲の陣頭指揮が青子の親父さんていうのは、厄介半分、こんなことを幼馴染に対して思うのはどーかと思うが「都合の良さ」も半分てところだった。


「あー、青子オメーさぁ」
「もう最近なんなの快斗!あおいちゃんに悪いからとか言って一方的に距離取ってたくせに別れたの?」
「別れてねぇよ!縁起でもねぇこと言うな!」


青子を「都合が良い」と扱う後ろめたさも然ることながら、あおいちゃんに対しての後ろめたさも当然生まれていて。
元々あった大事にしたい、大切にしたいと言う思いにその後ろめたさが拍車をかけて今まで出来ていたキスですら出来ずにいた。
そんなある日のこと。


「快斗くんも、時計台の噂聞いた?」
「噂って?」
「テーマパークに移築されるらしい、って話」


青子の友達の1人、桃井恵子から時計台の話を聞いた。


「それ結構前から噂あったよな?」
「んー、でもそれが本決まりするみたいだよ?」
「青子は嫌だな…」
「うん?」
「だってあそこは…思い出の場所なのに、移築されたらなくなっちゃうでしょ?」


青子の言葉に思い出すのは、青子と出逢った日のことで。
そんな思い出の場所でもあるよな、なんて思いつつも、「青子との」そういう感傷に浸るのもあおいちゃんに悪い気がして何とも言えなくなった。
…あぁ、でももしあの時計台がなくなるとしたら、その前にあおいちゃんに見せてやるのもいいかもしれない。
そう思って聞いてみたわけだけど。


「そういうの見たことないからどんな奴かな、って」


結構そーいうの好きそうなイメージあったけど、反応がイマイチだった。
行くとは言ったものの、どこか考えてるような、悩んでいるようなそんな素振りをみせるあおいちゃん。
気になってそっと顔に手を伸ばしたけど、そーいやこうやって触るの久しぶりだ、とか、やっぱりあおいちゃんは肌がスベスベしてて気持ちいい、とか。
そんな全然違うことを思っていた。
あおいちゃんは俺がこうやって触れる時、ノーとは言わない。
基本されるがまま。
だからこそ、ここぞとばかりに頬や首に触れていたわけだけど。


「あ、あのさ、快斗くん」
「何ー?」
「…こっ、ここここの、手は…?」


さすがにツッコミが入った。
…まぁ、そりゃそうだよなー…。


「触っちゃだめ?」
「えっ!?!?」
「ほんとはもっと触りてーんだけど」


驚いた顔で俺を見てくるあおいちゃん。
…そんなに意外なことでもないと思うけど。


「あおいちゃん、」
「……」


俺の言葉に黙って頷いたあおいちゃんの顔を両手で包み込んで顔中にキスをした。
久しぶりに触るあおいちゃんはやっぱり気持ちいいよなー、って思いながら押し倒したけど、何か胸に当たると思って軽く身体を起こすと、


「………」


目をギュッと瞑って、その格好から、ビームでも出して俺は倒されるのかって感じに手を前にクロスして固まっていた。
見るからにわかりやすく緊張してんのが、おもしれーし可愛いしで笑いが出た。


「大丈夫。あおいちゃんがいいって言うまで下は触んねーから」


とは言ったものの、あおいちゃんは顔を真っ赤にしてすでに少し涙が出ていて。


「ごめん、嫌だった?」


まさかこの段階で泣かれるとは思っていなかった俺は、咄嗟にヤバい!って思い身体を起こして離れようとした。
けど。


「まっ、ままま待ってっ!」
「うわっ!?」


あおいちゃんは両手で俺の服を掴んだものだから、意図せずあおいちゃんを組み敷く形になった。


「ちっ、違うのだってそんなつもりじゃなかったから全然心の準備してなかったのにそんないきなりどうしていいのかわからなくてすっごい恥ずかしいのに快斗くん全然手慣れた感じするしなんで私すっごい緊張してるのに私だけみたいでだってそんなどうしていいかわからないでしょ!?」


その状況で顔を隠し、まくし立てるあおいちゃんに、何故かキレられたものだから本人は真剣なんだろうけど、笑ってしまった。
手慣れた感じってなんだよ!
全然慣れてねーどころか俺も初めてだっての!
けどそれはつまり俺の、この子の王子様であろうとするポーカーフェイスが功を奏してる、ってわけで。
俺の涙ぐましい努力が認めてもらえてるわけだから、悪い気はしない。
でも…、


「そんな緊張してる姿見せたくねーもん。…だってカッコ悪ぃじゃん」
「…え?」
「え?」
「快斗くんにカッコ悪いとこなんてあるの?」


そんな俺の、言うなればエセ王子姿ですらも全肯定してくるあおいちゃんに、かなり恥ずかしくなった…。
この子なんで俺が王子に見えるのか謎でしかなかったけど、俺が何してもカッコよく見えるならそりゃあこの子にとっては王子に見えるのかもしれない。
でも俺は生身な男なわけで。


「それでもやっぱハグもキスもそれ以上もしてーなーとは思ってるよ」


キッドのこと。
青子のこと。
触れられない理由は俺自身にあるくせに、それでもこう思ってしまう俺はやっぱり王子にはなれない。


「私は、さ、」


俺の言葉を受けて、あおいちゃんは俺の腕にくっついて来た。


「快斗くんとこうしてるの嫌じゃないし、…むしろ嬉しいんだけどさ。で、でもやっぱり慣れないっていうか…慣れない…?みたいな、」


そういうことするの嫌じゃなかったのか、って、それがわかっただけでも言って良かったと思う。
…ならもう、慣れてもらうしかないわけで。


「俺的にもおいしいし、あおいちゃん的にも慣れること出来てウィンウィンだろ」


やっぱりすきあらば触れていたい気持ちがある俺としては、このチャンスを逃すわけがなく、早速足の間にあおいちゃんを入れて俺の前に座らせ、後ろから抱きしめた。
…やっぱり小さいし、柔らけーし、良い匂いするよなー。


「時計台、とか、さ、」
「うん?」
「そういう…モニュメント?とかってさ。な、なんか思い出あるのかな、って、」
「…あぁ」


時計台の話に戻って、「思い出」として真っ先に思い出すのはやっぱり青子の顔なわけで。
…こんな状況でそれはさすがに酷ぇなんてものじゃないと思ってしまった俺は、抱き締めていた腕の力を緩めた。


「昔からある奴だから、思い出はあるっちゃーあるよな」
「そういう場所、なくなっちゃうかもしれないの嫌だよね」
「んー…、まぁなぁ…」


それは「青子との思い出の場所」がなくなるのがどーのではなく、当たり前に響いていたあの鐘の音が聞こえなくなることに対しての思いのはずで。
後ろめたさなどそこにはない。
…とは、言い切れない思い出も確かに存在しているのを知っている俺は、


「あおいちゃんは?」
「え?」
「なくなったら嫌だと思うような思い出の場所、どっかある?」


そうやって聞くことで誤魔化したわけだけど。


「特にない、かなぁ…?」


あぁ、そうか、と。
この子は今まで転々としてて居場所がなかったわけだから、そういう思い出の場所と呼べるようなところも、なかったのかもしれない。
思い出の場所として作り上げる前に去らなければいけなかったのかもしれない。
…そんなこと、微塵も感じさせねーけど。
そう思ったら無意識に腕に力を籠めて、もう一度強く抱き締めていた。

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bkm

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