キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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思い出の時計台


思い出の場所


「ふはっ!」


私の言葉に笑う快斗くん。
…今のどこに笑う要素あるのかわかんないっ!!


「何、手慣れた感じって!」


快斗くんはゆっくり私から身体を離してソファに座り直した。
そしてソファに横になっていた私の腕を引っ張って起き上がらせながらそう言った。


「だっ、だって、」
「俺もあおいちゃんに触る時、めちゃくちゃ緊張してるよ」


えっ、と思って快斗くんを見るとおかしそうに笑っていた。


「う、うそだ!」
「嘘じゃねーって。嫌われたくねーし、怖がらせたくねーし、どこまでダイジョーブかビビりながら触ってんの!」


困ったような顔をする快斗くんは、嘘を言ってるようには見えなくて。


「だ、だって快斗くん全然そんな風に見えない、し、」
「そりゃあなるべくそう見えないようにしてるし。そんな緊張してる姿見せたくねーもん」


カッコ悪ぃじゃん、てちょっと照れたように快斗くんは言う。


「…え?」
「え?」
「快斗くんにカッコ悪いとこなんてあるの?」
「………」


快斗くんマニアな私からしたら全方位完璧にカッコいいと思うわけで。


「あおいちゃんのそーいうところだ」
「…なにが?」


私の言葉に照れたようにではなく、完全に照れた顔をして私から目を逸らした快斗くん。


「俺はー、」


2〜3回か深呼吸した後で快斗くんがチラッと私を見ながら口を開いた。


「いつでもあおいちゃんに触りたいと思ってるし、ハグしたいし、キスだってしたいって思ってるけど?」


快斗くんは今まで、そんなしょっちゅうギュッてしたりちゅうしたりはしてこなかった。
なんとなく、そんな雰囲気になった時になんとなく…みたいな感じだった。
だから快斗くんがこんなこと思ってたとか…予想外?いや予想外ではないけど、ちょっと…やっぱり予想外だった。


「でも緊張してるよーなカッコ悪ぃとこ見せたくねーし、そもそも嫌われたらどーしようとか思ってるビビりなとこも勘づかれたくねーし?」


それは私に言うってよりも…独り言に近いような話し方で。


「それでもやっぱハグもキスもそれ以上もしてーなーとは思ってるよ」


チラリと私を伺い見る快斗くんは「男の子」っていうより、「男の人」だと思った。


「…わ、たし、は、」
「あ!でも別に無理やりどーこーとかはねぇから!そこはほんとに」


うん、と自分で言って自分で納得したような快斗くん。
でもさ、それってさ…、私がまだ嫌だって思ってる、ってことじゃないの…?


「私は、さ、」


隣に座る快斗くんの腕に、ピタッとくっついた。


「快斗くんとこうしてるの嫌じゃないし、…むしろ嬉しいんだけどさ。で、でもやっぱり慣れないっていうか…慣れない…?みたいな、」
「…」
「なんて言うかな…恥ずかしい、も、ある、けど…でもこうしてるの嫌いじゃないし、」
「わかった」
「え?…わっ!?」


私の言葉を聞いて快斗くんが徐に私を自分の足の間に入れた。


「あおいちゃんにはちょっとずつ慣れてもらわねーとな」


楽しそうな、おかしそうな声色で快斗くんは言う。


「な、慣れる…」
「そー。俺的にもおいしいし、あおいちゃん的にも慣れること出来てウィンウィンだろ」


そう言って足の間に入れた私を後ろからぎゅっとしてきた。
………慣れる!?


「それで?」
「え?」
「さっき何悩んでたの?」


後ろからぎゅってして、私の耳のあたりに顔をくっつけながら快斗くんは聞いてきた。
………えっ!?


「あれっ?もしかして俺が気づいてないとでも思ってた?」


さらに力を入れて、ぎゅっとしてきた快斗くんの顔が、私のほっぺにちょっと触れていた。
…これはこれで慣れないっ!!


「べ、べべべべべべ別に悩んでなんか」
「俺の勘違い?」
「えっ!?い、いや、勘違いっていうか、」
「勘違いっていうか?」


ぎゅっとしながら聞いてくる快斗くんは、いつもなら引き下がりそうなところでも全く引き下がらない。
…いやでもまさか中森さんとの思い出の場所に対してモヤッてたとか言えないじゃん。


「時計台、とか、さ、」
「うん?」


どうしようどうしようって(一瞬で)うわーって悩んだあげく、中森さんてワードをまるっと抜いて話すことにした。


「そういう…モニュメント?とかってさ。な、なんか思い出あるのかな、って、」
「…あぁ」


結果、こんな文になってしまったけど、私の言葉に納得してくれたのか、快斗くんの腕の力が緩んだのがわかった。


「まぁ…昔からある奴だから、思い出はあるっちゃーあるよな」


それがどんな思い出なのか、聞いたら教えてくれるのかもしれないけど、どんな思い出なのか、聞かなくても知っている私は、何も聞くことはできなかった。


「そういう場所、なくなっちゃうかもしれないの嫌だよね」
「んー…、まぁなぁ…」


快斗くんは顔は見えないけど、ちょっと考えてるような声を出す。


「あおいちゃんは?」
「え?」
「なくなったら嫌だと思うような思い出の場所、どっかある?」


快斗くんの言葉に、今度は私が考える。
そりゃあ私もお父さんやお母さんに旅行に連れてってもらったりしたから、なんとなくの思い出はあるよ?
でもそれは「前の世界で」の話なわけで、「この世界」にもその場所が本当に存在してるのかわからないわけで。


「特にない、かなぁ…?」
「…そっか」


迂闊なことは言えないんじゃないかと思った結果、ない、と選択した私に快斗くんは短く返事してまたぎゅって力を込めた。
快斗くんはしばらく何も話さず、ただぎゅっとしていた。
そこにはやっぱりちょっと(かなり)の恥ずかしさと嬉しさがあった。

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bkm

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