キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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アブない夏物語


蹴撃の貴公子


宿に戻った私たちは、


「ねぇ!どう思う!?道脇さん、どう思う!?」


園子に捕まっていた。
…道脇さんどうこうより、まずお風呂に入りたいとか言ったら怒られるだろうから黙ってた。


「私はいいと思うよー。優しそうだし。あおいはどう思う?」
「え?う、うーん…、なんか、」
「なんか?」
「ちょっと怪しい…?」
「は!?どこが!?」


私の言葉に、園子がガッ!と肩を掴んできた。


「わ、私もほら、あぁいうこと言う人嫌いじゃないんだけどさ。でもナンパでいきなりあぁいうこと言う人って、ちょっとなー、って」
「あー…確かに、そう言われるとそうかも」


私の言葉に蘭が同意する。


「えっ、止めた方がいい?」
「うーん…、それはちょっと言い切れないけど…。園子はほら、料理が出来て強くてストイックで素直な人がいいって言ってたじゃん。あんまり掠ってなくない?」


うっ!と短い悲鳴を上げて胸を押さえる園子。
でも間違ったことは言ってないはず。…たぶん。


「あおいの言うことも一理あるし、いきなりどうこうじゃなくて、ちょっと連絡取れるようにしてみたら?」


蘭の提案に園子は、


「夕飯食べた後で、ちょっと2人で散歩しよって約束しちゃったから…」


照れっとした顔でそう言った。


「園子、いきなり夜に2人はダメだって」
「だ、だってさー、相手は大学生だし?仲良くなるなら、ねぇ?」
「いやまだ早いって!」
「な、何よー!あんただって彼氏いるんだから夜2人でいたりすることもあるでしょ!?」
「え?快斗くん8時には帰るよ?」
「「えっ」」


私の言葉に園子も蘭も驚いた顔をした。


「待って、あんた1人暮らしなのよね?」
「そうだよ」
「なんで8時に帰すの!?」
「え?…考えたことなかったけど、門限でもあるのかな?」
「んなわけないでしょうがっ!!」
「いったーい!!」


私の言葉に園子がパチーン!とおでこを叩いてきた。


「いいわ。私が先に大人の恋愛って奴してくるから!」


そう言って園子は部屋から出ていった。


「大切にされてるんだね、あおいは」


園子の行動に苦笑いしていた蘭が不意にそう言ってきた。


「そう、かな…」
「そう思う」
「そっか」


蘭の言葉がちょっと照れくさかった。
そして夕飯も食べて、園子は公言通り道脇さんとお散歩に出かけたわけだけど。
1時間もしないうちに、近くでパトカーのサイレンが聞こえてきた。


「な、なんかあったのかな…?」
「園子大丈夫かな?」


蘭と2人そわそわしていた。
それからさらに1時間後、


「あおいー!らーん!!」


何故か園子が海の家の店員さんと並んで帰ってきた。


「「レ、レイプ魔ぁ!?」」


さっきのパトカーは園子が呼んだもので、道脇さんはなんと連続婦女暴行事件の容疑者だったそうだ。


「そ、それで園子大丈夫だったの!?」
「あぁ、うん。真さんが助けてくれたんだー」


うふっ、みたいに言う園子。
え?真さんてあの店員さんだよね??えっ??なんで???


「あー!思い出したっ!杯戸の空手部、蹴撃の貴公子京極真!!」


蘭は園子の言葉に店員さんを指差しながらそう言った。
…蹴撃の貴公子とか、なんかちょっとカッコいい!
聞くと京極さんは、園子の前にも数人の女に声をかけてた道脇さんを見ていたから不審に思っていたところ、夜に2人で出かけるところを見てしまい。
ストーカーと呼ばれる覚悟で園子の身の安全を陰ながら守ろうとしてくれていたらしい。
…めちゃくちゃ良い人!!!


「真さんねー、春にあった蘭の空手の試合の応援に行ってた私のこと見てたんだってー!」
「あー、あの米花の女拳士って叫んでた時の、」
「あぁ…あの時の…」


あの時の園子はそれはそれは気合が入っていて、応援されてる本人がお願いだからもうちょっと静かに応援してって言ったくらいだったから、そりゃあ初対面だったとしても京極さんの目に止まっただろうな…。
京極さんていう、強くてストイックで素直な男の人の出現で(料理できるかはまだ謎)園子はすっかりナンパされたい欲が納まって、大満足な夏になったようだ。


「園子ちゃん、大変だったな」


伊豆から帰ってきた翌日、快斗くんがうちに遊びにきた。


「そうだよー。園子がナンパされたいって言うから海につきあったのに、まさかレイプ魔にナンパされるなんて思わないじゃん!」


園子は大満足な伊豆旅行でも、私はなんだかヤレヤレって感じの伊豆旅行だった!


「『ナンパされたい』?」


…って、愚痴ってしまったのが間違いだった。


「『ナンパされたい』って何?」


しまったー!
完全に気が緩んで、口走っちゃったけど、私今とんでもないこと言っちゃった気がする!!


「あおいちゃん?」
「…や、ほら、なんていうか、」
「俺の目を見て答えて。『ナンパされたい』って何?」


快斗くんは笑顔で聞いてくるけど、全く目が笑っていなかった。


「や、だから園子が、あっ!そうそう、園子から快斗くんに手紙?あるんだよ!」


ヤバいどうしようヤバいマズい、って思いながら、昨日の別れ際に園子から「これ黒羽くんに渡して」って言われた封筒を渡した。
快斗くんは片眉を上げて胡散臭そうな顔しながら、その封筒を受け取り中に入ってるものを確認した瞬間、


「え?なに?」


バッ!と封筒の中に再び中身をしまった。
そして、


「あおいちゃん」
「う、うん?」
「許すのは、今回だけだからな?」


そう言いながらその封筒をカバンにしまった。


「それ何が入ってたの?」
「んー…誕プレ?」
「え?園子から快斗くんに?」
「うん」


快斗くんはそれ以上答えない。
…園子から快斗くんに誕プレ?え?なんで?そもそも中身なに!?なんで2人とも教えてくれないの!?
なんて謎が謎を呼びつつ、今年の夏は終わった。

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bkm

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