■脱☆お嬢様大作戦
「いい?今回は2人にも協力してもらわなきゃいけないの」
伊豆に向かう道中、園子がグッ!と拳を握りしめた。
「今回は脱☆お嬢様大作戦よ!」
「…脱、」
「お嬢様大作戦…?」
園子の言葉を復唱する私と蘭。
「私気づいちゃったのよね。いつも旅行で泊まるって言ったらうちの別荘かホテルでしょ?そんなの男の人に『あぁ…あんな高嶺の花、無理に決まってる』って思われちゃうでしょ」
「あー、確かに…」
「でしょ!?あおいならわかってくれるって思ったのよ!だから今回は女子高生らしく、ボロッちぃ安宿手配したんだから!!」
「そ、そーいう問題かな…」
園子の言葉に賛同する私と、ツッコミを入れる蘭。
「でもさ、確かにすごい高いホテルに泊まれる女子高生ってなかなかいないから、声かけやすいか?って聞かれたらかけにくい気がするよ?」
「う、うーん…」
蘭は頭を抱える。
「そもそも、あおいは大丈夫なの?」
「なにが?」
「黒羽くん。海行くの反対しなかった?」
心配そうに見てくる蘭は、さすが帝丹が誇るエンジェルなだけある。
「んー…、水着の規制は入ったかなー」
「規制って?」
「胸出過ぎるのはだめー、とか?」
「あぁ…」
私の言葉に蘭は同情したような声を漏らした。
「でもさー、結局OK出してくれたんでしょ?あおいの彼!」
「うん。一緒に水着買いに行って、この水着ならいいよー、って」
「ふむ…」
私の言葉に園子は何かを考え込んでいた。
どーしたのか聞こうと思ったら、
「あ!次で降りるよ!」
蘭が声をかけてきた。
本日の脱☆お嬢様大作戦を決行するにあたり、移動手段も全て公共交通機関にしている。
私や蘭にとってそれは当たり前のことでも、園子には新鮮らしく、それだけで楽しそうだから例え園子の思惑が外れてもこれはこれでいいと思う!
園子曰く「ボロッちぃ安宿」に着いて荷物を置いて、海に突撃した(もちろん泳げない私は足をつける程度しか入らないけど!)
でも…
「ねぇ、キミどこから来たの?」
「おねーさん、めちゃくちゃスタイル良くないです!?俺めっちゃ好み!!」
「友達と来てるの?俺も友達と来てるんだけど、」
声がかかるのは蘭ばかりで、園子のご機嫌が折れ曲がってきている気がした。
これはマズいと、気晴らしになればと思い、かき氷でも買ってくるよと海の家に向かった。
ん、だけ、ど。
「…あれっ?こっちから来たと思ったけど…」
人の多さに見事に迷子になった私。
「どーしたの?友達とはぐれた?」
かき氷を持ってヤバい、マズいと不審な動きをしていた私に声をかけてきてくれたお兄さんがいた。
「あ、はい。確かこっちから来たと思ったんだけど…」
「これだけ人多いとねー。探すの手伝おっか?」
出会い頭のお兄さんが優しくて、お言葉に甘えさせてもらうことにした私は、お兄さんに園子と蘭の特徴を伝えた。
「でもこの時期に女の子だけで海に来るとか危ないんじゃない?」
お兄さんと辺りをキョロキョロしながら、サラーっと今の状況を伝えたらそう言われた。
「なにが『危ない』んです?」
「え?…ほら、例えば俺みたいなナンパするような男に絡まれたりとか?」
「えっ?お兄さんこれナンパですか!?」
「…いや、俺は違うけど、」
「ですよね?ほら大丈夫じゃないですか」
「…」
「あ!いた!らーん!」
お兄さんと歩いていたら無事に蘭と合流できた。
「あおい!良かった、探したよ!」
「ごめん、ごめん!迷っちゃってお兄さんと一緒に探してたんだ」
「え?お兄さんて?」
「え?あれっ!?お兄さんいなくなっちゃった…」
蘭と合流できたからお兄さんにお礼言おうとしたら、お兄さんはいつの間にか消えていた…。
まぁ…無事に見つかったし、また会えたらお礼言えばいいや。
「園子はどうしたの?」
「待ちに待ったお声がかかったの!で、お昼みんなで食べようってなったからあおいを探してたのよ」
ふふっ、と蘭が笑いながら言う。
「ナンパされたの!?」
「しーっ!…1人で来てる米花大の学生だって。園子あんなに騒いでたのに、1人だと心細いみたいだから、ついてってあげよう?」
そう言って連れて行かれた先に、
「あおい、おっそーい!」
「こんにちは」
園子とちょっと日に焼けた大人な男を感じさせるようなお兄さんが並んで立っていた。
…ついに!ついに園子にも…!!
「僕の勘が正しければ、僕の救いの女神になるはず」
ナンパしてきたお兄さんは道脇さんて言って、失恋旅行に伊豆に来ていたところ、うっかり園子にフォーリン・ラブしちゃったようだ。
…救いの女神とか、私に言われてるわけじゃないけど、私まで恥ずかしくなっちゃう…!
「生ビールお待たせしました。…それとお客さん、タバコの灰、落とさないでください。掃除が大変なんで」
園子と一緒にきゃー!ってなってる時、海の家のお兄さんがビールを運んできた。
ん、だけど…。
「ねぇねぇ、あの人どっかで見たことない?」
「だ、だよね?私もなんか見たことあるような、ないような?」
「あるわよ。さっきいたでしょ?うちらが泊まる宿屋の息子よ!」
「えっ?」
「宿手伝うために帰ってきてるって話で、経営者が一緒なのかここでも働いてんのね」
態度悪い店員だなー、と道脇さんと園子は言う。
宿屋の息子…さっきいたっけ?
うーん、と考え込んでいたら、いつの間にか夕飯も道脇さんと食べることが決まっていた。
…これは、みんなで食べるからいいのかな?
でも快斗くん嫌がるかな…。
園子が考えてることとは別のことを考えながら、一旦宿に戻ることにした。
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bkm