キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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蘇る怪盗


力になれたら


快斗くんの誕生日翌日。
昨夜、怪盗キッドが予告通り宝石を盗み逃げおおせたことを各局が報道していた。
怪盗キッド、完全復活だそうだ。
快斗くんの16回目の誕生日に、怪盗キッドは完全復活した。


「いらっしゃーい!」


うちに来てくれることになっていた快斗くんは、予定より少し遅れてやってきた。
…の、だけど。


「おじゃまします」


快斗くんの表情と、本当にその一言だけだったけど。
それはもう前の世界からの筋金入りの快斗くんマニア(本人には秘密)な私は、直感的に思ってしまった。
昨日のキッドは快斗くんだったに違いない、って。
疲れているとかいないとか、そういうことじゃなくて。
あえて言葉にするなら、快斗くんの半分がどこかに行ってるような…。
ここに確かに快斗くんはいるんだけど、でも何か足りないような、どこか不安定さがある、そんな雰囲気があった。


「快斗くん、何かあった?」


それは当たり前のことなのかもしれない。
だっていきなり「あ、あの怪盗、俺ね」なんて言えるわけないもん。
それはわかるんだけど、やっぱりそれはちょっと、寂しい。
そう思って聞いてみたんだけど。


「何かって、なんで?」


もちろん、快斗くんは答えてくれない。


「んー…ちょっと寝不足?」


確かにちょっと、寝てない感じの顔してる。
最後に見た時よりもなんとなく、顔色が悪い感じがした。


「じゃあ少し寝る?枕いいよ」


それはもう無意識な行動とでも言うのかな。
快斗くんにそんな顔、させたくないなーって思ったらそう提案してしまったいた。
膝枕なんてそんなそんな、って思う反面、快斗くんがちょっとでも元気になったらいいなー、って思うから恥ずかしがってる場合じゃないし、そもそも私の膝枕は園子と蘭のお墨付きな心地よい枕だからきっと気分が変わるはず…!


「大丈夫だから、どうぞ!」
「じゃあ…失礼します、」


そう言って私の腿に頭を乗せた。 
快斗くんの髪は黒髪ストレートな私と違って茶色くてふわふわなくせっ毛が気持ちいい。
柔らかくて、優しい、快斗くんを象徴するような髪をしている。


「昨日なんで眠れなかったの?」
「んー…考え事してた、っていうか、さ、」


快斗くんは右腕で顔を隠すようにして横になってる。
だから顔は見ないように、いつも快斗くんがしてくれるように、快斗くんのふわふわな髪を撫でた。


「快斗くんはさ、頭良いから考えすぎちゃって眠れなくなっちゃうんだよ」


ちょっとパーマがかかってる、ふわふわな髪は指の通りもよく触っていて本当に気持ちいい。


「そんな難しく考えなくても案外するっと上手くいくものだよ」


私が頭を撫でながらそこまで言うと、


「例えばの話、」


快斗くんが徐に口を開いた。


「あるかどうかわからない危険回避のために、自分の思いとは裏腹なことをしなきゃいけない時がきたらあおいちゃんはどうする?」
「え、しなきゃいいんじゃないの?」


私の言葉に快斗くんが右腕を退けて、はっ?て感じの顔をした。


「だって『あるかどうかわからない』んでしょ?じゃあないよ」
「いや可能性の話しでさ」
「あのねー、快斗くん。起こるかどうかわかんないこと考えてても時間の無駄だって。『あるかどうかわかんない』ならそれはもうないんだよ!なのに自分が思ってることとは違うことしなきゃなの?それおかしいよ」


快斗くんは頭がいい。
それはもう、新一くんと同レベルでの賢さだ。
だからきっと、いろんな可能性、いろんなリスクを「考えてしまう」んだと思う。
でもそれはあくまで「いくつかある未来の可能性」にすぎないわけで。
こんなこと言うと新一くんなら確実に、オメーもっと考えて行動しろよ、って言うと思う。
でも「いくつかある未来の可能性」の1つを詳細に考えて悩むより、「こうありたい未来」を1つ詳細に考える方が健全だと思うの。


「『あるかどうかわかんないこと』がもし起こったら、それはその時考えればよくない?なんで今そんなこと悩むの?」


私は難しいことは考えない(というか考えてもわからないから!)
だから正直なところ、なんで今それで快斗くんが悩むのかわからないけど。
でもそれもきっと、快斗くんがキッドになった故のことなんじゃないか、って思った。


「あおいちゃん」
「うん?」
「やっぱ添い寝して。一緒に寝よ」


起き上がって私を見た快斗くんは、いつもの笑顔で柔らかく笑ってそう言った。
…快斗くんて、私を甘やかしたがりな人だと思ってるけど、自分でこういうこと言わないから、なんかちょっと、…かなり?嬉し恥ずかしい感じがする。
だけど、せっかくの快斗くん甘えんぼターンだから、ここはちゃんと甘やかさねば…!と、彼女としての使命感に燃えた。


「あおいちゃん、シャンプー変えた?」
「そう!夏用に変えてみたの」
「この匂いいいね。夏っぽい」


え、この寝方、逆に寝にくくない?私ちょっと寝にくいよ?腕痛くない?痛いよね??大丈夫???
て感じに快斗くんは私をギュッ、て抱きしめた。
ギュッ、て抱きしめて私の頭に鼻をくっつけてるのがわかる。
それがちょっと、擽ったい。


「快斗くんは、温かいね」
「あおいちゃんは、柔らかいね」
「…なにそれ!ぽちゃってしてるってこと!?」
「んー…ぽちゃ、ってより、ぷにぷに」
「ぷ、ぷにぷに!?ぷにぷにってなに!?」
「あおいちゃん、」
「え?な、なに?」
「悪ぃ…少し、寝かせて…」


快斗くんはそれだけ言うと、スーと寝息を立て始めた。
少し経ってから、快斗くんがギュッとしていた腕からソッと出て快斗くんを見ると、


「…」


スヤスヤと寝ていた。
…普通の男の子が、怪盗になる、ってこと。
それはきっと、探偵になるってことよりもずっと大変なことで。
きっと私には、わからないことで…。
私が「キッド」の力になることは出来ないんだと思う。
だけど「快斗くん」の力になれたらいいなー、って。
顔にかかる前髪を払って、寝てる快斗くんのおでこにちゅっ、てキスをした。

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bkm

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