キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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蘇る怪盗


蘇る怪盗


俺の16回目の誕生日。
午前0時にあおいちゃんがおめでとうと言ってくれた。
俺の誕生日、ってことはあと数日で親父が死んで丸7年。
本来去年するはずの7回忌が出来なかったため、一年遅れての法事をした。
別に誰を呼ぶわけでもない。
俺とお袋だけの質素なものだった。


「早ぇよなー…もう7年だぜ?」
「快斗も高校生だしねー」


親父が死んで、何もかもが終わったように感じた日からもう7年。
何もかもが終わっても、そこからがまた始まりなんだと知った。


「見てください!7年前と同様のキッドマークです!」


家に帰ってテレビをつけたらニュースキャスターが叫んでいた。
今から約1ヶ月前に7年ぶりの犯行予告を出し、そこから立て続けに3件の犯行に及んだ「世紀の大怪盗」と呼ばれる男。
最初こそ模倣犯として扱われ、さほどニュースにならなかったものの、この10日くらいは学校でもコイツの話題で持ち切りなほどだった。


「7年前同様、奇術のようなものを繰り広げ逃走したそうで今夜も」
「奇術ねぇ…」


かつてこの男の熱狂的なファンがいたそうで。
そいつらが復活を喜んで、キッドが犯行を重ねる度に予告現場に足を運び、目撃者も徐々に増えているため、こうしてメディアでも取り上げられるようになっていった。


「でも所詮、ただの泥棒じゃねーか」


チャンネルを替えようとした時だった。


「快斗」


お袋が俺を呼んだ。


「快斗ももう16歳。…これから見聞きすること全ての判断は、あなたに任せるわ」
「え?」
「例えそれが世間に指を刺されることだとしても、あなたがそれを選ぶなら、私はあなたの味方よ」


何考えてるのかよくわからないところがある人だったけど、この時は本当に言ってる意味がわからなかった。


「何いきなり」
「人生これから、ってことよ。あなたにはいくつもの選択肢があって、それらは全て強要されてるわけじゃない。選ぶのはあなた自身よ。…でも、選ぶからには覚悟なさい」
「…言ってる意味がわかんねーんだけど、」
「そのうちわかるわ」


そう言ってお袋は部屋に行った。
…なんだ?今の。
まぁ…、そのうちわかるってなら、今じゃねーんだろ。
その程度の気持ちでいた。


from: 芳賀あおい
sub:少しでいいから
本文:お話したいです


その後、あおいちゃんからそんなメールがきた。
そんな風に可愛く言われたら、拒否するなんて頭が俺にあるわけなく。
速攻で電話した。


「快斗くん、げ、元気?」


何の電話かと思ったら、いきなりそんなこと聞かれて。
あれ?十数時間前に電話で話したばっかりだよな?なんて思っても、ちょー元気、とか答えていた。


「あおいちゃん、寂しくなっちゃったの?」


この子の予測出来ない言動はもう想定内。
問題は「何故その言動をしたのか」ってところなわけで。
さて、今回はどうしたんだ、と聞いてみたんだけど、


「寂しいっていうか、快斗くんどこで何してるかな、って…」


原因はわからない。


「部屋でパソコン弄ってたけど?」


もういっそ直接聞こうとしたわけだけど、


「何、にもない、けど、気になっちゃった、から、」


なんて答えが返ってきた。
たぶん他の奴に「気になったから」なんて言われても、オメーに関係ねーだろ、で終わるだろう。
でもあおいちゃんに「気になっちゃったから」なんて言われたら、


「そっかー、気になっちゃったかー」


なら仕方ねーよ、としか思わないのが不思議だ。


「俺明日行こうか?」


寂しいと思っての言動なのか、とか、会いたいと思っての言動なのか、とか。
そんなこと思ったらそう聞いていた。


「来てくれるの?」


俺に対して悪いと思ってるのか、伺うようにそう聞いてくるあおいちゃん。
もっとワガママでもいいんだけどなー、なんて思いつつ、明日の予定が決まった。
ならば自室の電気を消して早めに寝るか、と思った時、部屋に飾られてる親父のパネルが目に入った。


「…あんたの息子も16になったぜ」


答えが返ってくるはずのない言葉が口から出ていた。
世界一のマジシャン、黒羽盗一。
…夕方のテレビで見た怪盗キッドも、親父くらいのマジックを身に着けてから「月下の奇術師」と名乗ってほしいものだ。


「今も昔も、親父以上のマジシャンはいねぇよ」


そう言ってパネルに手をついた。
瞬間、


ガコン


「おわっ!?」


パネルが回り、隠し部屋が開いた。


「は…?なん、だ?ここは…」


そこには今まで見たことのない空間が広がっていて。


「久しぶりだな、快斗」


車やらピストルのような小道具やらが整然と並んでいる部屋を見回していた時、ジュークボックスのような機械が動いたかと思ったら、懐かしい親父の声が聞こえてきた。
この部屋は、黒羽盗一が仕掛けた最後のマジック。
俺の16歳の誕生日に開くようになっていた隠し部屋。
聞こえてくるのはマジシャンの心得を説く親父の声。
そして、


「これって…」


部屋に用意されているのはどう考えても今噂の怪盗キッドの衣装で。
不意にさっきのお袋の言葉を思い出した。
これから見聞きすること全ての判断を俺に任せる、と。
つまり俺はこれがどういうことか判断するだけの物を見聞きしなければいけない。
それは今夜も犯行予告を出している怪盗キッドに会えばわかることなのかもしれない。


「いいぜ、親父。あんたが仕掛けた最後のマジック、解いてやるよ」


白い衣装に身を包み、予告されている犯行現場に向かった。
報道されている怪盗キッドの行動パターンから、逃走経路は屋上の可能性が高い。
そこで張っていると、


「待ってたぜ、怪盗キッド」


案の定、今世間で私になっている怪盗が俺の目の前に現れた。


「と、盗一様!!」
「へ?」
「生きておられたのですねっ!!」


怪盗キッドは俺の親父の名前を叫んだ。
…あぁ、思い出した。
親父の付き人だった寺井黄之助だ。
そしてジイちゃんは言う。
全てが終わったと思ったあの日の出来事。
あれは事故なんかじゃないと、親父は殺されたんだと。


「正直に答えてくれ。泥棒だったのか?…親父は、怪盗キッドだったのか?」


俺の問いにジイちゃんは肯定した。
…恐らく、お袋も知っていて、だから俺に言ってきたんだ。
例えそれが世間に指を刺されることだとしても「俺」がそれを選ぶなら味方だと。
全ては強要されるものでもなく、選ぶのは俺自身。
…16年、俺の親をしてるだけある。
そうだな、選ぶのは俺だ。
親父が殺されたと言うのなら、俺はその真相と仇を取る道を選ぶ。


「俺はもう、坊ちゃんじゃない」


選ぶからには覚悟が必要だ。


「怪盗キッドだ!」


親父の死の真相を知るまでは、親父の跡を継ぐと決めた。

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bkm

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