■ 37
あぁ、これはこの人なりの謝罪の品なのか(しかもまたうさぎ…)
「ユナ、聞いてくれ」
そう思い至ったら、1つ溜め息が出た。
「本当にデートと言うものは結婚前の男女がするものだと思っていた。だがデートと言うのは、結婚していようがしていまいが関係なく、想い合っている男女がするものだと聞いた」
「…あぁ、うん、そうだね」
「だから改めてオレから言わせてくれ。今度の休みにデートしよう」
私の顔を見ながら我愛羅は言ってきた。
「…いいよ、もう」
「何?」
「もう、いいから」
私の言葉に我愛羅は驚いた顔をした。
「何が『もういい』なんだ?」
「…我愛羅は確かにこの3ヶ月ずーっと働きっぱなしで疲れてるだろうし、寝てていいよ。…出かけるのは今度にしよう?」
私の提案を、
「それは駄目だ」
我愛羅はあっさり却下した。
「ダメって何が?」
「それでは何も解決しない。どちらかの犠牲の上にではなく、お互い納得いく妥協案でなければ何も改善しない」
我愛羅は本当ーーーに、真剣な顔で言った。
「…いやだから私は別に今回のお休みじゃなくて次回でいいって、」
「だからそれは駄目だと言っている。お前だけが譲歩しているじゃないか。それでは解決にならない」
そうだろう?と言ってくる我愛羅。
…あぁ、この人って本当に心の底から真面目な人だったっけ…。
そんなこと思った。
「じゃあ我愛羅の解決案は?」
「そうだな…。午前はゆっくりさせてもらうとして、午後からデートすると言うのはどうだ?」
…以前も思ったことだけど、この人に羞恥と言う心はないんだろうか…?
そんな何度もデート、デートって連呼するものではないと思うんだけど。
「ユナ?」
返答のない私を、我愛羅は不安そうな顔で見てきた。
「…うん、我愛羅がそれでいいなら」
「ならば決まりだ」
我愛羅はホッとしたような顔をした。
「でも本当にいいの?」
「あぁ。なんなら『ゆびきり』してもいい」
「え?」
その言葉に驚きを隠せなかった。
聞き間違えかと思って我愛羅を見ると小指を立てて私の方に差し出してきた。
「…あ、うん、じゃあ…」
その行為にやや圧倒されながらも、私も小指を出し、我愛羅の小指と絡めた。
「ゆびきりげんまん、嘘吐いたら…離縁は困る」
あの時の1回で覚えたらしい我愛羅はリズム無視で淡々と言ったかと思うと、いきなり顔を顰めそう言った。
「じゃあ、」
「うん?」
「嘘吐いたら口きかない」
「それも困る」
「嘘吐かなければいいんだって」
「……それはそうだが、」
「はい、じゃあ、ゆーびきーりげーんまーん、うーそついたら、もう口きかない」
「待て」
「うん?」
「…その日だけじゃないくて『もう』口きかない、なのか?」
「うん」
「…」
「はい、ゆーびきった!」
私の言動に我愛羅が思い切り難しそうな顔をしたのがわかって、噴き出しそうになるのを必死で堪えていた。
「あぁ、そうだ」
「うん?」
私が笑いを堪えていると、我愛羅が何か思い出したように声をかけたきた。
「どこか行きたいところはあるか?」
「え?どこでもいいよ?」
「それが1番困る」
「えぇ?うーん…、あ、じゃあ、」
「なんだ?」
「我愛羅の思い出の場所、とかは?」
私の言葉に、我愛羅は目を見開いた。
「思い出の場所?」
「そう。この里内で、我愛羅が特に思い入れがある場所」
「…」
「そういう場所に、連れていって?」
「……」
それを聞いて、我愛羅は少し困ったような顔をした後で、軽く目を伏せ、わかったと短かく答えた。
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