■ 28
「お前は温かいな」
何度目かの事が済んだのは、もう外が明るくなり始めた頃だった。
「だからお前のまじないはよく効く」
我愛羅に腕枕をされ抱き締められるような形で横になっていた時、独り言のようにそう言われた。
「我愛羅も温かいよ?」
「…自分のことはわからん」
その返答がいかにも我愛羅らしくて少しおかしくなった。
「ユナ」
私がそんなこと思ったことに気づいたかのようなタイミングで、我愛羅に名前を呼ばれた。
「もうしばらくは、忙しい日が続く」
「…」
「だがまぁ…、年内には落ち着くだろう」
だから、な、と言葉の続きを濁した我愛羅。
…「年内には」と言うけど、年内ってまだ後8ヶ月もあるんだけど…。
それはちょっといくらなんでもあんまりだ…。
「毎日は無理でも、2日に1度は夕飯を一緒にしたいんだけど…」
「いやそれは、」
「じゃあ3日に1度?」
「…2週間に1度」
「4日に1度、」
「……10日に1度」
「5日に1度!これ以上はダメ!」
「………」
上半身を軽く起こして言った私の言葉に、外の明かりが入り込み始めた部屋で、我愛羅が困った顔をしたのがわかった。
「…わかった、そうなるよう努力する」
1つ、溜め息を吐いた後で我愛羅ははっきりとそう言った。
「本当!?」
「あぁ」
「じゃあ約束」
そう言って小指を出した私に、
「………小指がどうした?」
驚くべきことを我愛羅は聞いてきた。
「え?…砂隠れにはない?」
「何が?」
「ゆびきりって言って、こう…約束する時にするんだけど…」
我愛羅は少し考えるような素振りをした後で、知らんな、と短く答えた。
「小指、出して」
「こうか?」
「そう。…こうやって、小指と小指を絡ませて、ゆーびきーりげーんまん」
我愛羅と小指を絡ませて、口ずさんだ時、
「うーそ吐いたら、」
ハッとした。
この人は、何が怖いだろう…。
針1000本飲ます、と言う子供の遊びにも近いこの約束事は、この人はまず信じない。
だってサラッと1000本も飲めるわけないだろう、とか言いそう。
じゃあ何が、と思った時、旧風影邸での言葉を思い出した。
「嘘吐いたらなんだ?」
「…うーそ吐いたら、離縁する!」
「それは困る」
ちょっと、と言うか、かなり意地悪だと自覚はある。
だけど我愛羅はあの時、私以外の女を娶ることはないと言った。
ならばこれだったら、と思い口にしたら案の定な反応を示してくれた。
「大丈夫、嘘吐かなければいいんだから」
「…いやだがまだ5日に1度共に夕飯を食べれるかはわからな」
「やっぱり嘘なの?」
「……………善処する」
「じゃあ大丈夫」
「…」
「うーそ吐いたら、離縁する!ゆーびきーった!」
そう言ったと同時に小指をパッと離した。
「ゆびきりしたことは守らないと、嘘吐いた時それをされても文句を言えないのよ?」
「………」
私の言葉に我愛羅はしばらく、自分の小指を見ながら困った顔をしていた。
その仕草がなんだか可愛く思えて、笑い声が漏れるのを我慢していた。
「ねぇ、我愛羅」
「うん?」
「…本棚のあのぬいぐるみも、ナルトからなの?」
ナルトから送りつけられた大量のエロ本と、恐らくは極普通の、我愛羅個人のものだと思われる本たちの間に、遠目で見てもかなり年季が入ってると感じられるくまのぬいぐるみが置いてあった。
「あぁ…、あれはオレのだ」
「…えっ!?」
なんでこんなぬいぐるみまで送ってきたんだろう、なんて思いながらそのぬいぐるみを見ていたら予想外なことを言われた。
「我愛羅の…?」
驚いて思わず顔をまじまじと見ながら聞いた私に、我愛羅は目を閉じ大きく息を吐いた。
「あれは昔、誰もオレに近づこうとしなかった頃の…話し相手と言うか、遊び相手だ」
そう言われ、思わず、あ、と声が漏れそうになった。
「ここに引っ越すにあたり片付けをしていたら出てきたんだが、手に取り見ていたら、あの頃のオレと、今のオレの…違いとでも言うのか、そういうことを色々考えさせられ捨てるに捨てられなくなった。だがあのままあの家に置いていたらテマリに捨てられると思ってな…」
「それで持ってきた?」
「あぁ。…だが持ってきたもののどこに置けばいいのかわからず、結局ナルトの本と同じところに置いている」
前髪を掻き上げるかのような仕草をしながら我愛羅は言った。
…置く場所に困ったからってあのエロ本の間とか、それはいくらなんでもあんまりだと思う…。
「ならベッドに置けば?その方があのくまちゃんも喜ぶと思うけど?」
私のその言葉に、
「変だろう?」
私を見ながらそう言った。
「何が?」
「オレがあのぬいぐるみをベッドに置いていたら変だろう?」
我愛羅のベッドは十分に広い。
あのぬいぐるみ1つ置いたところで、なんら問題ない広さだ。
「そう?でも私しか見ないよ?」
「…あぁ、そうか。そうだったな」
私の言葉に納得したのか、呟くようにそう言った。
「だけどぬいぐるみが話し相手ってわかる」
「うん?」
「…ほら、私両親を早くに亡くしておばあちゃんだけだったから…、淋しい時はいつもうさぎのぬいぐるみが一緒だったの」
「…うさぎ…」
「うん。あれも結局どこいっちゃったのかなぁ…」
あれを買い与えてくれたのはおばあちゃんだけど、私がうさぎが特に好きだった、とかではなく理由は「女の子だからうさぎかな?」くらいの気持ちだったと思う。
私のうさぎへの思いがその程度だったからか、いつの間にかなくなったそのぬいぐるみに対しても、おばあちゃんが捨てたのかな、くらいだったけど…。
こうやって昔のぬいぐるみを今も大事に持っている我愛羅を見てると、ほんの少しだけそのうさぎの行方が気になりつつも、我愛羅の腕の中で目を閉じた。
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bkm