■ 12
「では、俺たちはこれで」
「あぁ」
翌朝、風影室に火影様が提示した文章への返答分を貰いに行った時、
「ユナ」
最初に部屋を出ようとしたシカマルに続き、退室しようと背を向けたところで風影様に声をかけられた。
「はい?」
「…まじない、よく効いた」
振り返った私を見ることなく、軽く目を伏せて風影様は言った。
後になって聞いた。
風影様が寝つけないのは、人柱力として体内に尾獣を封じられていたため。
だからこの時も、あのまじないが効いたわけがなかったと思う。
それでも風影様はそう言った。
「…また来た時に必要なら、おまじない、してさしあげます」
「あぁ、その時は頼む」
そう言われて、私が初めて砂隠れの里へ使者として訪れた任務が終わった。
…思い返せばこの後、砂隠れの里に木の葉の使者として訪れるたびに、風影様におまじないをかけていた気がする。
「…ユナ…、あのまじないをしてくれ」
だからなのか、風影様が私に言う「まじない」が何かなんて、すぐに答えに辿り着いた。
「おやすみ、我愛羅」
風影様の傍に膝をついて、顔を隠すかのように俯いている風影様の頭を、いつもそうしていたように数回撫でた。
「良い夢を、っ!?」
そう言った直後、生まれて初めて男の人に押し倒された。
「夫婦」であるならなんら不思議なことではないのだけれど、あまりに突然のことに全身が強張ったのが自分でもわかった。
だけど…。
「…」
私の胸の辺りに顔を埋めたまま、風影様は動かなかった。
それはまるで、小さい子供が母親に縋りつくような姿に思えた…。
「…」
…何か、嫌な夢でも見たんだろうか?
風影様は、尾獣に殺される恐怖で熟睡することがなかったのだとナルトから聞かされたことがあった。
長い間染みついた習慣は抜けることなく、それは暁に尾獣を抜き取られた後も続いていたようだった。
「…〜♪」
今さっき、私を押し倒したこの人が、嫌な夢を見て母親に縋りつく子供のように見えたからだろうか?
気がついたら、私が祖母に聞かされていた子守唄を歌っていた。
歌い始めた瞬間、風影様はピクリと体を強張らせたけど、
「…」
特に何をするわけでもなく、そのまま私に縋りつくように眠りについた。
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bkm