■ 11
「お前、里内を見て回るのはいいけど、面倒ごとだけは起こすなよ?起きる前にちゃんと報告すること」
「わかってる!大丈夫、少し見てくるだけだから」
あれは私がシカマルの班員として初めて砂の里に使者として来た日。
そもそも木の葉隠れの里の外に出ることも滅多になかった私は、見るもの聞くもの全てが真新しく居ても立ってもいられなかった。
だから木の葉の使者の宿としてあてがわれた部屋から出て、翌日に響かない程度に砂隠れの里を見て回ろうと思っていたわけだけど…。
「…ここも違う…」
暗がりな上、初めての土地での見慣れない建物に見事に迷子になっていた…。
こうなったらシカマルに怒られる覚悟で日が昇るのを待って、宿を探すかと思っていたところで、
「「あ、」」
本当にバッタリ、と言う言葉がぴたりとくるくらいのタイミングで風影様に出くわした。
「お前は確か昼間執務室に来た木の葉の、」
「…はい、ユナと言います」
あの一時の対面で実際に話をしていたシカマルならまだしも、後ろに控えていた私の顔まで覚えていたのか、と。
「木の葉の使者」として来たのに、
「こんな場所に何の用だ?」
「……道に迷ってしまって…」
迷子です、と言わなければいけないことに、穴を掘ってでも入りたくなったことを覚えている。
「お前1人か?」
「え?あ、はい。1度宿に着いた後、班長の許可を得て里内を見て回っていたので…」
自分でもごにょごにょと口籠って来たなと思った時、
「こっちだ」
「え?」
「………何してる?宿に連れて行ってやる」
風影様が道案内を買って出てくれた。
「す、すみません、風影様に、」
「構わん。オレもちょうど寝つけず夜風にあたりに来ていたところだ」
そう言いスタスタと先を歩く風影様の後に遅れないよう着いて行った。
「どこに行きたかったんだ?」
「はい?」
「迷っていたんだろう?…ユナと言ったか」
今現在の生活を思えばこの時よく話題を振ってもらえたよな、と思うある意味奇跡のような会話をした。
「はい、チョウジに、あ、木の葉の忍びですが彼に聞いた砂肝の美味しいお店に行こうかと思ったらどこも同じような建物に見えて辿りつけない上宿すらわからなくなって、」
「なんだ、砂肝を食いたかったのか?」
「え?ま、まぁ、美味しいと聞いていたので、」
「美味い砂肝を出す店なら知ってる。行くか?」
「え!?い、今からはちょっと…。時間的に太ると言うか、」
「あぁ…、女は大変だな」
テマリもよくそんなこと言ってる、と風影様は言った。
「…以前、風遁を使ってるテマリさんを見たことがあります。あんなに自由に風を操れる人、初めて見ました」
「テマリはうちでも一、二を争う風遁使いだからな」
そこからは、本当に取り留めない会話をポツリ、ポツリとしていた。
「あそこだ」
しばらく歩いた後で、風影様が指刺した建物は、確かに私が数時間前に出てきた宿だった。
「あ、ありがとうございました!」
風影様に別れを告げる前に、宿を出る前にシカマルから面倒ごとを起こすなと言われたのに迷子になった挙句「風影」に送ってもらったのは、彼の言う「面倒ごと」に入るんじゃないかなんてことを思っていた。
「砂肝の美味い店なら連れて行ける」
「はい?」
「次着た時は迷う前に声をかけろ」
もしかしたらそれはただの社交辞令。
自里で、他里の忍びに好き勝手歩いてほしくなかっただけ、と言う可能性も十分ある。
でもこの日初めて会話した風影様のこの言葉がとても嬉しかった(だって木の葉崩しのこともあったからかイケメンだけど、とにかく怖い人ってことで有名だったから)
「風影様、寝つけなかったんですよね?」
「…あぁ。今に始まったことじゃないが、」
「送ってくださったお礼におまじない、してあげます」
「…まじない?」
「はい。砂隠れではどうかは知りませんが…木の葉ではわりと有名なおまじないです」
私のその言葉に風影様は一瞬目を逸らし考えるような仕草をしたけど、
「ならば、頼む」
私の目を見据えてそう言った。
「じゃあ少し屈んでください」
「屈む?…こうか?」
この時私の目を見据えたのは「何かしたら殺す」と言う意味があったのか、それとも純粋に頼もうとしてのことだったのか今となってはわからないけど…。
「もう少し屈んでください」
「これくらいか?」
「もう少し」
「…おい、これで何を、っ!?」
私の要求に眉を潜めた風影様の頭に手を伸ばした。
「おやすみ我愛羅、良い夢を」
「…………」
数回、頭を撫でた後、ちょうど額の「愛」の文字がある辺りまで背伸びをして口づけた。
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bkm