■ 10
結婚式が終わって3日目の朝。
「おはようございます」
「…おはよう」
今だ「初夜」と言うものを迎えていない私たちは、本当に夫婦と言えるのだろうか?
「今日も、」
「遅くなる」
「…そうですか」
風影様の言う「遅くなる」のレベルと私が思っていた「遅くなる」のレベルが全く違うものだと知ったのは、結婚式翌日の夜。
夕飯を作ったものの、待てど暮らせど帰ってこない「夫」が帰宅したのは日付も変わった午前1時。
「待ってなくていいと言っただろう」
起きて待っていた私を待っていた言葉がそれだった…。
「…明日からは待ちません」
「あぁ、それでいい」
物心つく前に両親を亡くした私が言うのもなんだけど、世間一般の夫婦と言うのはこういうものじゃないと思う…。
でも私自体「世間一般の夫婦」を知らないで育ったものだから、なんとも言えず…。
そもそも木の葉のみんなが忙しなく奔走しているように、そういう忍びを束ねる側の「影」である風影様が忙しくないわけないのだから、これは仕方ないことだと言えば仕方ないことなのだろうけど1度空いた穴がなかなか埋まる気配すらなく…。
「…はぁ…」
もうここに来て何度目の溜め息だろうかと言う溜め息を吐いた。
この里で私にも任務させてもらえるようなことがあればまたまた話は別なんだろうけど、風影様曰く「まずは里に慣れろ」と言うことらしいので、任務すらない状態で…。
最もいきなりやってきた他里のくノ一にすぐに任務を任せられるかって言ったらそれはやっぱり出来るわけがないことなので、私がこの里に慣れることと、周囲からの信頼を得ることが先決なのだろうと思う。
「それはわかってるんだけど、さ…」
もう何度目かの、ヒナタへ向けた書きかけの手紙を破って捨てた。
「せめて友達でも出来たらなぁ…」
砂の里に使者として来てても、そういう交流はなかったし…。
唯一交流が持てそうなテマリさんは義理の姉と言う微妙な立場になってしまい、迂闊なこと言えなくなったし、そもそもテマリさん自体、砂の里にとってはなくてはならないくノ一で、忙しく飛び回ってるからそんな話出来るはずもなく…。
さすがに少し、と言うかもしかしたらかなりホームシックになってきていた。
「…ん…お水…」
3日目の夜、本人の希望通り風影様を待つことなく寝ていた私は夜中に喉の渇きに目が覚め、台所へと向かった。
その時、
「…あれ…?」
居間で寝ている風影様に気がついた。
こんなところで寝ていると風を引くと声をかけようと近づくと、
「…っ…」
どこか苦しそうに、魘されているのがわかった。
「…風影様?風影様?」
「…っ、」
「風影様!」
「!?」
「きゃあ!?」
ガバリ!と勢いよく起き上がった風影様に、
「びっ、びっくりしたぁ…」
心臓が飛び出るかと思った。
「だ、大丈夫ですか?」
「…」
飛び起きた風影様は、片手で額を抑えながら荒くなった呼吸を必死に整えているようだった。
「…ユナ…」
「はい?」
「あのまじないをしてくれ」
顔を伏せたまま、風影様は酷く弱々しく口を開いた。
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bkm