■ 9
自分の結婚式と言うものを挙げた当日の夜、新郎であるはずの風影様はさっさと自分の部屋に篭って本当に出てこなかった。
多少どころか物凄く戸惑いを隠せなかった私だったけど、長旅の疲れもあり、その日は私の部屋としてあてがわれた場所で(すでに目ぼしい家具つき)ぐっすり寝てしまった。
そして翌朝。
「おはようございます」
「…」
明日も早いと言っていた風影様に朝食を作るべくとりあえず日の出前に起きたわけだけど(起きる時間を聞いていなかったから)
日の出からしばらくしてから部屋から出てきた風影様に挨拶をしたところ、
「…あぁ、昨日から一緒に住んでたんだったな…」
少しの沈黙の後、この人も寝呆けることあるのか、と言うような返答をされた。
「すみません、ある物で作ったので口に合うかどうか…」
「わざわざすまない。大した食材なかっただろう?」
「いえ、あれだけあれば十分です」
「そうか。…あぁ、後で近辺の地図を渡す。あった方が便利だろう」
「ありがとうございます」
「………いただきます」
「あ、はい。どうぞ」
「…」
「…」
…新婚2日目と言うのは、こうじゃないんじゃないか?と言うほど淡々と朝食の時間は過ぎて行き、
「行ってくる」
「あ、帰りは何時頃になります?」
特に何も話すことなく風影様が家を出る時間になった。
「遅くなる」
…だからそれは何時なんだろう?
「待ってなくていい。適当にやっててくれ」
そう聞く間もなく、風影様は出て行った。
「…ふぅ…」
おばあちゃんが亡くなってからだから、誰かと一緒に暮らすのは3年ぶりだ。
それが全くの他人どころか、自分の「夫」というのだから世の中どうなるかわからない。
いやそもそも「夫」の定義って何?なんて考えてる時、
「ユナー!いるー?」
玄関扉を叩く音と、その音の後からいのの声が聞こえた。
「お!起きてた?新妻!夜の疲れはないのかしらー?」
あはは!なんて笑い飛ばしながら言ういのの後ろには、木の葉のみんながいた。
…夜の疲れも何も、いのが期待してるようなことなんて全くなく、別々の部屋で爆睡してたとかさすがに言えない…。
「私らこれから木の葉に向けて発つんだ」
「もう帰るの!?」
いのの言葉に、少しだけ声が裏返った。
「そりゃあ式も済んだし、里に戻った後それぞれの任務もあるしね」
そうだよなぁ、って。
今現在、大戦で亡くなった多くの忍びの穴埋めにみんなが奔走してる時だ。
本来、こんなことしてる場合じゃないはずだし…。
「我愛羅にも挨拶してから帰るつもりなんだが、アイツどこ?」
「…風影様ならもう仕事に行ったけど?」
「はっ!?もう行ったのかよ!?…真面目な奴だなぁ…」
私の言葉にシカマルがポリポリと頭を掻きながら答えた。
「めんどくせぇけど行かねぇわけにはいかねぇし、風影の執務室寄ってから帰るぞ」
「…だって!ほらナルトしっかりしなさいよっ!」
「サクラちゃん…、俺もう駄目だってばよ…。今日もう1日泊まってくから先帰って、」
「駄目に決まってるでしょ!?あんたも次の任務決まってるんでしょ!?」
「サクラちゃん叫ばないでくれってばよ…」
そう言いながらナルトは頭を抱えていた。
「…ナルト、二日酔いなんだ?」
「うん…。昨日飲み過ぎたみたい」
「サクラも薬出してあげればいいのに…」
「自業自得だからって出さないんだって…」
自然と隣に来ていたヒナタに耳打ちでもするように話していた。
「じゃ、元気でな」
「たまには木の葉に戻ってきなさいよ!」
「…手紙、書くからね」
「うん…。みんなも元気で」
手を振り去って行く仲間たちの背中を見送ったら、なんだか急に胸に穴が空いたような気分になってきた。
…みんなと別れて、これからここで暮らしていくんだと、1つ息を吐いた。
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bkm