■4
着の身着のままリヴァイさんに着いてきた私は、ハンカチなんてすっかり忘れていて。
思わず涙を拭ったのは、リヴァイさんがさっき首に巻いてくれたスカーフだった。
「気、済んだか?」
スカーフを握り締め、ふぅ、と息を吐いた私に気づいたリヴァイさんが、私の方を見て言って来た。
「あの、すみません、」
「あ?」
「…借り物なのに、涙拭ってしまって、」
スカーフを少しリヴァイさんの方に向けながら言うと、
「そんな鼻水がついたような奴いらねぇからお前が首に巻いてろ。」
暗闇の中ではっきりとは見えなかったけど、心底嫌そうな顔をされた気がした…。
「でも、」
「なんだ?」
「…数回しか歌ってないのに、よく、覚えました、よね?」
訓練兵になる前と、入団式前に歌っただけの歌なのに。
「テメェとは脳みその造りが違うんだよ。」
「…けど、」
「あ?」
「発音はめちゃくちゃです。」
リヴァイさんが口ずさんだ英語の歌は、お世辞にも綺麗な発音とは言えなかった。
「おいクソガキ。あんまり調子に乗ってると、」
「でも、感動しました。」
「…」
「…すごく、心に、響いた…。」
だけど、それは、誰が歌った歌よりも、私の心に響いた。
「リヴァイさんはやっぱり、何をしてもカッコいいですね。」
人の心に反響、共鳴するような「何か」を与えられる人に出会えたこと、その人と今こうして交流出来ている事が何より、心に響いた。
「…で?意味は?」
「え?意味?」
「あの歌、意味知らねぇって言っただろ?」
リヴァイさんはテントの方へと、向きを変え今にも歩き出そうとしていた。
振り向いたことで、それまで暗くて見えなかったリヴァイさんの顔に、野営地の焚き火の明かりが差し込んだ。
「あれは、」
「あれは?」
「…ラブソングです。とても大切な人に贈った。」
「……………」
私の言葉に、リヴァイさんは一瞬目を見開いた後、すごく…、ものすごーく嫌そうな顔をした。
「明日も早ぇんだ、さっさと寝ろ。」
「そうします。」
「記憶の中の世界」で嫌悪するほど望んでいた、あの歌詞のような「友人」に、私とリヴァイさんがなれるなんて思ってもいない。
それでもやっぱり、あの歌を、他の誰かじゃなく、リヴァイさんが歌ってくれたことが何より嬉しかった。
私を逃がそうと巨人と戦ってくれたあの人の名前はわからない。
だけど、あの人の思いも含めて、前に歩いていける。
ううん、前に進まなければいけないんだ、って。
そんな強さをもらったような…。
不思議な時間だった。
もう1度夜空を見上げるとそこには、悠然と瞬く星々が見える。
この世界はとても残酷だ。
「死」は常にそこにある、弱肉強食の世界。
一瞬の判断で生死を分かつ、とても、残酷な世界。
だけどそれ以上にこの世界は、人も、自然も、
「何してる?行くぞ。」
「はい。」
とても美しい。
fin.
bkm