ラブソングをキミに


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ラブソングをキミに


1


「フィーナはどうしてる?」
「エルヴィン…。…今日もテントの中で塞ぎこんでるよ。」
「やはりまだ早かったんじゃないか?新兵をいきなり、」
「遅かれ早かれ、いずれは壁外調査で経験すべきことだろうディータ。フィーナにはそれが『今』だっただけだ。」
「…お前はそう言うがなぁ…。」
「私が様子を見てこようかい?」
「いや、問題ない。さっきリヴァイが行くと言っていた。」
「リヴァイがねぇ…。大丈夫かなぁ…?」
「我々の中で1番フィーナを知っているのがリヴァイなんだ。今は任せるしかないだろう。」
「エルヴィン。…これでスプリンガーが潰れたらどうする気だ?」
「…フィーナが潰れたら、か。その時はその時だな。」
「お前、本気で言ってるのか?」
「あぁ。『だから』今回フィーナを同行させたんだ。」
「エルヴィンにとって、ここで潰れるようなら今後調査兵団には必要ない、ってこと?」
「否定はしない。」
「…ほんとにあなたは…。」




「あれから」6日が経過した。
あの時の巨人は、駆けつけたリヴァイさんが倒したらしい。
私はと言うとあの後気を失い、目が覚めた時には既に事が終わっていた。


「おい、フィーナ。」


目が覚めた後も遠征は続き、ただただ、その日その日をついていくのに必死だった。
正直なところ、1日1日をどう過ごしてきたかなんて、覚えていない。
私はただ、必死に「生きて」いた。
そうしているうちも、兵団は歩を進め今回の拠点となる地点に到着した。


「いつまでそうしてる気だ?」


ここに辿りつくまでに野営していた場所より、幾分気を緩めているような雰囲気のある先輩兵士たち。
中にはほんの少量だけど、お酒を飲む人までいるくらいだ。
夜は夜で談笑し、今日の成果を語る。
…もともとコミュニケーションをとることが苦手と言うのはあった。
でもそれを差し引いたとしても、その輪に入ろうという思いは、微塵もおきなかった。


「おい、返事くらいしねぇか。それともこの数日で言葉忘れたのか?」


そうやって1人テントの中で過ごす日々に痺れを切らしたらしいリヴァイさんがやってきた。
テントの入り口に背を向け、いわゆる体育座りをしていた私の背に、ドン!と、リヴァイさんの足が乗ったのがわかった。


「…痛いです。」
「喋れんじゃねぇか。ならさっさと答えろクソガキ。」


リヴァイさんは私の返事を聞いて、私の背に乗せていた足を下ろした。
そんなに強く蹴られた(と言うか足を乗せられた)わけじゃない。
だけどそこからジンジンと鈍い「痛み」が広がっていった気がした…。


「いつまでもそうやって悲しんでても仕方ねぇだろ?」
「…悲しい、の、かな…?」


背中に投げかけられるリヴァイさんの言葉に、まるで独り言でも言うかのように、本音が漏れた。


「どういう意味だ?」
「…」
「おい、フィーナ。」
「涙が、」
「あ?」
「…涙が、出ないんです。」


−スプリンガー、何してるっ!!早く逃げろっ!!!−


そう言って私と巨人の間に入ってきたあの人は、顔を見たことはあっても、名前も知らない人だった。


「もし…、」
「なんだ?」
「…もし、『あの時』私が『ちゃんと』逃げれていたら、名前も知らないあの人は、犠牲にならずに、済んだんでしょうか?」
「…」
「もし、『あの時』私が『ちゃんと』戦えていたら、あの人は無事だったんでしょうか?」
「…」
「もし、あの時『私が』ちゃんと巨人の存在に気づいていたら、こうは、ならなかったんでしょうか?」
「…くだらねぇ。」


私の言葉に小さく舌打ちをしながらリヴァイさんが答えた。


「過ぎ去ったことに対して『たられば』をし始めりゃキリがねぇだろ。巨人は現れ、アーダルベルトは捕食された。それはもう変わらねぇ事実だ。認めて前を見ろ。」


リヴァイさんの言うことは、正論だと思う。
起こってしまった事実は変わらない。
…だけど、ううん、


「だったら、」
「あ?」


だからこそ…。


「『だったら』なんだ?」
「…だったら、どうして誰もっ、…私を、責めないんですかっ…?」


名前も知らないあの人が、目の前で捕食されたことが、悲しくないわけじゃない。
でもそれ以上に、名前すら知らないでいる私なんかのせいで死んでしまったあの人の命に対して、どうして誰も責めてくれないのか…。
…いっそ、責められた方が、楽なのに…。


「…バカかお前?」


背を向けていて顔が見えないはずのリヴァイさんが、すごく呆れた顔をしているのだけは、感じ取れた。

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bkm

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