ラブソングをキミに


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美しく残酷な世界


4


初めての壁外遠征2日目の朝。
今日は少し長距離を移動し、今回の拠点を目指す。
夜間、巨人の活動が鈍るとは言え、見張りは必須なわけで。
昨夜の見張り当番だったリヴァイさんがいつにも増して不機嫌そうな顔をしていた。


「エルヴィン。」
「どうした?ミケ。」
「…微かだが巨人の臭いがする。」


じゃあ移動準備を、と言った時、ミケさんがエルヴィンさんの傍に来た。


「そうか…。フィーナ、キミには何か聞こえるかい?」


ミケさんて巨人の臭いを嗅ぎ分けられるんだ…、なんて思っていたらエルヴィンさんが私を見て話を振ってきた。
「今」はそれらしい音が聞こえないため、首を横に振った。


「…ならば風に乗ってきた、かな?」
「今の風向きは、」
「東南東です。」
「「え?」」
「東南東から、微かですが、風が吹く音が聞こえます。」
「「…」」


エルヴィンさんとミケさんは私を一瞥した後、可笑しそうに口角を上げた。


「実に良い兵士に巡り会えたものだ。」
「お前は有能だな。」


エルヴィンさんに肩を叩かれ、ミケさんに頭をぽんぽん、と撫でられ言われた言葉に、どう返したらいいのかわからず、曖昧に笑った。
団長から本日の進攻の確認が行われた後、全班拠点に向けて動き出した。
団長の話によると遠征初日、犠牲者、負傷者ともにゼロだったそうだ。
…私も兵士になるための訓練をしていたのだから「負傷者」と言うのは日常的な言葉と化していたけど、「犠牲者」と言う言葉にはやっぱりどこか、違和感を覚える。
そしてそのまま、馬の歩を進めていた時、


「今日はここで昼食だ。」


「腹が減っては戦が出来ぬ」とあるように、一旦馬を止めて昼食をとることになった。
各拠点までは、どこなら昼食がとれそうか、とか、どこならテントが張れそうか、とか。
そう言うのは確認済みなわけで。
壁外にいる以上、全くの「安全地帯」ではないけどあまり巨人と遭遇しない場所を指定されていた。


「フィーナ!どうだい?初の長距離移動!」


常に誰かと行動を共にすることと言い渡されていた私の今日のお昼の…、つまりは私の監視役はハンジさんのようだった。


「まだ、壁外にいる実感が湧きません…。」
「そうだねぇ、今回は巨人にあんまり会わないよね!」


この季節巨人は活動しないのかな?なんて笑うハンジさんの横を、気持ちいい風が通り抜けた。
その光景があまりにも自然で…。
確かに「この世界」には人の形をした「巨人」と言うものは存在している。
だけど、それだけなんじゃないかって。
別にその「巨人」は人を襲ったり、ましてや捕食したりなんて、しないんじゃないか、って。
そんなことすら思っていた。
直後、


「ぎゃあああああああっ!!!!?」


尋常ではない、人の叫び声があたりに響いた。


「巨人かっ!?」


リヴァイさんが前に言っていた。
「巨人」となると見境なく駆け寄り任務放棄寸前までいくのはハンジさんの悪い癖だって。
それを初めて、目の当たりにした気がした。
ハンジさんは声が聞こえた方へとわき目も振らず駆け出した。
…一応、その後をついていった方がいいんだよ、ね…?
ハンジさんが駆けていった方へと行こうとした瞬間、


ドガァァァァァ


「何か」を叩きつけるような音が、ハンジさんが向かった方とは逆の、私のすぐ後ろから響いた。
振り返るとそこには、今まで寝ていたのか横になったままのこちらを見ている、大きな目。
そして、可笑しそうにニタァと笑う、「人の形」をした「何か」がいた。


「…っ、」


巨人は見たことはあった。
今回の遠征で遠くの方にいる巨人や、シガンシナの壁の上から見た巨人を。
だけど、こんなに間近で見たのは初めてで。
足が竦むとか、そんな言葉があるけど、それ以前に「自分の足がどこにあるか」なんてことすらわからないくらい頭の中が一瞬で真っ白になった。


「スプリンガー、何してるっ!!早く逃げろっ!!!」


その声にハッとするものの、やっぱり足は動かなくて。
そこから先は、目の前の光景が、いやにスローモーションに感じた。
立体機動のワイヤーが2本、巨人の方向に伸びる。
そのワイヤーの主が、巨人に刃を向けながら飛び掛る。
2回、巨人に向けて斬りつけたのが見えた。
直後、


「う、ぐっ、がぁっ!!!!?」


巨人に捕獲され、


「ぎゃあああああああっ!!!!!?」


ボキッ、と、人体の構造上、あり得ない方向へと曲げられた。
その時、私の顔に生温かい「何か」がぺちゃり、と着いたのがわかった。
右手でそれに触り見てみると、赤く赤い…、今、目の前で体をへし折られ千切られた兵士の血だった。


「…っ、あ、あ、あ、」
「フィーナ!何してる!!ボサッとしてんじゃ、」
「っ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


グィッ、と引っ張られるような感覚の後リヴァイさんの声を聞いた気がした。

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bkm

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