ラブソングをキミに


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美しく残酷な世界


3


「調査兵団だ!」
「エレン、あんまり前に出たら危ない。」


初めての壁外遠征当日。
シガンシナ区の門に向かう途中で、コニーくらいの歳の3人組に出逢った。


「お姉さんも壁外に行くの!?」
「エレン、下がって。」


エレン、と呼ばれた子はすっごくきらきらした瞳で私を見てきた。
その隣にいる赤いマフラーの子は騎乗している私に近づきすぎたら危ない、ってエレンを嗜めていた。
もう1人の子は分厚い本を大事そうに抱えている、金髪の子だった。
馬の歩を緩め、その子たちに合わせゆっくりと前進した。


「お姉さん、お姉さん!壁外には炎の水や氷の大地、砂の雪原があるってほんと!?」


エレンはきらきらした瞳で聞いてきた。
…炎の水?
って、溶岩、か、何か?
氷の大地、ってのは、北極…?
砂の雪原、は、砂漠、だよ、ね…たぶん。
私が「記憶の中」にある世界で知りえていたことを頭の中で駆け巡らせていた時、エレンがまた口を開いた。


「お姉さん、見たことある!?」


「記憶の中の世界」で映像では見たことはあった。
でも本物はない。
どう言おうか、誤魔化そうか。
決めていたわけじゃないけど、1度大きく息を吸った時、


「フィーナ、止まるな。行け。」


いつの間に私の後ろにいたのか、リヴァイさんに声をかけられた。
それに対して軽く頷いてから、再びエレンを見た。


「見たら教えてあげるね。」
「…っ!約束だぜ!!」


興奮した顔で手を振ってくれたエレンに、ラガコ村にいるコニーが重なった。


「団長!周囲の巨人、一掃しました!」


その時、私たちが進攻するにあたり壁門近くにいる巨人を一掃したという報告が入った。


「よし…。これより壁外調査に入る!全班進めっ!!」


キース団長の号令の下、一斉に馬が駆け出す。
暗くぶ厚い門をくぐり抜けるとそこには、


「…」


際限なく広がる大地が存在した。


「フィーナ。ではわかっているね?」
「…はい。」


ここ数日で今回の陣形の説明や壁外においての行動についての指導を受けた。
新兵である私は、…ようするに常に誰かと行動を共にすること、と言う内容で。
主に私の班の班長であるエルヴィンさんと、なんだろうけど、その確認、とでも言うかのように、エルヴィンさんが私に言ってきた。


「全班、予定通り拠点Bへと向かう!前進っ!!」


少しずつ、少しずつ、活動領域を広げようと、調査兵団は壁外にいくつかの拠点を置いているそうだ。
最もまだそこまで壁から離れていないらしいけど…。
今回は2番目に作られた拠点Bに約1週間かけて向かう。
そのための一歩を踏み出した。
…本当は、「巨人の音」を聞き分けられるのか、不安で仕方ない。
これだけの馬の数に紛れて、聞こえないんじゃないか、って。
そうしたら私は、ただの役立たずでしか、ないんじゃないか、って…。
ここ数日、ずっと思っていた。
…だけど。


「左、」
「え?」
「…左の、あっちの方から蹄の音とは違う音が聞こえます!…でも、近づいて、来ない…?」
「南西方向、巨人がいないか確認しろっ!」
「はいっ!!」


私の言葉に、エルヴィンさんが他の兵士に命令を下す。
その兵士が隊列を離れて、馬を飛ばした。
数分後、


「報告します!南南西の方角に7メートル級1体目視っ!我々に興味を示さず恐らく奇行種かと思われますっ!!」


その声が辺りに響いた。


「十分だ。」


その声に振り返ると、エルヴィンさんが今まで壁内で見てきたどの笑顔とも違う顔で笑っていた。


「フィーナ。キミはそのまま異変を感じたら都度報告すること。」
「はい!」


エルヴィンさんやリヴァイさんが言ったように、私は恐らく本当に「安全な位置」にいるんだろうと思う。
巨人の「音」は聞こえても、そこまで間近に巨人と遭遇することがなかった。
初日だから、いきなりの長距離移動ではなく、「慣らし」として今日は壁にごく近い位置にテントを張ることになった。
だからなのか、この日私は取り立てて巨人の脅威に晒されることなどなかった。
ここが本当に「人を捕食する巨人」のいる、壁外なのかと思うほどに。
…その油断が余計に、この世界は残酷なのだと、痛いほどに感じることになるだなんて、この日の私は思いもしなかった。

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bkm

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