ラブソングをキミに


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美しく残酷な世界


1


「お前たちの入団を歓迎する。」


あの後、リヴァイさんが「で?お前いつまで歌ってる気だ?」って言うまで歌い続けた(と言うか歌い続けさせられた)私。
その間実に5回はリピートした気がする…。
…あぁいう場合は「もう止めていいですか?」って言えばいいのかな…?
そんな勇気ないけど…。
そして夜が明けた今日、調査兵団の入団式が始まった。
キース・シャーディス団長の挨拶と、今後の簡単な説明。
…そして驚くべきことにエルヴィンさんが調査兵団の副団長だったんだと、今になって初めて知った私…。
そりゃあそれだけ有名人で権力者の人に目をかけられてると思われたなら「エルヴィン・スミスの子飼い」と言われるよな…、とか。
あの時わからなかったことが、今になってわかった気がした。
でもリヴァイさんはもちろん、ハンジさんもそれならそうって、教えてくれたらいいのに…。
なんて思いながら入団式に臨んでいた。


「新兵はこれから2ヶ月かけて各々の基礎能力を見せてもらい、その後どの班に配属されるか発表する。では全員こちらに移動し、」


新兵への説明をしてくれている人が、一旦全員を今の場所から動かそうとしたので後について行こうとすると、


「おいフィーナ。」


リヴァイさんに呼び止めたられた。


「どこに行く気だ?」
「…新兵はこっちに、って、」
「俺の話を聞いてなかったのか、バカが。お前はエルヴィンの班に配属が決まっていると言ったじゃねぇか。」
「…それは聞きました、けど…、」
「じゃあなんで班決めの訓練に出ようとしてんだ?」


…そんなこと言われても「新兵はこっち」って言われたらついて行ってしまうものじゃないですか…?
なら初めから言っててくれれば、なんて言い返せないですけどね、えぇ、言い返せないですけど。


「エルヴィン!」


その時リヴァイさんがエルヴィンさんを呼びつけた。


「後は任せた。」
「あぁ。…フィーナ、改めてキミの入団を心より歓迎する。これからよろしく頼む。」
「は、はい!よろしくお願いします、副団長…!」


入団手続きをした先日も挨拶したけど、もう1度、深々とエルヴィンさんに頭を下げた。
…ら、一瞬目を見開かれた後、困った顔をされた。


「あぁ、うん、まぁ副団長なのは確かなんだが…。」
「は、い?」
「今まで通り名前で呼んでくれて構わないんだよ?」
「…え?」


エルヴィンさんは穏やかに笑いながら言った。
…え、で、でも、さっき団長のことは団長と呼ぶようにって言ってた人いたよね?
団長を団長って呼ぶなら、副団長も副団長って呼ばなきゃいけないんじゃ、


「フィーナ。」


なんて私がぐるぐる考えていたら、リヴァイさんに声をかけられた。


「上官命令だ。名前で呼べ。」
「えっ!?」
「あ、は、はい。じゃあ、エルヴィン、さん…。」
「あ、あぁ…。いやだが別に命令と言うわけじゃ…、」


エルヴィンさんが困ったように笑っていた。
その後リヴァイさんと別れ、エルヴィンさんに団長に紹介すると言われ2人でキース団長の下へと向かった。


「…しかし、3年前からは想像がつかなかったな。」


その途中、エルヴィンさんが呟くように言った。
背の高いエルヴィンさんを見上げると、また穏やかに笑っていた。


「キミと初めて会ったとき、確かにうちに入団してくれればと思ったけど、まさか本当に訓練兵としての期間を経てうちに来てくれるとは、3年前は思いもしなかった。」


正直途中で挫折するんじゃないかと思った、とエルヴィンさんは言った。


「…訓練、は、」
「うん?」
「訓練兵団の訓練は、確かに大変でしたけど、それより…、」
「それより?」
「…リヴァイさんの訓練の方が大変だったから…。」
「あぁ…。」


エルヴィンさんは、とても穏やかな人だと思う。
私の言葉にまた、柔らかく笑った。


「でもそれを何1つ不信に思うことなく乗り切ったキミだからこそ、リヴァイは信用してるんだろうね。」


その言葉に、ピクッと体が反応した。
…リヴァイさんが私を「信用」してる?
私はただ、与えられたことをクリアすることで精一杯で、不信に思うとか、そういうところまで行き着いていなかっただけ。
それに対して「信用している」と言うのはちょっと違うんじゃ…。


「団長、少しいいですか?」


うーん、と1人考えていたら目的の人物、キース団長を見つけ、エルヴィンさんが声をかけた。


「どうした、エルヴィン。」
「団長にも以前話したかと思いますが、彼女が先日訓練兵団の訓練を修了し私の班に入るフィーナ・スプリンガーです。」


エルヴィンさんが「彼女」と言いながら私の背を団長の方へと軽く押した。
それを受け、軽く頭を下げながら、


「よ、よろしくお願いします…。」


と、キース団長に挨拶した。


「…フィーナ・スプリンガー。」
「は、はい!」
「お前は何だ?」
「え?」


団長は私をジロリと見つめると、唐突に言葉を投げつけた。
…「私は何だ」?って、なに…?
え、どういう、


「痛いっ!!?」


私が考えだすと、突然団長は私の胸倉を掴んで頭突きをしてきた。


「お前は『兵士』だ!兵士が上官と言葉を交わす時は敬礼が基本だろうがっ!!」
「…す、すみま、」
「返事は『はい』だっ!!!」
「は、はいっ…!」


キース団長に胸倉を掴まれたまま敬礼をした私に、手荒い入団式だ、とエルヴィンさんが呟いたのが聞こえた。

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bkm

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