ラブソングをキミに


≫Clap ≫Top

卒業、そして


1


短いようであっという間の訓練期間は過ぎ…。


「明日で最後だね。」


私たちも訓練兵としての期間を修了することになった。


「リコちゃんは、」
「うん?」
「…ほんとに駐屯兵団に行くの?」


最後の成績発表時、私は確かに立体機動の訓練では3年間トップを譲らなかったけど、本当に「立体機動の訓練」だけで、後はまぁ…リヴァイさん風に言うなら「中の中の下」くらいの成績で、トータル的に見ても「中の上の下」くらいで卒業する。
でもリコちゃんは違う。
訓練兵として入ってきた時からそうだったように、最後まで優秀な成績を収め、見事トップ10入りを果たした。


「そう言っただろ?」
「…そうだけど、さ…。」


トップ10入り、つまり内地…ウォール・シーナを守る憲兵団に入団できる権利を得たということ。


「なに?意外?」
「意外、と言うか…勿体無い?」


憲兵団は、コニーが入りたいと言っていたほど「憧れ」の兵団…だと思う。
そこに入る権利が与えられたのに…。


「別に私は勿体無いとは思わない。かといって調査兵団に入るほど酔狂じゃないんでね。だから駐屯兵団にするんだよ。」


そう言って笑うリコちゃん。
こうやって毎夜話していられるのも、今日が最後。
80年と言う長い人生の中で(この世界の寿命はわからないけど…)たった3年しか一緒に過ごさなかった人。
だけど、3年間毎日、一緒に過ごした人。
その人とお別れするのは、やっぱり、寂しい…。
そこまで考えてハッとした。
誰かと離れることが寂しいって思えるほどのつきあいが出来ていた、ってことが、自分でも驚きだった。


「明日、みんなで打ち上げだって?」
「…うん、そうみたいだね。」


私がリコちゃんとの別れを惜しむように、他の訓練兵同士も同じ思いなようで、例年通り訓練兵団修了式の後、みんなでパーティをするんだそうだ。
ちなみにこの世界は私の「記憶の中」の世界よりちょっぴり早く18歳で成人を迎えるらしく、15歳から訓練兵として訓練していた私は無事、この修了式後のパーティでお酒が飲めることとなった。
人類が壁内に逃げてから続く平和に、今現在「職業兵士」として望むものは早い話、就職難で他の職に就けなかったからって理由の者たちが多く、訓練兵志願資格は12歳からだけど、それよりももう少し大人になってから志願し、訓練兵修了時には成人している者も当然いた。
例に漏れずリコちゃんも、私と同じ15歳で志願し、18歳になった今、訓練兵を卒業する。
寂しくないなんて、言えないけど。
でもリコちゃんとお酒が飲めるのは、ちょっと楽しみだった。


「以上で訓練兵団の全工程を修了する!」


教官のその言葉に、わーっと、辺りが沸き立つ。
訓練兵はこの後1週間の猶予が与えられる。
1週間後、各々の希望する場所へ入団することになる。
…そうなる前に1度ラガコ村に帰ろう、と思っていた。
ママにも入団する前に1度戻るように言われたし。
そう思っていた私の目の前に、


「終わったか。」


リヴァイさんが現れた。
…この世界には携帯電話と言うものがない。
だからこういうアポなし突撃はわりと普通だ。
そしてこの人のこういう行動はこの3年間でだいぶ慣れたと自分でも思う。
…………だけどまさか訓練修了のその日に現れるなんて思いもしなかった…!!


「終わったなら行くぞ。」


リヴァイさんは、全身でぐずぐずするなオーラを出しながら言う。
…………………え?


「い、行くって、どこに、です、か?」
「うちの宿舎だ。」
「……え!?」
「お前の部屋は用意してある。後は荷物を運ぶだけだ。」


荷物を運ぶだけ、って…。


「ち、ちょっと待ってください…!」
「あ?」


3年間、休暇の時に無理矢理予定をねじ込まれ特訓させられていたから、今さらこの人のこの言葉遣いは驚かないけど。
でもこうも眉間にしわを寄せてどすの利いた声で言われると今だひるんでしまう…。


「なんだ?」
「…わ、私、このあとパーティが、」
「出る価値なんかねぇから行くぞ。」


…なんであなたがそれを決めるんですか…?


「で、でもママに一旦村に帰るって、」
「入団手続きをしてからにしろ。」
「………え?」


それまで私たちの動向を見守っていたリコちゃんの方を見ながら、リヴァイさんは口を開いた。


「そこの『お友達』に情が移って気が変わられても困んだよ。」


リヴァイさんは訓練兵1年目の、私が字が読めないことを報せた走り書きを読んで以来、リコちゃんを、…なんと言うかマークしてるとでも言うか、注意を払ってみていたような節があった。
それはリコちゃんの優秀さに目がいき、調査兵団に勧誘するためだとばかり思っていた…。


「卒業後の意識調査の報告を見たのか…。」


リコちゃんがボソッと呟いた。
…あぁ、だからか…。
以前、教官にどの兵団に入団希望か聞かれたことがあった。
その報告が、リヴァイさんにいったんだ…。


「私、調査兵団以外に入るつもりありませんよ?」
「当然だ。」


何言ってやがる、くらいなリヴァイさんに、隣のリコちゃんが苦笑いしたのがわかった。


「いっておいで。」
「…」
「別にこれが最後じゃないだろ?…フィーナが壁外で食われなかったら、の話だけど。」
「…そんなに簡単に食べられないよ。」
「そう?じゃあまた会えるな。」
「…『また』ね。」
「あぁ。『また』な。」


私とリコちゃんは、どちらからともなくハグをした。
毎夜お喋りを楽しんでいた訓練兵時代。
「また」その時のようにいつでも戻れるんだと思っていた。
「記憶の中」の世界の、学校のような…、ううん、「あの頃」の学校の友人と呼べるのかもわからない人たちよりもずっと密度の濃い時間を過ごしてきた人と笑い合っていた日々は、これからも普通に続いていくんだと思っていた。
この時の私たちの会話を、リヴァイさんがどう思って聞いていたのかはわからない。
ただ後になって私が知ったこと。
それは、この世界はあまりにも残酷だということだった。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -