ラブソングをキミに


≫Clap ≫Top

訓練兵としての一歩


7


「ねぇちゃんへ。てがみ、よんだぜ!おれ、は、い、ま…、この先が読めない…。」


調査兵団が壁外調査に出てから少し。
やっぱりリヴァイさんは考えてくれてたんだなぁ、と思ったのは、例え添削だったとしても、返事をくれる人がいるから、字を覚えよう、頑張って書こう、って気になるんであって、そういう人がいなかったら一気にやる気と言うものがなくなるんだって知ってたんだろうな、って。
今になってそれに気づいた私は、改めてリヴァイさんに感謝した。
リコちゃんは返事をくれる、と言うか「ここが間違ってる」とか「この書き方はおかしい」とかだけで、手紙をくれるわけじゃない。
同じ部屋に住んでるんだから当たり前なんだけどね…。
だから、誰か返事をくれそうな人に手紙を書こう、と思いついたわけだけど、実際問題、ここで私に「返事をくれそうな」知り合いと言うのは、ラガコ村にいるコニーたちくらいで。
だから近況報告も兼ねて初めて手紙を出したところ、返事が着たんだけど…。


「うっわぁ…。お前の弟、頭悪そうな字書くな。」


歯に衣着せないリコちゃん風に言うなら「頭悪そうな字」をでかでかとしかも自由に書いたコニーの手紙は、言語覚えたての私にはとても難易度の高いものとなった…。


「なん、か、」
「うん?」
「…リヴァイさんが、いかに綺麗な字を書いていてくれたのか身にしみて感じる…。」


リヴァイさんの添削含む壁外調査前の短い文も、知らない単語で読めないことはあっても、文字自体が読めない、って言うことはなかった。


「だから言っただろ?」
「え?」
「神経質そうな字だ、って!」


そう言ってリコちゃんは笑った。
…あぁ、そうか。
ようやくあの時の意味がわかった気がした…。


「調査兵団て、」
「うん?」
「壁外遠征に出たら、どのくらい行ってるものなの?」


リヴァイさんとは結局、手紙、と言うか私の1日の出来事を報告し、それを添削されると言うやり取りだけで、調査兵団のそういう話は全くしたことがなかった。


「そうだな…。その時その時の作戦内容によるだろうが、最短でも10日、長いと1ヶ月から1ヶ月半くらいは行ってるな。」


長いと1ヶ月半も…。
たとえ添削とは言え、毎日続いていたものが無くなるのは、やっぱり少し…。


「でも多分、そろそろ帰って来るんじゃないか?」
「…なんでそう思うの?」
「最近、シガンシナへの壁の辺りを行き来してる兵士が増えただろ。」
「…それがなに?」
「実行部隊が帰還したときに速やかに開門、そして負傷者を搬送するため壁内に残っている調査兵団の兵士をシガンシナに常駐しはじめたってことだ。」


…なるほど。
言われて見たら、最近よく駐屯兵団ではなく、調査兵団の服を着ている兵士を目撃する。
そろそろ帰還するから、なのか…。


「いたっ!?」


リコちゃんが言ったことを、頭の中で反復していたら、パチンとデコピンされた。


「な、なに…?」
「べっつにー?」


にやっと笑ったリコちゃんを、デコピンされたところを押さえながら見ていた。


「あのチビも驚くんじゃないか?」
「え?」
「立体機動を使った訓練、フィーナがトップだって報告を受けたら!」


調査兵団が壁外調査に出てから、立体機動を使った訓練での初のテストが行われた。
リヴァイさんの鬼特訓が功を奏し、私が初めて「トップ」と言うものに輝いた。


「…でも、」
「うん?」
「…リヴァイさんなら『当然だ』くらい言いそう…。」
「あぁ…。」


リヴァイさん仕込みの立体機動操作をする私。
そのリヴァイさん自身は、『兵士の中で最も強い男』なんて言われている。
でも冷静に考えたら、現役兵士以上に強い人なんているの?って思うわけで。
じゃあリヴァイさんいっそ壁内の人類最強じゃない、って思う私は、その最強の人に『俺が教えてやったのにくだらない成績残すな』と言われているわけで。
とりあえずたった1つでも誇れる成績になりそうでホッと胸を撫で下ろしていた。
それから数日後、


「今外にいた奴らが騒いでたけど、調査兵団が帰還したらしいぞ。」


ウォール・マリアにいる私たちのところにも、壁外調査へ出ていた調査兵団がシガンシナ区に着いたと言う報せが入ってきた。
訓練兵の中でも既に調査兵団に入団を希望している者もいるから、尚のこと、その情報は早く広がったんだと思う。


「行かないのか?」
「…どこに?」
「報告書!届けにあのチビのところに。」
「あぁ…。」


毎日報告書と言う名の私の手紙を受け取りに着ていた人も、壁外遠征が始まったら、当然ながら来なくなった。
だから約3週間分、手紙が溜まっていた。
明日、の、朝、また取りに来るとも限らない、しな…。


「行って、来よう、か、な…?」
「今日の訓練はもう終わったし、そうしたらどうだ?ここにも報せが届いたってことは、本隊がシガンシナを出るのも時間の問題だろ。」
「…そう、だね。うん、行ってくる。」


リコちゃんに言われて、部屋に戻って書き溜めていた手紙をまとめた。
たかが3週間、されど3週間。
わりと分厚い量になった。
別に返事と言う名の添削を望んでいるわけじゃない。
そういうことを望んでいるわけじゃない、けど…。
どうしてこんなに、心がそわそわと、しているんだろう…。


「じ、じゃあ、ちょっと行ってきます。」


リコちゃんにそう言って、宿舎を後にした。
調査兵団が帰還したら、やっぱり調査兵団宿舎に向かうんじゃないかな、と思った私は、とりあえず訓練兵の宿舎を出て調査兵団宿舎に向かうことにした。
馬、は、正直まだ乗りなれない。
リヴァイさんの鬼特訓の中の1つに組み込まれていたから乗れるようになったはなったけど、なんて言うか…、股ズレをおこして痛くて乗りたくないと言うか…。
それは下手だから痛いのかなんてさすがに男の人に聞けるわけもなく、鬼特訓の時は痛みを堪えて黙っていたけど、リコちゃんに聞いたら、鞍を柔らかいのに替えるとかでも変わるって教えてもらえて、少しはマシになったけど…。
でもあの日、シガンシナ区の壁の上まで連れて行かれた日、リヴァイさんやハンジさんが乗っていたようには、まだまだ乗れなかった。
…私にとってはむしろ、立体機動よりも乗馬の方が由々しき問題な気がしてならない。
そんなこと考えながら、調査兵団宿舎に向かう途中の、シガンシナと隣接している街で、


「調査兵団だー!」


調査兵団に会うことが出来た。
声がした方に目を向けると、黙々と進む調査兵団(の、一部)がいた。
騎乗したままそちらを見ていると、馬に乗ったまま進むエルヴィンさんの姿が見えた。
私まで騎乗していたらちょっとまずいかなぁ、と思って、なんとなく、馬から下りて、人込みから少し離れた場所で待っていたら、


「…」


エルヴィンさんの少し後ろを馬に乗って進んでいた、相変わらずな目つき顔つきのリヴァイさんを見つけた。
リヴァイさんも私に気づいたらしく、目が合った。
…えぇーっと、いきなり「これいつもの報告書(と言う名の手紙)です」って渡すのも失礼、だよ、ね?
こういう言い方が正しいのかこの場合ちょっとわからないけど、でもやっぱり「外から帰ってきた」んだから、


「お、おかえりなさい…?」


お帰り、と、言ってみた。
その言葉にリヴァイさんは一瞬、目を見開いた。
…あぁ、やっぱり遊んで帰ってきたわけじゃないから「おかえり」じゃなかったのかも…!
「ご無事のご帰還おめでとうございます」ってさっきあっちの通りで言ってた人がいたけど、その言葉のチョイスが正しかったのかもしれない…!
でももう言ったことを訂正できないないし!
なんて思っていた時、


「あぁ…。今帰った。」


リヴァイさんから返事が降って来た。
たった一言のその言葉に、どこかホッとした自分がいた。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -