ラブソングをキミに


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訓練兵としての一歩


6


「今日から本格的な立体機動の操作に移る。」


リヴァイさんと毎日報告書と言う名の手紙のやり取りをするようになってしばらく。
かなり時間がかかるけど、難しいことじゃなければ、この世界の言語もわりと読めるようになってきた。
それと言うのも、リヴァイさんの「あいうえお」を飛ばしていきなり文章で覚えさせよう作戦が功を奏したからな気がする。
授業で使う単語はだいたいが同じ。
「兵士」や「巨人討伐」の時に使用する単語がほぼ同じだからなんだと思う。
だから文章自体を覚えるのは、意外にも簡単なように思えた。


「…立体機動はお前がトップだな。」


そしてこの世界の「兵士」の特徴の1つ。
「立体機動」と言う装置を使って、自在に動き回る術を身に着けること。
この立体機動を習得するのに3年かかるから、訓練兵は3年と言う期間で訓練を行うと決まっていた。
…そんなこと全く知らなかった私は、


「で、出来ませ」
「口答えは1周だったな?」
「…」
「何も難しいこと言ってねぇよな?ただここのレバーをこうして…、」
「そんな簡単に言われても、」
「とにかくやってみろ。」
「…えいっ!え!?き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
「煩ぇ!!」
「…ハァ、ハァッ…!」
「おい、」
「は、はい…?」
「騒いだ罰だ。1周追加しとけ。」
「…………………」


わずか1ヶ月半の鬼特訓で、なんとか困らない程度には立体機動を使いこなせるくらいにはなっていた、と言うか、させられていた。


「フィーナは小さいし軽いから、立体機動を扱わせたら同期で右に出るものがいないね。」


リコちゃんが珍しく私を褒める。
確かに風の様に舞う装置を前に、この体格はすごく有利だと言える。
だけど、さすがに私が1番だなんて思うほどうぬぼれてはいない。


「他にも上手いコ、いるよ?」
「謙遜もしすぎると嫌味にしか聞こえないんだよ。褒め言葉として素直に受け取っておきな。」


そう言ってリコちゃんは笑った。


「あれ?何か書いてある…。」


それからしばらくして、日課となった手紙にいつもとは違う(添削とは違う)文章があるのに気づいた。


「間、もなく、か、壁…?リ、リコちゃん、ごめん、」
「うん?」
「これ、なんて読むの?」
「えぇーっと…、『間もなく壁外遠征が始まる。その間報告書は読めないが、書くことは続けろ。帰還後書いていないことが発覚したら削ぐ。以上』」


それは調査兵団の本来の仕事、壁外調査の知らせだった。


「…削ぐ!?削ぐってどういうこと!?」
「まぁ…、高圧的なこの文面からだと、良い意味ではないことは確かだよな。」


リコちゃんは冷静に言った。
…削ぐってなに!
今私が文字を読み書き出来るのは確かにリヴァイさんのおかげだけど削ぐって…!
私、巨人と同じ扱いされてるんじゃ…!?


「てゆうか…、」


私がぐるぐると1人考えていたらリコちゃんが再び口を開いた。


「あのチビ、見た目によらず面倒見いいよな?」


リコちゃんはリヴァイさんが書いた文字を見ながら言った。


「なんというか…、もっと冷徹な男かと思っていた。」
「あー…、まぁ見た目と言うか雰囲気はそうかもしれない、かなぁ。」
「だろう?下の面倒なんか見なそうと言うか…。」
「…でも、」
「うん?」
「リヴァイさん、良い上司になるタイプだと思う。」


リコちゃんの言う通り、リヴァイさんは見た目がアレだから、人をあまり寄せ付けない。
だけど、1度面倒を見る、と責任を持ったことに対しては、しっかりと最後までその責務を果たす。と、思う。
そこまでの経緯はちょっと(というかかなり)極端な気もするけど…。
でもリヴァイさんは、そういう責任感のある人。だと、思う。


「良い上司になるかどうかは、私にはわからないけど、」
「うん?」
「神経質で煩い上司になることだけは確かだな。」
「…どうして?」
「この字見てわかるだろ!神経質そうな書き方だろ?」


私が知っている文字は教科書の文字、黒板に書く教官の文字、私に字を教えてくれるリコちゃんの文字、そして手紙をくれるリヴァイさんの文字だけ。
だからリヴァイさんが「神経質そう」な文字なのかはわからない。
だけど…、


「リヴァイさん、確かに神経質だよ。」
「え?」
「なんて言うか…、綺麗好き?それもすごく。」


リヴァイさんのあの綺麗好きなところは「綺麗好き」を通り越して「神経質」さが垣間見える気がした。


「へぇ…。そういうの、兵士になるような男は気にしなさそうなイメージあるんだけどな。」
「うん、私も…。でもあんな綺麗好きな男の人初めて見た。」


私の「記憶の中」にあるパパ、そしてラガコ村にいるパパは、別に汚い人ではなかったけど、リヴァイさんのあれを見たら「汚い」に部類されてしまうのかもしれない、って思った。
その後も少しだけ、リコちゃんとリヴァイさんについて話していた。


「ふぅん…。」
「…ふぅん、て、何?」


ひとしきり話た後で、リコちゃんが口の端を持ち上げて笑った。


「お前、あんまり人に興味無さそうなのに、あの男のことしっかり見てるじゃないか。」


例えるなら「にやにや」と笑いながら言うリコちゃん。
…しっかり見てるもなにもだって、


「リヴァイさんと1ヵ月半も2人きりで特訓してたら他に見るものないし。」


少しでもリヴァイさんのように立体機動を扱えるようにならなきゃ、とかで、すっごい見てたのは事実だし。
なんて思う私に、リコちゃんは「ま、確かにな」と小さく笑った。


「それに私、別に人に興味ないわけじゃ、」
「そうか?でもお前、あんまり人といても笑わないじゃないか。」


リコちゃんが目を細めて私を見る。


「…そう、か、な?」
「と、思うけど?あの男と2人で並んでいたら、何の喧嘩だと思うほど、2人とも笑わないだろ。」


…確かにリヴァイさんは笑わない。
と言うかリヴァイさんが声を出して笑うようなことがあったら、逆にどうしちゃったのかと心配になると思うほど笑わない。
だからって私も笑わないわけじゃ、ない。
リヴァイさんと違って、おもしろいと思ったら笑う。
…いや、リヴァイさんも私が知らないだけで、おもしろいと思ったところで笑うのかもしれないけど…。


「でもまぁ、フィーナは『笑わない』と言うよりぼーっとしてるだけ、ってのが近いから、あの男とは違うと思うけど。」
「…どういうこと?」
「つまりワンテンポずれてるってこと!」


そう言ってリコちゃんはまた笑った。
…ぼーっとしてる?私が?
それは初めて言われたかもしれない…。
いや…。
そう言われるほど、今まで誰かと深く、関わっていなかったのかもしれない…。
ボーっとしてるというか、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、その人が言ったことを正確に捉えなきゃ、って、理解するのに時間がかかってるだけ、の、ような気がする。
…でもそれって結局、他人から見たらボーっとしてるように見える、の、かな…?


「ま、お前はあの仏頂面の『お気に入り』みたいだけど、面構えまであの男に似るんじゃないよ?」


リコちゃんはそう言ってベッドに潜り込んだ。
…お気に入りかどうかは別として、私の顔がリヴァイさんのようになったら、コニーが泣きそうだな、なんて。
訓練兵になるために村から出て以来会っていない、「この世界の」弟のことを思った。

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