■1
「壁外遠征中の報告書を見た。」
調査兵団が帰還した日、リヴァイさんに壁外遠征中の報告書(と言う名の手紙)を手渡し宿舎に戻った。
リヴァイさんは私が書いたものとは別に、教官たちから何かしら、主に私の素行や成績についての報告を受けているらしく、数日後の今日、久しぶりに訓練後リヴァイさんと話をすることになった。
「立体機動訓練の成績がトップだったようだな。」
「は、はい…!」
私の短い人生において授業等で「トップ」なんてこと1度もなく…。
それでも「あの」鬼特訓に耐えた甲斐と言うものがあり、先生をしてくれたリヴァイさんに恥じない成績を収めることが出来た。
…それに対して、ないとはわかっていても、もしかしたらリヴァイさんから褒めてもらえるんじゃないか、って、どこかで期待していたのは確かだった。
「俺が教えたんだ。当然だな。」
「…………はい。」
期待していたのは確かだったんだけど、やっぱりそうだよなぁ、と。
リヴァイさんならこう言うだろうなぁ、と。
わかってはいたんだけど、でも少しくらい…。
「けどまぁ、」
なんて思っていた時、
「よくやった。」
「…はいっ!」
リヴァイさんからまさかの言葉が降って来た。
「あの」!!
リヴァイさんに!!
なんて興奮が、徐々ににじみ出はじめた直後、
「だが後はなんだ?」
「………………」
やっぱりこうなるんだよな、って言う展開が待っていた…。
「対人格闘術、中の下。座学に至っては下の中。…最も字が読めねぇ人間が下の下じゃなかっただけ褒めるべきなのかもしれねぇが、」
「そ、そうなんです!この間のテストで初めて2桁行って、」
「なんか言ったか、おい。」
「…………なんでもありません。」
2桁だぁ?テメェふざけてんのか?と全身で語っているリヴァイさんを前に、少しでも褒めてもらおうなんて言う私の努力は全て卑しいことなんだろうと思った…。
その後しばらく、
「………………」
睨みつけてきてるであろう(怖くて正面見れないから…)リヴァイさんと、
「………………」
それに堪えている私の間に、痛いほど重い沈黙が訪れた…。
「…はぁ…。」
どのくらいそうしていたのか、リヴァイさんのため息が聞こえた。
…あぁ、私またこの人を怒らせてしまったんだ…。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「フィーナ。」
ぐるぐるぐるぐる考えていたら、リヴァイさんが不意に私の名前を呼んだ。
「お前、いつ暇だ?」
「…え?」
「訓練兵の次の休暇はいつだ?」
…休暇、って、お休みのこと、だよ、ね?
え?なんでいきなりお休みの話?
…も、もしかして、お休みの日に鬼特訓…!?
…それは、やだ。
お休みの日はちゃんとお休みとしてゆっくりしたい
「いつが休暇だ?」
「4日後です。」
したいんだけど、リヴァイさんのこの気迫に私なんかが太刀打ちできるわけもなく、あっさりとお休みの日を告げてしまった…。
リヴァイさんはそうか、と小さく呟いた。
…あれ?鬼特訓、ない、の、かな…?
ちょっと意外な気もしたけど、胸を撫で下ろしかけたその時、
「その日は朝から空けておけ。」
再びそうだよなぁ、って言う展開が待っていた…。
「おい、聞こえたか?」
「はい…。」
次のお休みはリコちゃんが美味しいパンが食べられるお店がトロスト区にあるから行こうって誘ってくれたのになぁ…。
予定あります、なんて言ってもまずもって聞いてくれなそうな人だから…。
そもそも予定ありますなんて言う勇気がないんだけどさ…。
私が1人ぐるぐると考えていたら、リヴァイさんはいつの間にか去っていった。
「リーヴァイ!」
「なんだ?ハンジ。」
「フィーナにちゃーんとご褒美あげたかい?」
「…」
「何度も言っただろ?あの体格で立体機動訓練でトップって凄いことだよ?」
「だから何度言えばわかる?俺が教えたんだ。当然だろう。」
「だーかーら!!わっかんないかなぁ?飴と鞭の使い分けが必要だろうって言ってるんだよ!」
「躾に飴は不要だ。」
「躾じゃなくて教育だって言ってるの!…フィーナはまだ『小さい』んだからそこらへんちゃんと考えてあげないとだって言ってるだろう?」
「…ウゼェ…。」
「あ、リヴァイ!…行っちゃったか…。」
「ハンジ。」
「あれ?エルヴィン来てたの?」
「今の言い方だとフィーナが幼女か何かに聞こえるんだが…。」
「そうかい?そんなこと一ッ言も言ってないけど?」
「いやだがあの言い方は、」
「15歳にして150センチないフィーナの今後を心配してるんじゃないか!」
「…あのニュアンスをそういう風に受け止められる人間がいるなら会ってみたいものだ…。」
その後宿舎に戻り、リコちゃんにお休みがなくなったことを告げたら、にやりと笑われながら頑張れと励まされた。
…何をどう頑張ればいいのかわからないけど、とりあえず座学はまず字の習得だから、対人格闘術かなぁ、なんて思いながらその日は眠りについた。
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bkm