ラブソングをキミに


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訓練兵としての一歩


5


リヴァイさんは小さく呟いた後、私に突きつけていた紙を自分の方に向け、もう1度その紙に視線を落とした。


「今お前から受け取ったこの書面。」
「…」
「ここには訓練兵リコ・プレツェンスカの走り書きで字が読めねぇことを隠してる馬鹿女の話が書かれている。」
「え…。」


−ここにあっても邪魔なだけだ。ちゃんと返して来な−


数時間前の、リコちゃんの顔が脳裏を過ぎった。


「字が読めねぇなら読めねぇってさっさと言え。調査兵団も作戦の確認、任務報告に書面でのやり取りをする。必要最低限の言語くらい書けるようになれ。」
「…す、みま、せん…。」


めんどくせぇなぁ、とでも言いたそうに、リヴァイさんは深い深い、ため息を吐いた。


「それで?」
「はい?」
「どうする気だ?」


リヴァイさんは私に『不要なことまで話す必要はない』と言った通り、普段自分で話すときもとても簡潔に喋る。
…から、たまに大事な部分が抜けている気がする…。
この場合の「どうする?」は、「字が読めないんだから」どうする気だ?ってことだよな、と、コミュニケーションが苦手でリヴァイさんとは違った意味で会話に難がある私は、言われた言葉を頭の中で処理するのに若干時間がかかるということを、リヴァイさんは全く気づいていない。


「それを書いた、リコ、さん、が、空いた時間に教えてくれるそう、です。」
「で?」
「え?で?」
「何をどう教えてる?」
「何を、って、今日から『あいうえお』を、」
「時間の無駄だ。」


リコちゃんの勉強方法をバッサリ切り捨てられた瞬間だった。


「そうだな…。明日から1日の訓練内容を俺に報告しろ。」
「え?で、でもリヴァイさんは報告が行くんじゃ、」
「お前が字書いて報告しろと言ってるんだ。1日の訓練内容、そこで起こったこと、お前の対処法、全て書いて俺に提出しろ。」


…それって1日の出来事をリヴァイさんに手紙書いて報告しろってこと?


「で、でもまずそんな高度な文章が書けな」
「別に『高度』にする必要なんかねぇだろ。普通に起こった出来事を書け。」


…だからその「普通に起こった出来事」を書けるだけの語学力がないって言ってるのにっ!!!


「訓練兵時代に使う用語で、訓練兵が終わった後でも使う用語は多々ある。今から出来るようにしておけ。」


その理屈はわかるんです。
わかるんですよ?


「俺が理解できねぇもの書いて寄越したらわかってんだろうな?」


わかるんですが、私の現在の語学力をまず理解しようって気はないんですかっ…!


「あぁ、書くときは行間を開けて書くようにしろ。」
「え?」
「時間があるときは添削してやる。」


…リヴァイさんて…、見た目によらず世話焼き…(と言ったら失礼だろうけど)
毎朝8時に報告をあげるための書面を取りに来る人を用意するから、それまでに前日の出来事を書いておけ、とリヴァイさんに言われその日は解散となった。


「え?手紙?」


部屋に戻ったらどうだったか心配してくれたリコちゃんに、起こった出来事をポツリポツリと話た。


「いや、普通に無理だろ。フィーナまだ『あいうえお』も、」
「…でも、そんな言い訳通じる人じゃない、し…。」
「まぁ…、頑張れ。」


リコちゃんの声援を受け、その日の夜からリヴァイさんに1日の出来事を報告するための手紙を書くことになった。
最も最初はリコちゃんに書いてもらったやつを見よう見まねで書いているだけだったけど…。


「フィーナ、今日も手紙着てる。」
「あ、ありがと…。」


リヴァイさんは「時間があるときは添削してやる」と言っていたけど、そんなの嘘だってすぐわかった。
時間がなくても毎日絶対返事(と言うか添削した私の手紙)をくれた。
最強、なんて言われてる人がそんな暇なわけない。
だからきっと、なんとか時間を作って私につきあってくれているんだろう、って。
そう思うと早く字を覚えなきゃ、って。
確かに訓練で体は疲れているけど、少しでも早く、って思って毎日毎日、リヴァイさんに手紙を書いた。




「リヴァイってさー、」
「なんだ?」
「案外面倒見良いんだな。」
「(またこの字間違えてやがる)」
「ちょっと見直しちゃったかも。」
「暇そうだな、ハンジ。お前も手伝え。」
「…でもさぁ、」
「なんだ?」
「リヴァイ、それ以上のめり込んだらロリコンて言われちゃうよ?」
「……………………」
「いやいやいや、一般論だからそんなに睨むなって!エルヴィンもそう思うだろう?」
「うん?そうだな…。ハンジの口から『一般論』なんて言葉を聞くとは思わなかったぞ。」
「いや、そこじゃなくてだな、って、リヴァイ!……あーあー、手紙くっしゃくしゃにして行っちゃったよ…。」
「ところでどうして『ロリコン』なんだ?」
「…だってリヴァイいくつだと思ってるんだよ?23、4の男が12の女の子にのめり込んだら、」
「そうか、お前には訓練兵の名簿がいかないんだな…。」
「え?」
「訓練兵志願できる歳ということで誤解しているようだが、フィーナは確か15歳だったはずだぞ?俺的にはぎりぎり『ロリコン』にならない気もするが?」
「…えぇっ!?フィーナ、あれで15っ!?見えない!ぜんっぜん見えないよね!!?」
「お前が知らないと言う事は、リヴァイも知らない可能性があるな…。」
「エルヴィン。」
「なんだ?」
「これはリヴァイには是非黙っていようじゃないか!」
「…楽しそうだな、ハンジ。」
「そう見えるかい!?なんだろうね、この壁外で奇行種に遭遇した時のような胸の興奮はっ!!」
「まぁ…、ほどほどにな。」




「あれ?今日は手紙ないのか?」
「え?あ、そう、だ、ね…?」


エルヴィンさん、ハンジさんの会話なんて知るはずもない私は、その日、それまで毎日着ていた手紙(を添削したもの)が来なかったことに、何か変なこと書いたのかもしれない、と、少し不安になっていた。
でもその不安もその日限りで、翌日からまたそれまでのように手紙(を添削したもの)が届くようになった。
…リヴァイさん、何かあったのかな?なんて思いながらも、少しでも早く字を覚えるよう、今日もいそいそと手紙をしたためていた。

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bkm

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