ラブソングをキミに


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訓練兵としての一歩


4


「流行り病の後遺症だったのか…。」


リコちゃんと少し言い合いになった翌日。
コニーの話だと15歳だという私。
なのに何故字の読み書きが出来ない?って話になって。
勉学が出来なかったほど貧乏な家なのか?と歯に衣着せないリコちゃんに、なんて答えてみようもなく、1番無難な理由だろう、と思ってこれを口にした。
それにすごく納得したリコちゃん。
私がかかったとされる流行り病での高熱の後遺症は、怖いものなんだと、みんなが理解しているようだった。


「じゃあほんとに最初の『あいうえお』からだな。」
「う、うん。」


翌日からさっそく、訓練の合間にリコちゃんの語学レッスンが始まった。
あぁ、良かった!これで教科書や黒板がちゃんと読める、なんて思った矢先、


「フィーナ・スプリンガーはいるか?」


訓練兵御用達の食堂に、とっくに訓練兵を卒業しているはずのリヴァイさんが乗り込んできた。
いるか?と聞いてきたわりに、自分で私を見つけたらしいリヴァイさんは私とリコちゃんの席につかつかとやってきて、


「いたっ!?」


手に持っていた紙の束を私の頭に投げつけてきた。


「なんだこれは?」
「……あぁ、昨日の座学のテストの報告書か。」


リヴァイさんがここに来た時からそんな気はしていたけど…。
リコちゃんが、リヴァイさんが私に投げつけた書類を拾い上げ、内容を教えてくれた。


「『トップ10に入る必要はない』とは言ったが『くだらねぇ成績残すんじゃねぇ』とも言ったよな?」
「…はい。」
「テメェ、ふざけてんのか?」


座っている私を思い切り上から睨みつけてくるリヴァイさん。
目の前に座るリコちゃんは、傍観者を決め込んだのか温かく見守っている。
…エルヴィンさんが有名人なら、リヴァイさんてどうなんだろう?
リヴァイさんもやっぱり有名人なの、かな?
なんて、どうでもいいことを考えてた。


「今日訓練が終わったら宿舎前にいろ。」
「え?」
「テメェのふざけた行動、みっちり躾しなおしてやる。」


そう言うだけ言って、リヴァイさんは去っていった。


「…調査兵団実行部隊主力メンバーの1人、リヴァイ。」
「え?」
「お前、エルヴィン・スミスに目をかけられているんじゃなく、あの男に目をかけられていたのか。」


リコちゃんがリヴァイさんが去っていった方を見ながらそう言った。


「リヴァイさんのこと知ってるの?」
「『兵士の中で最も強い男』」
「…え、」
「あのチビのことをそう呼んでる奴らがいる。」


リコちゃんはリヴァイさんが置いていった書類に再び目を落としながら言った。
…「兵士の中で最も強い」!!?
「あの」リヴァイさんがっ!!?


「うそかほんとかわからないが、アイツが調査兵団に入団してからは壁外からの生還率は上がっているらしい。」
「…」
「エルヴィン・スミスの片腕として調査兵団にいると聞くから、団長交代時に、アイツも兵士長になるんじゃないかって話だ。」
「………」
「…聞いてるか?」
「あ、ごめん…。なん、て、言うか、」
「うん?」
「ただただ、びっくり、した、って言うか…。」


そりゃあ強いんだろうな、とは思っていた。
でもそれは「兵士」だからの話であって、そんなまさか「兵士の中で最も強い」なんて言われるほど強い人だなんてそんな…。


「私、」
「うん?」
「…訓練兵になる直前、少しの間だけリヴァイさんに訓練されてた期間があって、」
「あぁ…。『だから』お前は見た目よりもずっと、体力があるのか。」


リコちゃんは何かを納得したようだったけど、私はただただ、「あの」訓練期間中、最も強い男と呼ばれる人から殺されなくて本当に良かったと、今頃になって変な汗が出てきた。
…だけど、その「最強」の人が、明らかに機嫌を損ね私を呼び出したと言うこの事実に目の前が真っ暗になった。


「おい。」
「え?」
「これ持っていきな。」
「え…、あぁ、リヴァイさんが持ってきた、」
「ここにあっても邪魔なだけだ。ちゃんと返して来な。」


私の座学テストでの酷さを語っているのであろう書類をリコちゃんから渡された。
そして、


「逃げ出さずに来たことだけは褒めてやる。」
「…ありがとう、ございます…?」


リヴァイさんの呼び出しの時間になった。


「あの、」
「あ?」
「これ、昼間忘れて、」
「忘れたんじゃない、捨てたんだ。」


そうだよな、と。
座学のテスト白紙で出した馬鹿ですよ、なんて書かれてる書類、いるわけないよなぁ…。


「ちょっと待て。」
「え?」
「…それを見せろ。」
「え?あ、はい…。」


なんて思っていたら、リヴァイさんがやっぱり書類がいると言ってきた。
手渡すと、その書類に目を落としたリヴァイさん。
…なんか見落としてた、の、かな?


「それで?」
「え?」
「ここに書いてある、これはどういうことだ?」


改めてその書類を目の前に突きつけられて問われても、ここで「字が読めなかったからです」と答えていいものかどうか…。
えっと、とか、あのぅ、とか言っている私にリヴァイさんが痺れを切らしたのか口を開いた。


「答案用紙は白紙、訓練態度は不真面目。…テメェ、俺やエルヴィンの顔に早々に泥を塗る気か?」
「そっ、そんなつもりは、」


そもそもにして、訓練態度を「不真面目」に出来るほど、私は優秀じゃない。
努力してもトップ10には入れないことは重々承知している。
でもせめて人並みくらいにはなろうと、私を「必要だ」と言ってくれたリヴァイさんやハンジさんに恥ずかしくないようにはなろうと日夜訓練をしている。
なのに「不真面目」!?
そんなの納得いかない!
なんて思っても、


「私は、別に、」


上手く口は回ってくれない。
何かを言おうと、何度か息を吸ったり吐いたりしたとき、


「なるほど?」


リヴァイさんが小さく呟いた。

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bkm

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