ラブソングをキミに


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訓練兵としての一歩


2


何度か歌って、少しはすっきりしたから部屋に戻ろうと振り返った時、


「リヴァイさん…。」


いつからいたのかはわからないけど、リヴァイさんが立っているのに気づいた。


「…お前の村の歌か?」


私を特訓中、いつも調査兵団の制服を着ていたリヴァイさんは、随分とラフな格好でランプを持って立っていた。


「聞いてんのか?」
「あ、はい!あ、いえ…、えぇーっと、」
「…………」


リヴァイさんの突然の登場に驚いて、何を言ったらいいのかわからなくなった私は、言葉に詰まった。
リヴァイさんの話を聞いているのか?と言う問いには「はい」だけど、私の村の歌か?と言う問いには「いいえ」なわけで。
それが混ざった返事をした私に、ランプの灯りに浮かび上がるリヴァイさんの顔がムッとしたような気がした。


「す、すみま、せん…。」
「あ?」
「私、あの、ひ、人と話すことが、苦手と言うか、」
「…」
「な、なに、を、どういう風に、話したらいいか、わからないって言うか、」


特訓中、リヴァイさんを「先生」として見ていた。
だから「教師と生徒」としての最低限のコミュニケーション(が、取れたかは疑問だけど)を取っていた。
だけどこうやって「教師と生徒」から離れて、いきなり雑談的な流れになると、やっぱり何を話したらいいのかわからなくなる。


「いいんじゃねぇか?」
「え?」
「必要な時に必要なことだけ話せばいい。不要なことまで話す必要はねぇし。」


自分の欠点と言えることを、なぜリヴァイさんに言ってしまったのかわからない。
だけどどこかで「リヴァイさんだから」言えた気がした。


「リヴァイ、さん、は、」
「なんだ?」
「どうして、ここに?」


この場所は暗くて星を見る以外は何もない。
失礼かもしれないけど、リヴァイさんが星を見に来たとは、到底思えなかった。


「脱走兵が出たのかと思ってな。」
「脱走兵、です、か?誰もこっちには来てません、よ?」
「…」


リヴァイさんは私を見た後、深い深いため息を吐いた。


「あの歌」
「え?」
「聞き慣れない言葉だったが、お前の村の歌か?」


ため息の後、私の方を見ずにリヴァイさんが言った。
…聞き慣れない言葉?
今のはだって、英語の歌で、ここは「日本」ではないどこかで…。


「違うのか?」


私がぐるぐる考えていると、目線だけ私に向け、リヴァイさんが聞いてきた。


「…や、ちが、わ、ない?」


リヴァイさんに言うと、ふぅん、と短く返事をした。


「どういう意味の歌なのかは知らねぇが、良い歌だ。」
「…どう、も…?」


ここは「日本」ではない国だけど、ここの人たちは「日本語」を話しているように私には聞こえて。
だけどリヴァイさんは私が歌う「英語」を知らなくて。
どういう、こと…?
私、やっぱり記憶喪失じゃなくて…。


「フィーナ。」


ぐるぐると、1人で考えていたとき、リヴァイさんが私の名前を呼んだ。


「お前は訓練兵になってもトップを目指す必要なんかねぇし、10位以内に入る必要もない。」
「…」
「ただ卒業することだけ考えろ。」


コニーの話だと、訓練兵の上位10人は憲兵団に入団できる権利を与えられる。
だいたいの人たちはそこを目指すらしいけど、私はただ、卒業するだけでいい。


「卒業して必ず『うち』に来い。お前の力が必要だ。」


リヴァイさんが持ってきたランプと星明りの、ほの暗い中でこくり、と頷いた。


「それよりお前どうやってここまで来た?」
「え?」
「灯も無しでこの道を来たんだろ?」


リヴァイさんはこの暗闇じゃ見えねぇよな?的に言ってくる。
…そりゃあ確かに暗いけど、「日本」にいたときとはぜんぜん違う。
ここは空気が澄んでいて、こんなにも星が瞬いている。


「よく、見えます、よ?」


街頭の明かりとは違う、星の輝きに照らし出された景色が。
それは灯なしでも十分に歩ける輝き。


「…お前、目も良いのか?」
「普通だと、思います。」


そうか、と短く答えたリヴァイさん。


「まぁなんでもいい。明日は早いんだ。さっさと部屋に戻れ。」
「はい。」


そうリヴァイさんに促されて、入団前の調査兵団宿舎での最後の夜を過ごした。

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