ラブソングをキミに


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訓練兵としての一歩


1


調査兵団に入る。
そう決めてからは怒涛だった。
まず、コニーを見ていてくれたエルヴィンさんのところに行って、ハンジさんがエルヴィンさんに報告した段階でコニーに反対され、両親の説得が必要だろうとハンジさんがラガコ村のうちまで来てくれて両親を説得に当たるも主にコニーから反対され、フィーナが自分で決めたのならと送り出そうとしてくれた両親だけど、でも危ないことなんだって縋りついて心配してくれるコニーを前に行くに行けずにいたら、決めたならさっさと動けとわざわざラガコ村まで迎えに来たリヴァイさんに首を掴まれウォール・マリアの一角にある調査兵団の宿舎まで連行された。


「訓練が始まるまであと1ヶ月半はある。その間、俺がお前を訓練してやるからそのつもりでいろ。」


そしてその言葉通り、たった一月半、されど一月半のリヴァイさんによる兵士になるための特訓が始まった。


「とりあえず基礎体力を見る。腕立て、腹筋背筋50回ずつやってみろ。」
「む、無理です…!」
「次からは口答え1回につきここの敷地内1周だ。ぐずぐずするな、やれ。」
「い、1周!?ここすごくひろ」
「…」
「……」
「今走るか、後で走るか選べ。」
「…今走ります…。」


ハンジさんは私がリヴァイさんに気に入られた、と言っていたけど、やっぱりそこはいつかハンジさんに聞きたい。
どこらへんが気に入られてるんですか?って。


「テメェ、舐めてんのか?」
「ハァ、ハァ…」
「たかが1周に何時間かけてんだ?」
「ハァ…、ハァ…」
「そんな奴が兵士になれるほど甘かねぇんだよ。」


舌打ちしながらリヴァイさんは言う。
…でも一言言わせてもらいたい。
私を兵士にさせようってしてるのあなたたちですよね?
そりゃあ「なる」って言ったのは私かもしれませんよ?
でも先に言ってたじゃないですか!
私、運動がすごく出来るわけじゃない、って!!
なんて思っていても、言えるわけなんてなくて。


「うっ、えぇぇぇ…」
「…汚ぇなぁ、これくらいで吐いてんじゃねぇよ!」


自分が出来得る範囲で、リヴァイさんが出す課題を少しずつ、少しずつ、クリアしていくしかなかった。




「お前がつきっきりで訓練とは珍しいな。」
「…俺が自分で確かめたんだ。フィーナの耳は使える。俺たちにとってかなり有益な存在だ。それが壁外に出た瞬間に死ぬような弱ぇ奴じゃ困るんだよ。あの力、実戦じゃエルヴィン、お前の近くに配置されるだろうから心配する必要もねぇだろうが、それでも最低限の自己防衛能力は必要だ。」
「…ま、ほどほどに、な。」



エルヴィンさんとリヴァイさんがそんなやり取りをしていたなんて知るはずもない私は、情け容赦ないリヴァイさんの特訓に、すでに調査兵団に入ると言うこと自体を止めようかと思っていた頃、


「今日で俺の訓練は終わりだ。」


リヴァイさんの特訓終了を言い渡された。
正直なところ、リヴァイさんに殺される前に訓練が終わって良かったって心底思っている。
そして訓練兵は3年間の訓練を受けるって話だけど、向こう3年間はリヴァイさんの顔を見なくてもいいと思うとすごく解放された気分になった。


「フィーナ。」
「は、はい。」
「…お前は調査兵団入団が決まっている。お前の成績は随時俺やエルヴィンの元に報告が来るようになってる。くだらねぇ成績残したらただじゃおかねぇからそう思っておけ。」


そう言うだけ言ってリヴァイさんは去っていった。
…それはもしかして「くだらない成績」を修めてしまったら、3年を待たずにリヴァイさんがやって来ると言うことなんですかね…?
でも以前も言いましたが、私運動が苦手なわけじゃないけど、すごく得意なわけでもないんですよ?
むしろこの1ヶ月半、あなたの特訓と称したいじめに挫折しなかった私を褒めてもらいたいところなんですけど、そこらへんわかっていただけないんでしょうか?
なんて最後まで、言えるわけもない言葉が胸を覆っていた。


「…ここからの星空も、少しの間見納め、かな…。」


調査兵団の宿舎兼訓練施設は、ウォール・マリア中心地から少し離れた場所にあった。
もともとこの世界には「電気」と言うものが存在していないと言うのもあり、中心地から少ししか離れていないけど、この場所は絶好の星空観測地点だった。


「きれい…。」


それが何座か、なんてわからないけど、夜空に瞬く星たちは、「日本」の、私がいた場所では見ることが出来なかった景色だと思う。
…何度寝ても、何度起きても、やっぱり私はこの「壁の内側の世界」から、出ることはなかった。
もしかしたら本当に私はただ、記憶喪失なだけで、もともと「日本」て場所に生きた名字名前って言う存在なんて、いなかったのかもしれない。
だけど…。


「〜♪〜」


向こうの世界が、すごく好きだったわけじゃない。
むしろ私は私が大嫌いだった。
だけど、パパはパパとして、そしてママはママとして、「家族」で過ごしてきた記憶があるわけで。
この世界にもラガコ村に、パパもママも、そしてコニーもいるけど、つい1〜2ヶ月前に「家族だ」って言われた人たちよりもずっと…、大切に思えてしまう存在で。
ここにも家族はいても、それでもやっぱり、自分の家族と言ったら、日本にいる、パパとママで…。
どうしても湧き上がる、寂しさを、消せないでいた。


「〜♪〜」


その寂しさをかき消すかのように口ずさんでいた歌を、聞いている人がいたなんて知らずに、何度も何度も「記憶の中」にある歌を、繰り返し歌っていた。

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bkm

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