ラブソングをキミに


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3つのうちの1つ


8


コニーは、この「壁の中の世界」には、3つの兵団があるって話してくれた。
1つはコニーが目指している憲兵団。
王都ウォール・シーナを守る兵士たち。
1つは駐屯兵団。
ウォール・シーナ以外の壁の中、ウォール・ローゼ、ウォール・マリアを守る兵士たち。
そして最後の1つは調査兵団。
壁の外側の世界を開拓していく兵士たち。


「調査兵団に入らないか?」


その3つのうちの1つ、調査兵団に入れとハンジさんは言った。
…調査兵団に入る?私が?
それって兵士になる、ってこと?
兵士ってつまり、リヴァイさんのように軽々と人1人担げるような人になれってこと?
そんなの無理に決まってる。
運動が苦手なわけじゃないけど、すごく得意ってわけでもない私が兵士だなんて…。


「ハンジ。」
「うん?」
「もっとこのガキにもわかるように言え。」
「え?」
「おい、フィーナ。」


私がぐるぐると考えていると、リヴァイさんが口を開いた。


「今の俺たちには目視でしか巨人の存在を認識できない。」
「…」
「それで対応出来るだけの戦闘力はつけているつもりだ。だが稀に目視してからじゃ間に合わない巨人もいる。足の速い巨人や、行動が予測不能な奇行種がソレだ。」
「…」
「俺たちには『目視よりも正確に巨人の位置を把握できる力』が欠けている。だが、お前は目視せずに耳で巨人の位置を把握できる。それもかなり正確にな。」


淡々と話すリヴァイさんから、初めて睨まれずに真っ直ぐと見つめられた。


「俺たちにはお前が必要だ。調査兵団に入れ。」
「……入れってそれじゃ命令じゃないか、リヴァイ!」
「当然だ。拒否しても入ってもらう。」
「いやいや、そこは本人の意思ってやつを少しは尊重してやろうって、」
「『少し』はな。だから聞いてんじゃねぇか。」


リヴァイさんとハンジさんの言い合いを眺めながら、胸が、どきどきと高鳴っていくのを止められずにいた。


−キミのその力が、人類に希望を与えてくれるかもしれないよ?−


私はただ、人より少しだけ、耳が良いだけだ。
それでも…。


−俺たちにはお前が必要だ−


こんなにはっきりと、直球で、「誰か」から必要とされることなんて、生まれて初めてだった。


「リヴァイ…。それは尊重してるとは言わないよ…。こういうのはね、たとえ時間がかかったとしても、」
「わ、わたし…!」


リヴァイさんとハンジさんの会話の間に入るため、拳を握り締めて少しだけ、前に出た。


「ち、調査兵団に、入ります…!」
「「…」」


たとえここが夢の中の世界だとしても。
生まれて初めて、「私」を必要としてくれたんだから。


「で、でも私、そんなに運動が」
「本当かい!!?入ってくれるんだねっ!!?」
「出来るわけじゃなく」
「次の訓練兵志願受付っていつまでだっけ!!!?」
「『兵士』になんて」
「2ヶ月後だ。」
「なれるかどうか」
「じゃあぜんっぜん間に合うねっ!!よし!帰ってエルヴィンに報告だっ!!!」
「不安で、」
「さぁ、帰ろう!!」
「不安で…。」
「おい、さっさと帰るぞ。」
「…はい…。」


本当に私なんかが兵士になれるかどうか不安なんです。
なんて言葉は、主にハンジさんの大興奮にかき消された…。
帰りは「なんで俺が」って理由でリヴァイさんがハンジさんに私を押し付けたため、ハンジさんの馬に乗せてもらった。


「不安かい?」
「え?」
「兵士になること!」


行きはリヴァイさんの前に(無理矢理)座らされたけど、帰りはハンジさんの後ろに座って、ハンジさんに後ろからしがみつく形で座っていた。


「でもキミ、センスあると思うよ。」
「…え?」
「理由その1!フィーナはリヴァイが『あえて』荒く走らせた馬の背に乗ってたけど吐かなかった!」


ハンジさんの言葉に、行きの馬上を思い出した。
…あれは吐いているような暇すら与えてもらえなかったというかですね…。
と、ぐるぐると言葉が脳裏に駆け巡った。


「理由その2!リヴァイの立体機動に振り落とされなかった!」
「…りったいきどう?」


ハンジさんの説明によると、「立体機動」と言うのは、所謂、空を自由に駆け回るような装置…、さっきハンジさんとリヴァイさんが腰のあたりにつけていた機械のことだってわかった。


「振り落とされるんですか?」
「普通ならね!で、巨人に食われていただろうね。」


…そんな危険なことさせられていたんですか?
さっきのあの浮遊感はつまり、そういうことだったと、今さらになって背筋が冷たくなった気がした。


「理由その3!」


その3を言う瞬間、ハンジさんが軽く後ろにいる私を見遣った。


「『あの』リヴァイに気に入られたみたいだから、きっと良い兵士になる!」


そう言ってハンジさんが笑った。


「…」


私たちの斜め後ろを走るリヴァイさんに目をやると、何のようだと言わんばかりの視線を投げつけられ、無言で目を逸らした。
……………どこらへんが気に入られたの?
腑に落ちないハンジさんの言葉がいつまでも耳に残っていた。

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bkm

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