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「快斗くんて、青子ちゃんが好きなのかと思ってたけど、実は佐藤さんみたいなクールビューティーが好みだったのかぁ!」
彼が去った後、すでに帰宅したかと思っていた鈴村さんがいつの間にか隣に来ていて、そう呟いた。
「なんの話ですか?」
「え?マジックショーのチケット貰ったんでしょ?その話」
僕らも帰ろう、と鈴村さんに促され、会場を後にした。
「チケット貰っただけです。それイコール好みと繋げるのは失礼ですよ」
「いやいやいやいや、ふっつー、何にも思ってないコにマジックショーのチケットあげないでしょ!」
しかも快斗くんのだよ!と鈴村さんは言った。
この時の私は「マジックショー」などと言うチケット、単に売れ残っていただけなんじゃないかと本気で思ったわけだけど…。
「黒羽快斗…、あった。新進気鋭の若手マジシャン。ショーの最中事故死した世界的マジシャンである黒羽盗一の実子…」
帰宅後何気なく開いたパソコンで調べた彼のチケットは、
「彼のショーは若手ながらもチケットは全てsold out、高値転売される、か」
「売れ残っていた」なんてこと、あり得ないものだと言うことがわかった。
…それがわかってしまった手前、「気が向いたら」などと言う誘われ方で「気が向かなかった」とでも言おうと思っていた私は本当に途方に暮れていた。
そんな時だったと思う。
「そうだ、佐藤さんは初めてだよね?こちら名探偵の工藤新一くん」
「どうも、工藤です」
怪盗キッドの天敵と言われている名探偵、工藤新一さんと知り合ったのは…。
「今度のキッドの現場、工藤くんの力を借りることになったから」
「…………」
今思い返すと何故そう思ったのか自分でも不思議だけど、工藤さんを一目見た瞬間、今私が頭を悩ませている人物の顔が浮かんだ。
「…佐藤さん?」
「あ、すみません…」
「…もしかして工藤くんに見惚れてたとか?」
少し驚いた顔をしながら鈴村さんが言ってきた。
「違います。…あの人に似てるな、と、」
「「『あの人』?」」
「先日お会いした…快斗さんです」
この時の私は咄嗟に「黒羽」と言う名字ではなく、中森警部や鈴村さんが言っていた「快斗くん」と言う名前しか出てこなかった。
「あー!そう言われてみると確かに似てるかもね。並んで見たことないからすぐにはわからなかったけど」
そう言いながら鈴村さんはうんうんと頷き始めた。
何故、初めて会ったこの人を見て、先日それもたったの1度会っただけの彼を思い出してしまったのか、私にはわからなかった。
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bkm