Detective Conan


≫Clap ≫Top

catch me if you can


6


中森警部のお嬢さんと、白馬警視総監のご子息の披露宴は順調に進行し、


「ではここで、新郎新婦の同級生で、新婦とは幼馴染でもあるプロマジシャン、黒羽快斗さんに登場してもらいましょう!」


先ほど会った彼が余興としてマジックショーを披露した。


「オメデト、青子!」
「快斗すごーいっ!!」
「オメー幸せにしてやってくれよ?」
「もちろん」


一体どこに隠れていたのか、いつの間にか会場中に溢れかえった白い鳩を一羽、また一羽と自分の体に引き寄せ、パチン、と指を鳴らしたかと思ったら一瞬にして白い鳩は消えた。
変わりに彼は、大きな大きな花束を抱えていた。
その花束は色とりどりな…純白のドレスを彩る花たちだった。


「まるでキッドみたい…」


誰に言うわけでもなく呟いた言葉に、隣に座っていた鈴村さんが吹き出した。


「あぁ、ごめんごめん。佐藤さんでもそういう表現するんだ?」
「…どういう意味ですか?」
「悪い意味じゃないよ。…それに快斗くんには最高の褒め言葉だろう?」


列席者の拍手に包まれ着席する彼は、黒いスーツを着ていた。


「どうしてです?」
「そりゃあマジシャンにとっては『あの』キッドのようだ、なんて比喩されたら褒め言葉でしょ?」


僕らが大きい声じゃ言っちゃいけないんだろうけどね、と鈴村さんは言った。


「佐藤さん」


式が終わった後、出口へと向かう人の波が少し引けてから席を立とうと思っていた私のところに先ほどの彼ー黒羽快斗さんがやってきた。


「お疲れ様でした」


披露宴の余興、マジックショーに対して労いの言葉を述べたら、


「どうでした?俺のマジックショー」


それは悪戯っ子、とでも言うかのような表情で私に尋ねてきた。


「凄かったです」


私のその言葉は納得いくものではなかったのか、彼は少しだけガクッと肩を落とした気がした。


「…まるで、」
「え?」


それを見たから口にしたわけではないけど…。


ーそりゃあマジシャンにとっては『あの』キッドのようだ、なんて比喩されたら褒め言葉でしょ?ー


「まるで、怪盗キッドのようでした」


気がついたら、彼本人に、そう告げていた。


「…」


彼は一瞬ポカン、と口を開けた後、


「…っく、くくっ、」
「え?」
「あははははは!」


本当にお腹を抱えながら笑い出した。


「そっか、怪盗キッドのようか…!」


それは先ほど鈴村さんに言われたせいもあり、単純に「キッドのようだと言われて喜んでいる」んだと思った。


「あぁ、悪ぃ悪ぃ!」
「いえ…」


彼は目尻を指先で拭いながら言ってきた。


「いやー、光栄だぜ。月下の奇術師と謳われるキッドのようだと言われるなんてな!」


彼は愉快そうに目を細め口にした。


「でも、俺の腕も捨てたもんじゃないんだぜ?」


そう言いながら胸ポケットから1枚のチケットを出した。


「…マジックショー?」
「そ!俺のマジックショーの招待状!良かったら見にきてくれよ。披露宴の余興なんかとは規模の違うマジックをお見せしますよ、お嬢さん?」


キッドと引けをとらないってところお見せします、と戯けたように彼は言った。


「…こういう招待状は普通2枚で贈るものだと思うのですが…」


たった1枚だけのマジックショーの招待状に思わず口から本音が出た私に、


「だって佐藤さんが男と着たら俺ショックでマジック失敗するかもしれねぇじゃん?」


にこにこと、笑顔を崩すことなく彼は言った。


「…別に一緒に行くような男性はいないですけど」
「あ、ほんとに?じゃあもう1枚あげよっか?」


この言葉に、一緒にマジックショーを見るような男性もいないけど、そもそもにしてわざわざマジックショーを見に行くような同性の友人もいないわ、と思った私は大丈夫です、とだけ答えた。


「ま、気が向いたら着てよ」
「はい」
「けど、」
「けど?」


言葉を区切った彼を見つめたら先ほどまでの笑顔とは違い、それはとても優しく、柔らかく笑っていた。


「来てくれたら佐藤サンにはとびっきりの魔法をかけてあげましょう?」
「…魔法?」
「それは着てのお楽しみ、って奴な」


彼は言うだけ言って、じゃな、と去って行った。
…でも私はこの時のことを振り返って、きっとこの時すでに、彼の魔法にかけられていたんじゃないか、って。
手の中のたった1枚のマジックショーのチケットを握りしめながら彼の後ろ姿が見えなくなるまで追っていた。

.

prev next


bkm

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -