Detective Conan


≫Clap ≫Top

catch me if you can


5


先日の怪盗1412号警視庁侵入事件から、全警官毎朝の入庁時に、


「佐藤七海巡査、捜査二課」
「はい!…痛いっ!!」
「よし、次!」


ボディチェックと言う名の変装チェック…つまり玄関ホールで頬を抓られると言うことから、私たち警視庁勤務の人間の1日が始まるようになった…。


「あの、」
「うん?何、佐藤さん」


赤くなった頬を摩りながらニ課に入ると、既に頬の赤みが薄れ始めた鈴村さんが席に着いてた。


「いつまで続くんでしょうか?」
「あぁ、これ?…警部の気が済むまでじゃないかな?」


これ、と言いながら頬を指差した鈴村さんは苦笑いで答えた。


「つまり警部の気が済まない限りは続くんですね…」
「まぁ…警戒することに超したことはないしね」
「そうですね」


そう言いながら自分の席に着いたけど…。
怪盗1412号の過去の記録を見返して、わざわざこんな警戒態勢の警視庁にまた飛び込んで来るような人物とは思えない。
だけどこれが上司命令と言うのであれば、そうなんだと聞くしかないのだろう。
そんな毎朝のボディチェックが日課となっていたある日、


「結婚式、です、か?」


鈴村さんが休憩中、私に話を持ちかけて来た。


「そう!今月の第3土曜日にね」


なんでも私の直属の上司にあたる中森警部のお嬢さんが結婚されるため、部下である私の出席は半強制らしかった。


「うちの課、って言うか基本警視庁の人間は当番じゃない限り今年入庁したての新人含む全員出席とのことだから佐藤さんもね」
「…あの、」
「うん?」
「私そういうの初めてなんですが、警部とは言え一警官のご家族の方の結婚式に警視庁の人間は全員出席なんですか?」


世間一般の結婚式と呼ばれるものは事前に招待状が配られ、出欠確認がされるものだ。
でも今回はそんなことなく式まであと数週間に迫った今日、突然半強制だと告げられたため、疑問に感じたことをそのまま口にした。


「あぁ、今回は特別だよ」
「特別?」
「結婚されるのは確かに中森警部のお嬢さんだけど相手がね」
「お相手の方が何か?」
「相手の男の名前は白馬探。白馬警視総監のご子息だからさ」
「あぁ…」


鈴村さんからの答えに、ようやく納得…というか腑に落ちた気がした。
中森警部のお嬢さんの式ならば、ニ課はまぁ、全員参加でも不思議じゃない。
そしてそのお相手が白馬警視総監の息子さんならば、警視庁の人間全員出席と言うことも、頷けた。
私のような末端にまで声がかかる、と言うことはかなりな規模で、各界著名人も来るのではないだろうかと思う。
…と、なれば、だ。
迂闊な格好で出席するわけにはいかない。
でも親戚の結婚式以外での結婚式と言うものが初めてな私は、美和姉ちゃんに相談してみようと非番を使って美和姉ちゃんの家にお邪魔させてもらった。
…けど、


「白は花嫁の色だから白以外の失礼の無い服装ならなんでもいいわよ」


あぁ美和姉ちゃんてこういうことはアバウトだったわ、と本人からの言葉に心の中で思っていた。


「美和子。あなたそういうざっくりとしたアドバイスしか出来ないの?」


そんな私を見透かしたかのように、美和姉ちゃんのお母さんであるおばさんが口を挟んで来た。


「七海ちゃんはそういうところに着ていけそうな服持ってるの?」
「いえ、そういうものは…」
「そう、じゃあ私と一緒に貸衣装行ってみる?」
「助かります」
「いいのよ。可愛いの見つかるといいわね」


そう言って笑うおばさんは、お母さんが亡くなってからたまにこうして、母親代わりのようなことをしてくれていた。
だから今回もその好意に甘えて、


「あら!その淡いパープルのワンピース素敵じゃない!」
「そうですか?」
「えぇ、こっちの方が良いわよ!」
「…じゃあこれにします」


おばさんに付き添われ中森警部のお嬢さんの結婚式に出席するための衣装を決めた。


「佐藤さん!こっちこっち!」


そして式当日。
杯戸ホテルの大広間を貸し切っての披露宴は、「披露宴」と言う響きとは対象的にいかにもな強面な男たちで埋め尽くされていた。
チラッと新婦側の列席者を見るけど、一体誰の結婚式なのかと言うほど、明らかに「親の関係」と言う人たちが溢れかえっていた。


「あの、鈴村さん」
「うん?」
「何だかさっきから視線を感じるのですが…」
「あぁ!そりゃあ佐藤さんの初のパーティドレス姿だもの。みんな見るに決まってるじゃない!」
「なぜ?」
「なぜ、って佐藤さん有名人だから。警視庁内で」


目の保養くらい許してあげて、と鈴村さんは言った。
…目の保養、ね、と今さっき言われた言葉を心の中で反復していた。


「警部!今日はおめでとうこざいます!」
「おめでとうございます」
「あ、あぁ、鈴村に佐藤か。わざわざすまないな」
「あれ?警部目が赤いですよ?」
「煩いっ!」


式が始まる前に「花嫁の父」である中森警部と話すことが出来た。
…中森警部のところも、うち同様父子家庭だそうで、もし仮に私にこういう日が来るんだとしたら、うちのお父さんも式の前から目を赤くするんだろうか、なんて考えていた。


「おじさん!」


その時ちょうど、中森警部に声をかけてきた若い男性がいた。


「…あぁ!快斗くん!」
「おめでとうございます!」
「わざわざすまないね!青子に会ってくれたかい?」
「いやー、いくら幼馴染だからって、新郎より早く花嫁に会っちゃマズイかと思って」
「ははっ!君らしくないな、そんなこと言うなんて」
「失礼ですね!僕だってそれなりに大人になりましたよ?」


快斗くん、と呼ばれた男の人は会話の内容から中森警部のお嬢さんの幼馴染だと言うことがわかった。


「やぁ、快斗くん。久しぶりだね」
「あれ?えーっと、鈴村さん、でしたっけ?」
「そう!…高校の頃、青子ちゃんと現場に出入りしてた時以来だもんね」
「そうそう。アレからもう随分経ちましたからねぇ」


ニコニコと笑いながら鈴村さんと話していた快斗さんは、急に真顔で私の方に目を向けた。


「ところでそちらの女性は鈴村さんの恋人ですか?隅におけませんね、鈴村さんも」


その言い方は誰が聞いても鈴村さんの恋人か何かだと思ったのであろう言い方だった。


「あぁ、違う違う!この子はうちの新人の、」
「佐藤七海です」


鈴村さんの言葉に続き名前を告げ、深々と頭を下げた。


「へー、二課にもついに花が入ったんですね!…初めまして、黒羽快斗です」


そう言いながら


「どうぞ、あなたを飾る1つに」


何も持っていなかった手から瑞々しい葉の色が目を引くコサージュを出し、私の左胸辺りにそっとつけた。
…私が今着てる淡いパープルが1番引き立つ反対色の黄緑が目を引くコサージュを…。


「快斗くんは駆け出しのマジシャン、だったよね?」


彼の一連の行動を見た鈴村さんが口を開いた。


「『駆け出し』は余計です」
「確か今日の余興も快斗くんがするって聞いたけど」
「えぇ!白馬にどーしても!って頼まれましたから」
「俺の口から言うのもなんだが、快斗くんのマジックはプロ顔負けだから見る価値あるぞ!」
「おじさん、俺もうプロなんですけど…。と、そろそろ俺も下準備しねぇとだな。じゃあえぇーっと、佐藤さん?」
「はい?」
「俺の『余興』楽しみにしててくれよ?」


パチン、と音が出そうなほどに綺麗にウィンクをして彼は会場へと向かった。
…今思い返せば私はこの日、この瞬間から彼のマジック…ううん、彼の「魔法」にかかっていたのかもしれない。


「ご列席の方、着席願います」
「佐藤さん、行こう」
「あ、はい」


この時にそんなこと気づくはずもなく、鈴村さんの声に、胸元のコサージュに目を落とした後で会場に向かった。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -